盗賊との闘い
マサへ突っ込んで来る敵勢に気を取られつつ、俺も投げ出して広げた網を、棒を高く掲げて、ぐっと力を込めて振り回し始めた。
そうすると矢の良い的になってしまうので、すぐにまた、ひゅんっひゅんっ! と枯れた草むらの中から射かけてくる。
顔だけは刺さったら怖いと、左前腕を前に立てて護ると、胸と腹に飛んでくる。
一本の矢は鎧に中り、撥ね返る。
もう一本は、左前腕の肘近い手甲相当部分に当って、表面の骨の隙間に喰い込み、下地の野犬の軟革を破り、でもそこで両側から押える骨の抵抗に負けたらしく、浅手。
すぐに矢を引き抜いて、背後へ抛り、女子に回収させておく。
矢が鬱陶しいので、遅まきながら思い出した頭の上に巻いてある矢避けの簾を、少し痛む左手で留め紐を解いて、パラリと顔と首の前へ下ろす。
胸と腹の装帯を保護する簾は最終確認時に既に展開済なので、これで矢は射手へ正対していれば大体防げて、手を翳す必要も無い。
しかし、ぼくはマサへ突っ込んで来ている連中を牽制しようとしたのに、これで出遅れてしまい、マサは一斉に突っ込んできた木の槍六本を相手に、楯を巧く使って三本までは何とか凌いだが、残り三本は、一本はトヨが防いだが、二本が鎧に突き立てられた。
マサは一歩引きながらそれを受けて、貫通させない。
そうして石斧で一本の槍を叩き折る。
が、槍先をすかされた三人も目の前に迫っている。
マサ、今や危うい、か!?
いや、距離が詰まればそれはマサの間合い。
野犬先生に鍛え上げられたマサ、石斧を素早く振って、賊の頭や肩や腕をカチ割っていく。
トヨも楯で杭をいなしたあと、すかさず跳び込んで槍持つ腕に棘棒で一撃加えて、悲鳴をあげた男からステップバックして間合いを取り、一方では不意打ちへの警戒を怠らず、他方では他の野郎への牽制も続ける。
トモエコは楯の蔭で矢を防ぎつつ、足元の石ころを拾ってはマサの敵へ投げつけてる。
そこへ、やっとぼくが棒網の回転を上げて、場所を移動してマサの背後に立って、頭上からカバーするように錘付きの網で威嚇しだした。
威嚇というか、左端の奴には顔にビシバシ当てる。
悲鳴をあげて向きを変えた奴の首へ更に当てて、痛めつけ、倒れたので、別の標的へ当て始める。
大振りだから、避けられてしまうが、相手の注意が散漫になれば、マサやトヨの餌食だ。
トヨはぼくが機能しだしたので、既にカバー下に入って、弓を取り出している。
敵は後詰めが出て来ないので、少敵らしく、こちらが反撃に入ると必死に抗っていたが、全身隈なく骨で鎧っている俺達に深手を負わせることはできず、一人、また一人とトヨに射貫かれて斃れていった。
槍持ちが全員死ぬとすぐに、俺は単騎で草むらの中に潜んでいた奴らへ楯と棘棒を構えて突貫した。
「あっ」
と背後で声があがる。
普段なら、罠を警戒してこっちからは突っ込まないのだが、既に奴らは草の中を移動してきてるから、仮に最初の地点に罠があったとしても、今居る地点にまでそう都合よく罠があるとは考えなかった。
ガサガサと草むらを逃げる音を追いかけて、草との抵抗を減らす為に楯を斜めにして突進する。
足元で枯草が板に踏みしだかれてボキボキ折れ砕ける。
黒い影!
敵影!
むこうも背後に迫る俺に気づいて
「あうわああっ」
と悲鳴をあげるのへ、容赦なく棘棒を引っ掛けると、痛がってまた悲鳴を新たにするので、それを蹴り倒しておいて、その前を同じ方へ逃げてる奴へ迫り、
「バカがッ!」
と一喝してこれも棘棒を肩へ振り下ろして蹴り倒す。
さっきの奴は立ち上ったが、こっちの奴の脚に先ず峰打ちを喰らわして立てなくしておき、さっきの奴へまだ速力の出せないうちに再び襲い掛かると、必死な形相で矢を番えて、間近から射込もうとしてくるので、楯を構えて跳びかかると、男は力み過ぎたのか、射損ねたらしい。
番えた矢が外れて手に残ったまま、弦だけ戻って、うわあっと悲鳴、そこへ楯をぶちかまして、打倒した。
すぐにまた棍棒で足を打ち、今度はしっかり叩き折る。
そしてまたさっきの奴へ取って返し、こちらは打ち身どまりだったから、痛がってはいるが、必死に逃げ出そうとしていたのへ追いついて、絶望の顔を向けてきた奴へ棘棒で一撃喰らわして倒し、こちらも念入りに足を叩き折った。
これで射手は二人とも逃げられまい。
あとはうつ伏せに蹴り転がして、腕を背後から叩き折っておいて、泣きわめくのを構わず背後へ両手を捩じり上げて縛り、そうしておいてから一人ずつ枯草の草原から引きずり出してきて、街道近くまで持って来た。
「トヨ、トモとエコと依頼人さんを連れて、聞こえないところまで。頼む」
「あァ」
マサだけ念の為の援護に残して、依頼人さんに聞こえないようにして拷問にかけ、巣穴や仲間や背後関係などについて吐かせ、処刑した。
二人とも片づけてから、弓矢や巾着など、僅かなものを剥ぐ。