7話 魔人との戦闘
その頃、外のオーラたちは眼前の森を見据えていた。
何かがくる。
やはりフォレストガードではない。
もっとまがまがしい気配。
数も多い。
奥の暗がりで何かが閃いた。
刀だ。
片刃の長刀が、わずかな木漏れ日を反射している。
「誰だァてめぇら?」
囁くような低い声が響く。
何十体もの獣を引き連れ、尻尾の生えた人型のなにかが姿を現した。
あたりに殺意が立ちこめた。
「未確認の獣人……」
反射的に理解した。
目の前の化け物が報告にあった獣人。
陽動部隊に釣られたと思っていたが、どうやら違うらしい。
ソレは獣というカテゴリに収まらない圧を放っていた。
魔人と言ったほうが正しいのかも知れない。
竜のような頭と、2メートル半はあろうかという体格。
そして言語をあやつるだけの知能。
モンスターたちの組織的な行動はすべてこいつが原因か。
背後の二足歩行の獣たちも、間違いなく強兵だろう。
鋭く長い両腕の鉤爪からは、得体の知れない液体がしたたり落ちている。
なめてかかると痛い目に遭うどころか、呆気なく死ぬだろう。
「その木ん中に『勇者』がいると見たァ」
「私を倒したら中を覗いていいですよ」
「じゃあすぐ覗けるナァ」
魔人が姿勢を低くし、わずかな土ぼこりを残して消えた。
次の瞬間。
背後に特大の殺意。
振り返り盾を構える間に、その殺意は再び逆方向へ回り込む。
この間わずか0.7秒。
丁重なフェイントである。
オーラは反応しきれなかった。
振り上げられた剣の運動エネルギーを魔力障壁で吸収しきれず吹き飛ばされる。
土のついた顔をぬぐう彼女の前には、すでに剣を構えた敵の姿。
とっさにしゃがむ。
頭上を剣のひと薙ぎが通過した。
しゃがみ姿勢の無防備な脇腹に重い蹴りが入った。
マジックアーマーは貫通され、再び吹き飛ばされる。
焦る思考をしずめ、演算。
からだの周りで中級《ランク4》の爆発魔法を連続で発動する。
すぐ横に迫っていた敵はバックステップで距離を取り、戦いは一時的に膠着した。
「まぁまぁだナァ」
敵は細長い舌で刀をなめている。
こちらの隙をうかがっているようだ。
まわりの兵士はすでに敵の獣たちとの戦闘に入っている。
自分がこの敵に釘付けにされていたら、全体に指示を出せるものがいなくなる。
まずい。
クレスを守り切るには、目の前の敵を倒すしかない。
1秒に10を超える敵の斬撃が放たれた。
大ぶりで軌道も読みやすいが、何よりも速すぎる。
敵の攻撃が来る方向へアバウトに盾を突き出し、受けきれなかった斬撃はマジックアーマーで対応。
攻撃に転じることは不可能。
わずかな余裕を用いて、洞の中の医療班へとテレパシーを送る。
(治療はどうなっていますか)
(今終わるところです。容体は安定しています)
オーラのテレパシーに返答した後、医療班の班長はクレスの腹に手をやった。
「『特大回復』」
自然治癒の活性状態を強化、キープする魔法をかけ、処置はとりあえず完了。
蓄積していた疲労を重点的に取り払い、内臓の傷と肋、腕の骨折を治した。
あとはクレスを安全なところまで運ばなければいけない。
「クレス様、意識はありますか?」
『勇者』は力無くうなずいた。
「行きましょう、クレス様」
「放っておいてくれ」
「それはできません!ただちに友軍が外の安全を確保します。ですのでそれまで……」
「……だめだ」
兵士の言葉が遮られる。
彼の顔を見上げたクレスの目は、どうしようもないほどに怯えていた。
「放っておいてくれと言ったんだ!俺を!」
必死の叫びであった。
「ダメなんだ。俺はもうダメなんだよ」
「何がダメだというんです。あなたは勇者です、生きなければ!」
「俺は『勇者』じゃない」
木の洞の入り口の近くで爆発が起こった。
外ではオーラをはじめとする兵士たちが必死に戦っている。
早く逃げる体勢を整えなければ。
整えなければいけないのに。
「逃げたい。逃げたい逃げたい死にたくない」
「なら逃げましょう!なんで……」
「逃げたい。でも俺はここで死ぬべき人間だ」
よりいっそう小さくうずくまってしまった彼の声は、ひどく震えていた。
評価の方よろしくお願いします!
中途半端にヒューマンドラマぽい要素入れると安っぽくなっちゃいますかね…?まーいっか!