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タクティカルな魔王討伐のススメ  作者: サブ
第2章
29/32

28話 敵の守備隊

 『勇者』たちが谷底に入る数十分前。


 放っていたマシナ・ニースたちの斥候がセメスの元へ戻ってきた。


「この先3キロの地点に狭い谷……なるほど、ありがとう」

「さすがに先頭の馬脚が速くて……はぁ、はぁ、その先までは見られませんでした」

「いや、むしろ『神速』に先行できたことがすごいよ。隊の中間でちょっと休憩してて」


 マシナの話によると、この先の地形は左右の尾根が少しずつ高くなっていき、やがて崖になるという。

 その先はどうなっているかわからないが、おそらくメリハリのある盆地になっているとの予想だった。


「谷は伯領までの最短進路上ですか?」

「うん。あからさまなんてレベルじゃないね」


 馬を操るオーラが前を向いたまま長く息を吐いた。


「あるよ、伏兵。もしくは何らかの仕掛け」


 あらゆるリスクと効用を天秤にかけた数秒間の思考。

 その後セメスは決断を下す。


「俺たちの隊は先頭を追わず、左右の尾根上を行くよ」


 セメスは両手を広げた。

 最後尾からの定期報告では、現在この隊は約1,800人の兵力を抱えている。

 少数精鋭といえど、あまりにきついこの行軍でさらに500名が離脱し、今のこの数に落ち着いた。

 馬が潰れ続け、うち数百人は走ってついてきている。


 部隊を分け、谷底のクレスたちを狩るために配置されているであろう伏兵がどちら側の崖上にいても対処できる様にする。


「右の900は俺が、左はオーラが率いるよ!じゃあ分離!」


 オーラの腰から手を離す。


「部隊長の足はどうします?」

「適当な人に乗せてもらう!」


 彼女の馬の後部からセメスは飛び降り、通りがかった馬に乗る。


「お姉さん、名前は?」

「セメス隊所属、フランソワ・ランヌです!」


 セメスを後部に乗せた騎手は、金属製の右腕を手綱から離して敬礼した。


「その腕は?」

「クレス様の救出戦で無くし、義手に」

「右翼900の先頭を走り切る自信は?」

「ここに!」


 ランヌは義手を天へ掲げた。


「よし!ここからは登りになる!できるだけ『神速』から離されないように!」




 谷の両端を走る尾根の上を数キロ進んだところで、目の前にモンスターの一団が見えてきた。


「2列横隊!これは予想ドンピシャじゃない!?」


 規則正しく並んだ槍をもつアンデッドたち。

 戦術性をもって行動してくる『勇者』救出戦の敵が思い出される。

 明らかに守備隊。

 この先に何かある。


 こいつらなら何か策を仕掛けてくる。

 やはりクレス・クーはモンスターの伯領への襲撃によって心理誘導されていたと見るべきだ。

 己の正義感を利用され、何が何でもこの先の谷底(最短経路)を通るように仕向けられた。


 いずれにせよ、この奪還軍にクレスら名だたる冒険者たちがいることは割れている。

 だから敵はこちらの正義感を利用した。


 ならば、もっと深い何かが用意されていてもおかしくない。

 クレスを殺す算段が立っているのかも知れない。


「ここ、ソッコーで突破ね!」


 ネイ・フルートら突破力に優れた兵士はオーラ率いる左翼だ。

 ならば自らが切先となる。


「『鋼の意志(アイアン・ワン)』」


 耐衝撃と膂力を底上げするバフ・スペルを、勢いに乗った先頭50名へかける。


 アンデッドたちはおそらく上位種。

 胸板が不自然に発達しており、攻守共に有用なのだろう。


 しかし、足りない。

 実践経験が少ない"だけの"王国軍精兵がもつ突破力に対抗しうる力が、やつらアンデッドには圧倒的に足りない。


「……っ!」


 ランヌの義手から繰り出される正確無比な湾刀わんとうの四撃。

 目前に迫っていた敵が両断され、早くも突破口ができる。

 バフのかかった後続が傷口をこじ開け、敵陣は崩壊した。


「突破を最優先にするよ!」


 残ったアンデッドたちは放置。

 『神速』たち先頭になるべく引き離されないことが重要だ。


 しばらく行ったところで、さらなる敵が森林の合間に姿を現した。

 先ほどのアンデッドたちと、それら隊列の中央に一際大きな体躯のモンスターが3体。

 分厚いプラチナの大盾と戦鎚をもった、超大型のグール。

 5メートルはあろうかという体は、つい先ほどまでかけられていたであろう隠蔽魔法の影響でチリチリと揺らいでいる。


「やるぞ!」


 先頭の馬足が早まる。


「『堕ち廻る星フォールン・サテライト』」


 セメスの詠唱。

 現れたのは、ロイヤルパープルに輝く12個の魔力球。

 中級上位《ランク5》のエネルギー魔法だ。


 それらはセメスのまわりを規則的に回転し始めた。


「スミファー、馬ありがと!」


 彼女が操る馬を越えるようにして前方へ跳躍。

 慣性に身を任せ、巨大なグールの元までゴツゴツとした地表を転がるようにして駆ける。


 グールの正面に構えていた10体ほどのアンデッドが密集隊形を組み、セメスの前に立ちはだかった。

 突撃の勢いを殺す肉壁だ。


「部隊長!」

「みんなは他のグールを!」


 後続する部下の心配も意に介さず、セメスはグールの足元へ猛進している。


 アンデッドたちの槍がセメスを捉えようとしたその時。

 周囲を回るエネルギー球が反応して、フルオートでアンデッドたちへ撃ち放たれた。

 肉の壁が蹴散らされ、グールとの間には障害物がなくなった。


 不格好に成形された戦鎚の横薙ぎがセメスに襲いかかった。

 決してスピードは速くないが、並の兵士ならその風圧だけで動けなくなってしまうほどの威力だ。

 が、しかし。


 セメスはそれを避けない。

 踏み込んだ左足が地面を割る。

 後ろに引いた直剣がきらめく。


 放たれたのは、突撃スピードとバフ・スペルがのった至高の切り上げ。

 剣撃はグールの戦鎚に正面から当たり、そしてそれを砕き抜いた。


「すぐ追いつく!いけ!」


 背後にたまっていた味方の騎兵たちがのけぞるグールの間を抜けていく。

 セメスが攻撃を避けていたら後続のいく人かは巻き込まれていただろう。


 どんな規模の罠が待ち構えているか分からない。

 最優先事項は兵力を失わないこと、そしてクレス・クーからなるべく離されないことだ。


 憤怒したグールが破壊された鎚を投げ捨て、両手を握って振り上げた。

 叩きつけの構えだ。


 セメスの周囲に残っていた2つの『堕ち廻る星フォールン・サテライト』が、グールの顔面へ飛んだ。

 目潰しをくらい攻撃が中断される。

 十分に力をためたセメスの剣撃が巨大な腹を切り裂くと、敵は力無く崩れ落ちた。


 すぐさまエネルギー球を無数に作り出し、両側のグールに飛ばす。

 援護を受け、セメス直下の精兵たちは残りの2体もすぐに片付けた。

いつもお読みいただきありがとうございます!

やっぱり毎日投稿は必須なんですかね…?

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