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タクティカルな魔王討伐のススメ  作者: サブ
第1章
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4話 陽動

 翌日の昼過ぎ。

 セメス・ボナバルド部隊長指揮下の本隊520名が行軍をはじめた。

 彼らの目的はあえて敵の索敵に発見され、敵の本隊をおびきよせることであった。


 午前のうちに集まった周辺の各部隊からフィジカルに優れた者を選り抜いた。

 クレス・クーの救出が終わるまで、敵の本隊の追撃に耐え切らなければならないからだ。


「先行した偵察部隊はすでに配置につきました」

「おっけー。スムーズじゃん」


 あとはこちらが敵の索敵網に引っかかればいい。

 あくまでも自然に。

 そうすればオーラの救出部隊がクレスを見つけてくれる。


 彼はオーラ・ルフェイブルという副官を非常に信頼していた。

 入隊時期も同じ。

 配属部隊も同じ。

 当時セメスが19才、オーラ18才。

 人材不足に悩まされる軍の中で頭ひとつ抜けていたふたりはすぐに友となり、互いに切磋琢磨に励んだ。

 女性の方が魔素の吸収効率に優れるという生物学的な特徴もあって、魔法の撃ち合いにおいてセメスはオーラに勝ったことがない。


 出会いからはや6年。

 彼らの関係は兄妹も同然であった。


「おっ、そろそろ敵の偵察と接敵しそうなエリアだね」


 暇つぶしがてら、となりに控えている大剣を担いだ小隊長のひとりに声をかける。

 彼は無言でうなずいた。


「大丈夫?久しぶりのガチ戦闘だからって硬くなってない?」

「いや全然。なめないでもらって」


 彼は悪びれるふうでもなく言ってのけた。

 ゆるい部隊の雰囲気のせいで、セメスは幹部たちに良くも悪くも懐かれている。


「俺ぁこの大剣を振り回したくてうずうずしてるんですよ」

「はい、じゃあ上官になめた口聞いた罰でその剣を没収しますね」

「いんや、部隊長には持てないですよ」


 彼は得意げな顔で大剣を軽く宙に放ってみせた。

 少ない実戦の機会をものにするために鍛えあげられた腕の筋肉が、しなやかに波うっている。

 セメス率いるこの部隊も例に漏れず、日々の訓練を欠かしたことがない。

 礼儀の訓練はもう少し増やす余地がありそうだが。


「ごもっともです。そんな重いの持てないです」


 セメスは苦笑いを浮かべながら辺りを見回した。

 深く、静閑なシラカバの森。

 索敵部隊が敵の偵察を見つけたエリアだ。


 セメスは部隊を9つに分け、大きな正方形の陣形をつくって進んでいた。

 中心の大きな四角を、残り8つの小さな四角が囲むかたちである。

 8つの小四角形は戦力配置の流動性の向上に。

 部隊間のスペースは敵の突撃に対する緩衝材になる。

 あらゆる方位、特に側面からの攻撃に対処するための陣形であった。


「右翼第8小隊からのテレパシーです」


 近くにひかえる通信役の兵士たちのひとりが声をあげた。


「敵の偵察と思われる部隊と会敵。フォレストガード4、ゲイザー1」


 ほとんど同時に、はるか右後ろの方で激しい金属音が響きはじめた。

 報告にあった敵の偵察との戦闘が始まったのだ。


「始まったね。がんばって第8小隊だけで倒して」


 セメスの言葉を兵士がテレパシーによってそのまま伝える。


「先行した偵察隊に、たぶんこれから敵の本隊が動くから注意してって伝えて」


 今度は別の兵士が魔法陣を展開し、南北にわたって配置された偵察網へテレパシーを送った。

 あとは敵の本隊が偵察に引っかかるのを待つだけ。

 全隊に停止のシグナルを出し、木漏れ日がまぶしいひらけた場所に陣取る。


 少しして敵の偵察を倒したとの報告が入った。

 軽傷者が2人、死者はゼロ。

 部隊の実力も、情報伝達テレパシー面での連携も、上々である。


 森林地帯を進むこと約50分。

 3回の接敵。

 脱落者はゼロ。

 ついに状況が動き出す。


「グリッドE6の偵察隊からのテレパシー!敵本隊を捕捉!敵本隊を捕捉!」


 なかば興奮したように叫ぶ通信兵。

 索敵網に敵がかかった。


「きたきたきたぁ!オーラの部隊は?」

「すでに北上を開始との報告あり!」

「上々!これより俺たちは東へ移動!なるべく大胆に動いて敵に捕捉され続けるぞ!」


 セメスはペースをややおさえながら、部隊の進路を東へ向けた。

 陽動であることがバレてしまわないよう慎重に、ゆっくりと進んでいく。

 

 この戦いでは接敵のタイミングをいかに遅らせるかが重要であった。

 敵はシルバー・ゴーレムを基幹とする。

 銀がもつ魔素の中和反応によって、魔法の火力は半減してしまう。

 かといって、その硬いからだに物理的なダメージを与えることができる者は少ない。

 工夫たちから借りてきた掘削用のツルハシのおかげでいくらかマシな戦いはできるだろうが、正面からぶつかって勝ち越せる自信はセメスにはなかった。


 敵と戦う時間が長引けばこちらの犠牲は指数関数的に増えてしまう。

 そのため救出部隊のスムーズな『神速』の捜索も必須事項だ。

 あとは『神速』が生きていれば。

 "しがない"王国兵の命をかける価値があるのならば。


 よろこんで戦い抜こう。

 『勇者』への、王への怒りをおさえて。

よろしければ評価の方お願い致します。

セメスの考え方や出生等は当たり前ですが小出しにしていく予定です。

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