31話 合流
『神速』のクレス・クーは、剣に付着したモンスターの体液を振り払った。
谷底の守備隊をほとんど突破している状態だったのだ。
「助けた気にならないでくれよ」
彼らの力だけであのハエの魔族を殺し得たということなのか。
クレスほどの男であれば、この程度の高さの崖なら跳躍で登れるだろう。
先遣隊の長距離転送で消耗した、先頭集団の他の冒険者たちも、崖上までの短距離転送ならばできるかもしれない。
しかし彼らはその数を400に減らしていた。
『憧憬』のサンディ・ノルニエールの規格外なマジックアーマーがあってなお、被害は出ている。
あの強行軍の先頭を走り抜いた猛者たち100人の命は重い。
「谷底の罠に気づいていなければ、死者はもっと少なかった、そうでしょ」
セメスの問いを無視し、『勇者』は兵士をまとめ始めた。
「敵の増援を狩りにいく。ついてくるんだ」
土まみれの先頭集団に号令をかけ、セメスを一瞥してから、戦っているオーラたちの元へと走っていく。
「バチバチですね、セメス部隊長」
「ああ、まあね」
すぐそばでこのやりとりを聞いていた小隊長が口を開いた。
「あのやり方じゃ限界が来る。個の力じゃどうしようもなくなる」
「分かってます。俺たちは部隊長の味方です」
「そんくらい『勇者』が素直だったらいいのにな」
小隊長は笑ってセメスの肩を軽く叩いた。
敵には勝ったが、所詮は局地戦における勝利。
伯領へ向かった先遣隊の安否と回収。
置いてきた補給隊と魔砲兵、その護衛。
そして何より、冒険者陣営との連携。
処理すべき課題は山積みだ。
制御を失って地に落ちた瓦礫が震える音が、谷の周囲に響きわたっている。
魔素の流動、そして血の匂い。
生贄にされた人間たちの死体の山。
疲弊と鬨の声が入り混じる空間で、兵士たちは先の不安を掻き立てられていた。
オーラたちと敵の増援との戦いがひと段落し、太陽がひときわ高く昇る時間。
谷底を抜け、戦況整理のために布陣した平野にて。
たった4名にまで減った先遣隊と合流を果たすこととなる。
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