3話 会議
索敵部隊が帰ってくる前に、セメスはすでにクレス・クーの救出計画を立てはじめていた。
モンスターの大群と、敵の偵察部隊。
どうも"偵察"という言い回しが気になる。
モンスターにそのような集団行動ができるのか?
ゴブリンやらの亜人種だったということか?
それとも人間、つまり別勢力なのか。
いずれにせよ、あまりにも情報が不足している。
「ネイくん行かせたのミスったか?」
彼がまだ部隊長としての力を蓄えきれていないことは承知していた。
主にオツムの面で。
頭脳の優秀な部下をつけたし、人の助言を素直に聞く彼の性格を信じていたのだが……報告が下手、など予想できるはずがないだろう。
部下が代わってやればよかったものを。
連帯責任として訓練メニューの強化が妥当だろう。
それにしても敵の"偵察"。
ゴブリン、ドワーフ、魚人、巨大アリ。
人間まがいの作戦行動を行えるモンスターは少ない。
しかし、やっかいだ。
それらのモンスターを相手に無策に突っ込んだら、確実に狩られる。
だとしたらこちらも念入りに計画を練っておく必要がある。
「敵の位置が分かれば儲けものです」
オーラがカップに注がれたコーヒーを持ってきた。
「今夜中にもすべての部隊を集結させて、明日の午後には救出したいですね」
「うん」
セメスはもともと、この作戦に乗り気ではなかった。
王の命でなければ。
この地が最前線でなければ。
セメスは他の士官との交代を申し出ただろう。
王に寵愛された『勇者』パーティの救出。
王国民たちの平和ボケの元凶。
危うい現状の上にかりそめの平和を築きあげた張本人である。
セメスはパーティが、勇者が、王が嫌いだった。
「幹部集めて。作戦案伝えるよ」
部隊の中核たちを呼ぶためにオーラが席を立った。
10分後にはネイたち索敵部隊が帰ってきた。
彼らからより詳しい話を聞き、セメスはいくつか計画を加筆修正した。
最も予想外だったのは、偵察をしていたモンスターたちが、いずれも群れる種族ではなかったということだ。
この情報は、作戦立案に大きな影響を与えた。
各部門の長や小隊長クラスの人間がすべて集まったころには、完成した計画の全容が円卓上に光魔法で投影されていた。
「それじゃ、始めよか」
円卓のざわめきが静まる。
「まず、今回の敵は多種多様なモンスターであり、ひとつの組織でもあるよ。索敵部隊が見つけたのは、明確に偵察という意図をもったモンスターの小集団と、主力と思われる対魔法に特化した大集団だね」
幹部の誰もが、ありえないという表情を浮かべた。
当たり前だ。
魔王と王国の戦いにおいて、モンスターの組織的な侵攻といえば、オーガやゴブリン、トロルなどの単種によるものだった。
もちうる戦術といえばせいぜい挟撃や待ち伏せ。
多様なモンスターを寄せ集めたアンチ・マジック部隊?
そんなもの、歴史に類を見ない。
「俺もびっくりしてるけど、敵が知力と戦術をもってることは断定してもよさそう。だから簡単な罠を仕掛けることにした。相手の知能レベルがわからんから、高度すぎる罠を仕掛けてもバカすぎて引っかかってくれないかもしれないからね」
陽動作戦。
セメスはそう言い放った。
敵の組織的な行動から考えるに、『勇者』が本当に敗れた可能性が見えてきた。
クレスは例の座標付近で実際に助けを求めているかもしれない。
「そう、あくまで今回は救出作戦。無理に戦う必要はない。俺が率いる本隊が東側でわざと目立って行軍。敵の主力をおびき寄せる」
西にいる敵の主力とセメスの本隊のあいだを南北に縦断するようにあらかじめ配置した偵察網で、主力の動きを捕捉。
この隙に、救出ポイントの近くに待機したオーラが率いる救出部隊が北上し、クレスを見つけしだい両部隊は撤退。
なんら複雑ではない一般的な陽動である。
「聞いた感じ敵のフィジカルがめちゃくちゃ強そうだから、正面から戦ったら負けだと思っておいて」
円卓に座る面々は静かにうなずいた。
セメスは小隊長たちに役割をふり、より詳細な情報を伝えていく。
戦いが始まる。
読んでくださりありがとうございます!
評価等してくださると嬉しいです。
1話の文字数って何文字くらいがいいんでしょうね…?