表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/51

カツト村へ出立

「疲れたけど、護衛が早く終わってよかったね」

「うん、日程に余裕ができたなあ。今日はのんびり行けるだろ」

「お湯沸いたよ~、お茶淹れるね~」


夜明けの広場の木の下で、今日も一日の始まり。

未明から少し眠っただけなので、寝不足で頭がぐらぐらするけど、海藻と乾し肉と野菜の僅かな切れ端で最小限の朝食を摂る。


食後にお茶を貰い、水場で洗面して、用を足せば、だいぶシャンとしてくる。

乾しておいた装備を身につける。

朝晩冷えることから、腿から下の足元だけは防具を着けたまま寝た。

それが緩んでるのを締め直し、腰から上に鎧下と骨鎧を装着してゆく。


「今日はカツトへ向けて出掛けるんだな?」


分かり切ったことを確認してくるマサへ、


「うん、そうだよ。手紙の配達な」

「ねえねえ、今朝はあまり急がなくてもいいんだよね?」


途中で野営するわけだが、ネフワア村から街道途中の野営地点までの距離はあまり遠くないと知っている。


「うん、一休みしてから少し速足で行けば余裕だろうね」

「じゃあさ、もう使いきっちゃったから、朝市でお野菜を買い足そうよ」

「そうだな、じゃあそっちは頼む。オレはトモと依頼を確認してくる」

「わかった」


トヨに任されたので、背負い籠を拾い上げて、エコマサと一緒に買い物へ行く。

トモトヨは兵営に、何か依頼が出ていないか見に行った。


--


朝一での買い物を終えて広場に戻って来ると、トモトヨが既に待っていた。


「どうだった~?」

「護衛が一件あったわ、カツトまで」

「どうするんだ?」

「今から会いに行く。依頼を出しているんだから、もう準備は出来てるわけだし、明日迄待たせなくてもいいだろ」

「じゃあ、行こう。場所は?」

「それも訊いて来たわ。行きましょう」


ぞろぞろと村中央部の北東門から出て坂を下り、右折して『葛の原』を抜けてゆく。


「随分と村の東の方に来たけど、段々畑の農家さんとか?」

「そんな感じかも。お仕事は知らないけど、こっちに住んでるわよ」

「ふ~ん」


十字路を直進して、緩やかな上り勾配が更に緩やかになって、右手の斜面の枯れ芒の中の小道をぐんぐん登ると、高台に出て、そこに一軒の家が建っていた。

小さいが、石の土台を据えた上に厚みのありそうな壁で、まるで瓦屋根ではないだけの土蔵のような感じだ。

小さな窓が上の方に二つある。


家の塀の門のところに呼び鈴があった。

トモコがその紐を引くと、カランカランと夜明けの空に鳴り響いた。

少し待っていると、上の窓から誰かが首を出して、


「はあい、誰ー? こんな早く、もしかして傭兵さーん?」

「そーですー。アイレイさん、お早うございます。以前にもラクマカまで護衛致しましたが、改めまして、トモコです」

「ああ! ごめんなさい、少し待っててね!」

「朝早くからすいません」

「いいわよ、待っててねっ」


急いで家の中に引っ込んだ女性が、出かける支度をしている間、


「前にも護衛した人だったのか」

「そうそう、とても護衛しやすかった健脚の人」

「昨日の……えと、ヤムジッダさんも健脚だったね」

「あの人はね……久しぶりに尾いてゆくのが少し大変だった」

「そうそう」

「じゃあ、カツトまでアイレイさんと二日間か。野営中の盗賊が少し心配だな」

「今日は速足で行って、早めにしっかり掘って、積上げようよ」

「おう、そうだな」


などと駄弁ってると、眼前の家の中で、行ってきまーす、という声が響いて、野太い唸るような声がそれを追い、女性が引き戸をがーっと開けて、すぱーん! と閉めて、出て来た。


「それでは、今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。しっかりお守り致します」


挨拶を交して、依頼札と旅券を確認し合い、村の北端へ移動する。


北端の関門前で小休止して互いに旅装を最終確認、出門手続き後、門をくぐり、幾つか踊り場のある石段を下りて、下の道を右へ下りて行き、川沿いの街道に入り、北へ向かう。


--


「あ、何か居るぞ」

「護ります」


トモエコが楯を構えて依頼人さんを庇い、先頭を行くトヨも背後のマサと位置を入れ替わり、ぼくは最後尾で警戒続行。

基本的に対処はマサにしてもらうが、圧倒されそうならぼくもすぐに出られる位置に移る。

トヨは不意打ち警戒。

全員、楯防御。


「盗賊だっ!」


ひゅんっひゅんっ、と立て続けに射かけられた。

矢の射手が少なくとも二人、後方に潜んでる。


盾で受けて防ぎきり、左後方へ楯を向けて警戒しつつ、街道の進行方向へ後退してゆく形で、行進を再開。

トヨが先頭位置に戻ってる。


盗賊は草むらの中をがさがさ音を立てて追尾してこなければならない。


「をっと! こっちからも来やがった!」

「やっぱりね」


トヨの叫び声があがり、予期していたのでぼくがマサに代って矢面に立ち、マサはトヨの方へ移動して近接衝突に備える。

トモエコは川を背にして楯で依頼人さんを庇い続ける。


盾を構えながら、背負い籠を落とし、ここで踏ん張って闘う覚悟をする。

盾の陰で肩に担いでいた棒網を下ろすと、バラリっと網を投げ出す。

マサとトヨも以心伝心、籠を背後に落とし、トモがそれら三つの籠を楯の傍まで引きずって下がる。


ワアアアアッ! と喚声を上げて、木の枝を削って杭にしたものを両手に構えた汚い野郎どもが突っ込んで来る!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ