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剥ぎ取りと屍骸処理の後、野営地点まで前進

さきの闘争現場に戻り、前衛の死体がまだ漁られもせずに放置されてるのを確認後、散乱しているものを片づける。

真っ先に巾着、それからお手製の防具っぽい燃料の足しになるものや、襤褸や肌着の残骸なども剝げるだけ剥いでぐるぐる丸める。


すっかり剥ぎ取ると、死骸は枯れた草むらの中へ引きずり込んで隠し、射手と前衛合わせて八人全員分を斜めに重ねておいて、長い杭、彼らの木の槍でもって、骨盤の穴を次々に尻から下腹へ刺し貫いて、連ねてしまう。

死体の無惨で変則的なメザシ、いや目刺しじゃないな、謂わば尻刺しの出来上がり。


これで、死骸が一纏まりになったから、大蛇が呑み込もうとしても難しくなったし、野犬が食い散らかすにしても、重さであまり遠くへ引き摺る事は叶うまい。

つまり、帰路に骨素材を取り出せる可能性が得られる。


一体化を少しでも確実にするために、貫いた端っこから死体が引き抜かれないように、何か細工をしたかったが、何しろ突き刺した箇所が箇所なだけに不潔極まりなく、このうえ触れて手を汚すのが憚られた。


じゃあ地面に突き刺して縫い留めようか。

そう思ってると、周囲を見張ってるマサに、


「それ、骨を採るんだろ? ならさ、川に沈めておいた方がよいのでは?」


と言われて、魚が肉をつつくだろうし、そうかも……と思ったが、今更もう遅い。

この重さを二人でも川縁へ運ぶのは……。


でも、やった。

一体化して重たいのの下へ残ってる杭を挿し込んで、梃子の原理を利用して、マサと二人で少しずつ押し転がし、川縁まで運んで、水に落として流れに浸し、川底へ串刺しにしておいた。

頑張った。


ところが、そうしてから、


「あれ、でも雨で増水したら、さすがに流されちゃうんじゃないか?」

「あ……」


とバカな二人は揃って頭を抱えたが、今更気づいてももう遅い。

労多くして功少なしの見本のような二人であった。


一応、気休め程度に縄掛けして岸辺の木に留めることも考えたが、水に入って汚物塗れのそれに近寄って作業したくなかったので、やらなかった。


「もう、いいよっ ……ちくしょぉ……」

「ああ……」


まあそれはともかく、死体は片づけたし、あとはいつも通り、剥いだものの運搬だ。

残ってる木の槍と、彼らの襤褸でもって即席担架を例によって例の如く組み上げて、それにどーでもいー戦利品を縛り付けた。


まだへし折られた杭があったが、手を付けずに道端に転がしておく。

そういう目印になるものはそのまま残しておいた方が、帰路に見つけやすくなる。


それから急いで、街道の地面に引き摺り跡を残しながら、ゆっくり先行して少し距離をとって止まっていた本隊をマサと小走りに追いかけた。


--


全体として速足で進んだので、午後早めに野営地点に到着した。


トヨに警戒してもらって、野営地を小陣地風にする。


以前に来た時の段差がまだかなり残っていたので、先ずはそれを補強する。

これで上流のカツト側からの攻勢だけはかなり防げるようになった。


まだ野営地の街道側と下流側は開放なので、遠くから敵の射手が狙いを付けて撃ち込んだり、夜闇の中から現れた敵がすぐに肉迫するのを妨げるように、即席の防御工作物を配置する。

その為に、どーでもいー戦利品を載せて来た即席担架をバラして、木の槍などは半分に切って杭にして地面に石鎚で打ち込み、その間に襤褸などを張って、菰で囲った外側へ配置した。

野営地点は少し周辺よりも高く、接近には緩やかな斜面を登って来るので、目隠しにしても、足の引っ掛けにしても、小さな障害物で大きな効果が得られる。



一応の陣地造りを終えると、交代で川で軽い洗濯と水浴をしてから、ぼくはトヨと交替して見張りに立ち、皆は休憩に入った。

炙り焦がした地面に菰を敷き、その上に円座を置いて腰を下ろし、継ぎ接ぎの革マントに身を包み、草汁を淹れてもらって啜っている。

ぼくは乾し肉の欠片をくちゃくちゃ噛みつつ、楯を地面に置いて、その上に手をついて休める。

右手には棒網の棒を握り、網はすぐに振り回せるように既に傍らに投げ出してあった。


--


その晩、またぼくが見張り番に立っていた時に、眼下に広がる低湿地の草むら、少し離れたところで騒ぎが聞こえてきた。

耳障りな奇声はどうやら小鬼らしい。

それが何かと争っているようだ。

相手が何かは知らないが、小鬼が近くにいるのは宜しくない。


「おい、起きろ!」

「なんだ?」

「なんか、外で小鬼が騒いでる!」


眠そうに起き上がるトヨマサに女性陣の目覚ましを任せておき、ぼくはすぐに予備の薪などに着火して、斜面下へ抛り、視界を拡げる。

小鬼と何かの争っている場所はまだまだ遠いから、こうしても敵影は見えないが、忍び寄って来れば早めに気づける。

猶、菰の内側では炭火で暖をとっているので、真っ暗闇でも蛇のような熱感知でもできない限りは、ぼくたちが野営していてもそうそう気づかれないと思われる。


依頼人さんも起きて、静かに遠くの争いに耳を澄ませている。

トモコがぽつりと呟いた。


「ねえ、わざわざ火を投げて、ここに誰かが居るって教える必要はなかったんじゃないの?」

「うん……早まったかなあ」

「下の火に近づいて来ても、ここは暗くしたままだから、登って来ないかもしれないけど……」


トモコに指摘されて、反省。

どうもぼくは、必要なくても機会があれば闘おうとするきらいがあるな……。


争いの結果は、小鬼は負けて逃げ散ったらしく、気配が失せた。

小鬼の敵も又、斜面下方にぼくが点した火影にも近づかず、何処かへ去って行ったらしかった。


そうして、その夜は眠りを妨げられはしたものの、無事に済んだ。


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