撤収 その2
翌日、やっと荷物の分別と整頓が終わった。
それとは別に、森戸の加工拠点にて大金の隠匿を実行。
森戸に来る前にラクマカ北の荒野で最後に山賊の幹部から剥いだ、銀貨52枚、銅貨58枚は、そのままトモコの管理する共用金に繰り込まれていた。
山賊の頭目からぼくが剝いだ、皮に包まれた宝石5つ、銀貨571枚、銅貨18枚については、宝石はトモコが既に管理している魔女の家からの戦利品と一緒にして、銀貨の端数と銅貨は当然共用金に繰り込む。
銀貨500枚は森戸の仮拠点の、先に銀貨500を隠した寝所の大木の上方の洞へ一緒にして隠す。
それとは別の大木の上方の洞へ、皆から預かった銀貨1000枚を仕舞い込んだ。
ついでに、トモコが常に携行するには少し多すぎる額になる宝石約二十個と金貨32枚も一緒に隠匿した。
これで今トモコが管理している共用金は銀貨110枚、銅貨約600枚。
あと依頼札はもう今は無いが、神殿での三割引の札やラクマカでの各種許可証もトモコの懐にある。
各人の巾着にあるのは大まかに言って、銀貨約220枚、銅貨約100枚、それと旅券の札。
--
今日は、ラクマカの小川の作業場に置いて来た残りの肉や素材を持ち帰る為に、また筏でラクマカへ出る。
皆、今回はほぼ武装しておらず、海で汚れても良い地味なシャツと帯とズボン程度で出かける。
それにいつも通りあちこち縮めた装帯を締めて、中身をできるだけ仮拠点にあけてきて軽くなった背負い籠を背負う。
また、筏に揺られてあちこちぶつけたり、運搬作業をするから念の為に、盗賊から剥いだ、使い捨てにしても良い手甲脚絆をしっかり巻き付ける。
足元は草鞋。
今、予備が多めにあるので、今回の運搬作業で使い潰してもいい。
それにできるだけ革製品は海水に浸けたくないから、ブーツは森戸の仮拠点に置いて出かける。
どうせ行く先はラクマカの街とその北の農地だけだし、武器も最小限にする。
ぼくは装帯のベルトに棘棒一本だけ挿す。
マサは装帯のベルトに革の鞘に挿した石斧を提げている。
一応ぼくも背負い籠の中には、何らかの作業が発生する場合に備えて、石斧頭や石鋤や石鑿など、必要な道具は一通りきちんと仕舞ってある。
トモコが以前樹皮紐を材料に、本拠の家に接地した原始的な機で織ってくれた粗い布めいたものを使って作った道具入れに、石器が互いにぶつかり合わないように挿し込んである。
--
森戸から海上を漕ぎ渡り、ラクマカに着岸して、筏をいつもの場所に留める。
依頼遂行の間はおざなりにしていたことを、あちこちで細々と色々きちんとしているうちにどんどん時間が経つので、忘れないうちに宿屋へ行って、整備を頼んだ戦利品の装備類を受け取り、支払いを済ませた。
纏めると整備が18点あって銅貨360枚支払い、破損修理実費も銀貨10枚支払い。
これで共用金残額は銀貨100枚、銅貨約240枚。
トモコの装帯に付属する小物入れが半分は革製でなく蔓籠なのを、結局ぼくのになった今回の山賊幹部からの戦利品装備の中から革の小物入れを三つ分けてあげて、代わりに蔓籠の小物入れ三つを全て貰い受けた。
これでぼくの装備も標準的な硬革鎧の一式になって、マサと御揃いみたいになったが、兜は皆のは骨片で補強されていて、ぼくのだけがそうでないから、森戸へ戻ったら補強したい。
この硬革鎧の一式は骨鎧よりは少し重くてやや嵩張るから、山賊の頭目を倒したこの前の時のようなアクロバティックな真似はできない。
ディックという盗賊の頭目を倒した程度の技であれば、技自体は繰り出せると思うが、鎧が重い、つまり慣性が大きいので、あの時に装着していたとしたらあんな風には動けず、異なる展開になっただろう。
今までほど瞬発力を活かすことはできなくなるから、立ち回りにはもっと慎重にならないといけない。
それが少し厭だが、その分奇襲には少し強い。
少し、程度の差。
取り敢えず、この硬革鎧一式は装備しておく。
上腕と腿まで覆いが付いた胴鎧を被って脇の留め具を左右二か所ずつ掛け、強化された革の手甲脚絆で手足の露出部分を減らす。
継ぎ接ぎの擦り切れた革のマントを肩に掛け、足にもコンバットブーツを履いた。
最後に面頬付きの硬革兜を被る。
装帯のリサイズが面倒なので、装帯は背負い籠に仕舞ってしまう。
いつもならマサ一人だけが武装してたりするところを、今だけはぼく一人が防具に身を固めて皆のガードマン役。
それもまた好し。
--
街の北へ。
北門を出て、農地の縁まで街道を進む。
小川の即席作業場に着くと、残しておいた担架二台と荷物が無事に残っていた。
良かった。
早速、マサとぼくとで曳いて、来た道を戻り、ラクマカの南の砂州までずっと歩いて行く。
ラクマカの街の入口に近い、林に少し入ったいつもの所に来た。
今夜はここで野営。
早速背負い籠から出した菰を繋げて野営地を囲み、中で焚火を熾す。
水場で埃を洗い流してきて、焚火で温まり、地面に敷いた菰と円座に座り、駄弁っているうちに暗くなったので、いつものように交代で見張りを一人立てて、休む。
翌日、森戸へ戻った。