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タクティカルな魔王討伐のススメ  作者: サブ
第1章
3/32

2話 索敵開始

 翌日の早朝。

 名前のわからない鳥の鳴き声を切り裂くように、森に馬のひづめの音が響く。

 彼らは64名の索敵部隊。

 ここから2キロの森林地帯で馬をおり、8名の8個分隊にわかれて広範囲を索敵する手はずである。


 馬をおりるポイントまでの道のりは、本当に静かだった。

 こだまする鳥の鳴き声、肌寒さ、葉ずれ。

 不気味なほどに平和な朝。

 

 部隊の指揮を任された若きネイ・フルートは、つい3ヶ月前に軍に入隊したばかりだ。

 勇敢さと槍の腕を買われたネイは、すでにいくらかの部下を束ねる立場にある。


 末端であるほど年功序列を無視した能力主義が根をはる、王国軍の奇妙な構造。

 現場が合理的で、中間管理職は立場がなく、中枢が無能。

 組織が終わる日も近いのだろうか。


 馬をおりたネイたちは、各分隊に分かれた。

 セメス・ボナバルド部隊長のいる拠点へとつながる通信機は、ネイの分隊のみが持っている。

 ほかの分隊にはそれぞれひとりずつ下級以上の魔導士がつき、短距離のテレパシーで通信することになっていた。


「4時間後にここに集まってくれ!ルートは打ち合わせ通り。くれぐれも油断だけはしないように、それじゃあ散開!」


 60名を超える人間に堂々と指示をくだす20歳の言葉に、部下の兵士たちは奮い立てられたようだ。

 が、肝心のネイは不安であった。


 『勇者』パーティの壊滅、周辺のパーティとの連絡途絶。

 いまだに信じられていない自分がいる。

 急遽決まった一連の作戦の初動を、まさか新米の自分が任されるとは思ってもみなかった。


 ネイたちの分隊は、クレスがいると思われる地点へまっすぐ向かうルートをとった。

 ほかの分隊はこの分隊を中心にして、扇状に広範囲を索敵するという計画である。


 あたりにモンスターの気配はない。

 拠点の周囲と同じ、やや薄暗い広葉樹林。

 何らかの破壊のあとは今のところ見られない。


 ある程度の魔法的技術を習得済みのネイは、皮膚に神経を集中させた。

 空気中にただよっている魔素に特有のチリチリとした感触が、表皮の感覚器官をつつく。

 魔素の濃度はあくまでも自然だ。

 魔法が使われた戦闘の痕跡はないようである。


「しかし、かの『勇者』が……」


 分隊のひとりが直剣のつかをもてあそびながら呟いた。


「正直俺も信じてねえ。誤伝達っていうオチであってほしい」

「ですね。国王は嫌いですが、たとえ王の息がかかっていたとしても『勇者』は好きですから」


 部下の声はやけに暗い。

 ここにいる誰もが不安を抱えていた。


「同じくだ。気ぃ引き締めてこう」


 枝を踏む乾いた音が森の奥に吸い込まれていく。

 敵らしいものは痕跡でさえ何ひとつとして見当たらない。

 魔素の濃度もまだ正常。


「何もいねえな。討ちもらしがいない辺り、さすが勇者って感じだ」


 さらに30分が過ぎた。

 最初こそ会話は多かったものの、隊はだんだんと静かになっていった。

 この程度の森林ならば行軍による疲労はないが、漠然とした不安と、あたりの異様に静かな雰囲気が、彼らの口数を少なくさせた。

 そしてそれは、彼らの命を救うこととなった。


 戦闘を歩くネイが、静かに片手を上げた。

 分隊の歩みが止まる。

 状況が変わる。

 戦況が動き出す。


 ネイが片手を上げ、後列に止まるよう指示をした。

 彼は前方の茂みをゆっくりと指をさす。

 ヒョウだ。

 グリーンに白の斑点が散りばめられた表皮のヒョウが4匹。

 各々がひし形に並ぶ方陣。

 索敵、偵察、潜入の基本隊形。


 陣の中心には別のモンスターがいた。

 浮遊する大きな目玉と、垂れ下がった紫色の触手。

 黒目がせわしなく動いている。


 ネイは即座に後退のハンドサインを出した。

 見つからないように、音を立てないように、8名の分隊員が後ずさる。

 ヒョウたちが見えなくなるまでの緊張の時間。

 5分ほど後退を続けたところで、ようやくネイは通信機を地べたに広げた。

 

 アレは間違いなく敵だった。

 報告の対象だ。


「フォレストガード4匹に、ゲイザーだ」

「隊長、やつらきっと俺たちと同じ任務を背負ってた」


 洞察力の鈍いネイに変わって、補佐役の兵士が口をはさんだ。


「索敵です。あれは何かを探してる動きだ」

「元々群れで行動するモンスターじゃない。でも今のやつらはフォーメーションを組んでました」


 何かおかしいことが起きていた。

 土魔法をあつかうというだけで、体はほとんど動物に近いフォレストガード。

 五感に優れ、わずかな音も見逃さない。

 

 中心にいたゲイザーは魔力探知と精神攻撃魔法マインド・スペルを得意とする。

 

 これらのモンスターはいずれも、本来は群れでの行動を嫌うのだ。


「ゲイザーはひょっとしたら、テレパシーによる通信役も兼ねてるのかもしれません」

「いずれにしても索敵のポテンシャルが高いやつらばっかりだ」


 こちらが先に見つけられたことは奇跡に近い。

 今すぐに拠点にこの異変を知らせるべきだ。


 と、ネイの脳にテレパシーの前触れ、つまり若干の痺れが起こった。


(こちら第4分隊)


 ネイのすぐ西側を担当する分隊からの通信だ。

 焦りをおさえた声色だった。


(グリッドC4で敵を発見。規模は400。シルバー・ゴーレム、シルバーナイト、中心に未確認の獣人のようなモンスター)


 彼はもういちど情報をくり返してから、退却の許可を乞うた。

 レーダーに反応しなかったこの規模のモンスターの大集団。

 

 ふだんは洞窟内でしか見かけない白銀のゴーレム。

 魔王の手駒であるシルバーナイトたち。

 そして未確認の、獣人?

 この地で明らかにおかしいことが起こっている。

 第4分隊のメンツもそれを理解したようであった。


(こちら第7分隊)


 続けて通信が入った。


(グリッドG5で敵を発見。規模5。フォレストガードとゲイザーを確認)


 自分たちが今見たものと同じだ。

 ネイはテレパシーの内容を分隊の全員に話した。


「まだ索敵したいけど……俺バカだから教えてくれ。やっぱ今帰還したほうがいいのかな」


 彼の問いに、部下のひとりが進言する。


「帰還しましょう。今すぐです」

「分かった、ありがとう!」


 小声で感謝の意を告げ、まずはセメスのいる拠点へ報告。

 通信機のスイッチを押し魔素のタンクを開放して、レバーに手を触れ通信相手を想起する。

 内部の魔法陣に魔力が注入され、テレパシーが発動した。


「こちら索敵第1分隊ネイ・フルート。C4にモンスターの大群!その他グリッドにも敵の偵察が多数!これより帰還する!」

「こちら本部、通信班。了解、帰還を許可」


 続いてほかの分隊へテレパシー。

 空気中の魔素をとりこみ複雑な魔法陣のかたちを思い浮かべる。

 空気中に淡い光をともなって魔法陣が顕現した。

 ここに魔素をからだから注入し、魔法が発動する。


(これより索敵を完了し、帰還する!行きのポイントで合流!)


 不穏な空気が増していた。

 『勇者』の失踪が現実味を帯び始めていた。

更新するとPV?が増えてくれるの嬉しいです。評価ポイント?みたいなものはまだ自分には贅沢か笑

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