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タクティカルな魔王討伐のススメ  作者: サブ
第1章
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1話 知らせ

 セメス・ボナバルド部隊長は、このあたりの地図を見ながら思案していた。

 地図には、彼が指揮する部下の配置と、周辺を進撃するいくつかのパーティの現在地が示されている。

 

 もっとも北にいるのは、かの『勇者』パーティ。

 そこから20キロほど後方を、2組のパーティが追随している。

 はずであった。

 彼らの位置を把握するために派遣した斥候からの連絡が5日間来ないのだ。

 安否確認のための追加の斥候からの定時連絡も昨日途絶えた。


「これじゃあ補給路構築の計画、立てられないじゃんか」


 セメスが率いる王国軍と人夫550名は、パーティを支援する兵站の任についていた。

 パーティが利用できる拠点の建設、そして補給路の確保。

 積極的な戦闘は期待されておらず、あってもパーティが討ちもらした敵の掃討。

 

 王国軍の兵に与えられる任務などこの程度。

 彼ら王国軍は、栄えあるパーティの進撃を影で支える裏方でしかない。


「さきほど確認してきましたが、伝達魔法テレパシーの通信機はどこも壊れていません」

「魔素も足りてるの?」

「はい」


 あらゆる魔法発動のエネルギー源である魔素が足りなければ、こういった魔法器具は動いてくれない。

 通信機は、魔素を使って機器に埋め込まれたテレパシーの魔法陣を稼働させる。

 機器の故障はだいたい魔素の不足か、魔法陣の摩耗のどちらかなのである。

 が、目の前の部下はそのどちらも起こっていないと言う。

 

 たしかに、くだんの通信機は卸したて。

 空気中にただよう魔素を急速冷凍して液体化させた魔力燃料も、まだまだ備蓄はあったはずだ。


「斥候がサボってるか、死んだかの二択よね」


 謎は深まるばかりである。

 ここら一帯はまさに最前線。

 生息するモンスターの強さはかなり高い水準にあるだろう。

 やつらに殺された可能性はある。

 とはいえ先行するパーティは『勇者』を含めた精鋭ぞろい。

 討ちもらしたモンスターなどいるのだろうか。

 

 現に『勇者』パーティの後方に配属されてからは戦闘の機会が極端に減った。

 それゆえに支給された携行兵器も兵数も頭が痛くなるほどにお粗末。

 最前線だというのに、だ。

 王国軍のすべてを司る軍部大臣らの『勇者』パーティへの信頼と、軍をなめ切った態度がよく伝わってくる。


 軍部大臣とはよく言ったもので、実際は王様の息がこれでもかというほどかかった飼い犬だ。

 実際にはその下につく参謀本部が軍の管理を任されてはいるのだが、王政がらみの複雑な利権関係によって、彼らに立場はないといっても過言ではない。


 簡素な拠点の中では、部下の兵士たちが行き交っている。

 泥に汚れている兵士も珍しくない。

 みな人夫と同様に土木作業に精を出しているのだ。

 

 実際、軍の兵士たちの仕事はどこの部隊もこれに似た有様である。

 補給、輸送とその経路の確保、民の避難誘導など、前線に出られる仕事はまだマシだ。

 王都や主だった街の守衛、民の生活を手伝う便利屋、そしてパレードの儀仗兵。

 

 儀仗兵出身のセメスは、民から向けられる厳しい目を嫌というほど経験してきた。

 税金泥棒。

 役立たず。

 ふだんは民の声をまるで聞かない王も、軍の給料を下げろという要望にだけは素直に従う始末。

 体を張るのに安月給、おまけに民衆からの人気はほとんどない。

 

 今王国軍で働いているにんげんたちは、それらふるいにかけられてなお残った信念の人なのだ。


 セメスは再び地図を見た。


 斥候と連絡がつかなくなっていることは事実である。

 平和ボケをするために用意されたかのような今の環境に身を委ねるのもいいが、参謀本部の教えは守らねばならない。

 

 いわく、「常に備えよ」とのこと。

 

 ずぶずぶの権益争いにさらされてなお聡明な本部の、本来なら盛大にたたえられるべきお言葉。

 ゆえに王国軍のほとんどは、日々の鍛錬を怠らない。

 精鋭パーティの活躍との比較の眼差しや、民から向けられる冷たい視線に耐えて、である。


「とにかく行方不明の斥候をお迎えに行ってあげたほうがいいよね。偵察隊編成して。万一に備えて1個小隊規模」


 気になることはあった。

 昨夜、魔力探知機レーダー上に現れた、半径10キロにおよぶ探知不可な領域(ブラック・ゾーン)

 位置が『勇者』パーティの予想進路上にあったこともあり、彼らがあつかう超高出力の魔法による影響かと思われた。

 

 が、しかし。

 昨夜のブラック・ゾーンはきれいな円形だった。

 

 魔法の影響だとしたら、ゾーンはあんなにも図形的になるものだろうか。

 もっと人為的な、たとえば誰かが、その地点の魔法的な現象を意図的に隠そうとしていたとか。


「部隊長、基地拠点ハブ・ステーションからの早馬が来ています」

「通して」


 思案に沈みかけていたセメスに、向こうから駆けてきた部下のひとりが敬礼して言った。

 王都とつながっている受信機は、この辺りでは8キロ南にあるより大きな拠点にしか無い。

 王都からの指令は、すべてその拠点からの早馬によって伝達される。


「はぁ、はぁ、王都からの新たな指令です」


 伝令はひどく疲れていた。

 専用の通信機と50ミリリットル程度の液体魔素があればこと足りるというのに。

 そもそも、特定の通信機同士としか繋がらないという不便な機能を改善する努力をしてほしい。

 

 あきれるほどオールドタイプな、体制と技術への関心である。

 削った装備予算を自らのふところに入れ続け、技術開発にはまったくもって興味を示さない愚かな大臣一味のなせる技だ。

 

 こんなことを考えていては頭が痛くなる。

 セメスは頭を軽く振り、肝心の伝令を見据えた。


「ご苦労さま。で、どんな指令?」


 彼は震える声で言った。


「『勇者』パーティの剣士、『神速』のクレス・クーを回収せよ、とのことです……っ!」


「『神速』の……え、どういうこと?」


 新たな指令は理解に苦しむものだった。

 『勇者』パーティのメンバー、それもひとりだけを回収?

 そもそも"回収"という言い回しはどういうことなのか。

 迷子にでもなったのか。

 それとも裏切り?

 いや、愛国心が強いと評判のクレス・クーに限ってそんなことはないだろう。


 伝令の目はひどく泳いでいた。

 彼はひと呼吸おき、そして自分の言ったことを確かめるようにゆっくりと話し始めた。


「昨夜、クレス様からのテレパシーが王都に入りました。『パーティが壊滅した、助けてくれ』と」


 あたりでざわめきが起こった。

 こっそり聞き耳を立てていた兵士たちが動きを止めた。


「事態を重くとらえた王より、全戦力をもってクレス様を救出せよとの名が下り、ここ周辺のパーティ、王国軍兵力を集めた救出部隊が編成されることになりました。しかし……」


 彼は何かを言いあぐねているようだった。


「周辺のパーティがすべて行方不明になっており、兵站任務についていた王国軍の兵力800名が現在の戦力です」

「指揮系統は?」

「セメス部隊長の下に、各部隊の指揮官が属するという形に」

「ええ、いちばん偉いの俺?」


 セメスは乗り気にはなれないでいた。

 万が一にも、勇者パーティが本当に壊滅していたとしたら。

 人類の最高戦力を葬った原因がなんであれ、装備の貧弱な王国軍800名ごときで対処できる代物ではないだろう。

 責任を押し付けられるのは部隊長。

 かといって王の命令に背けるはずもない。


「うん、了解。部隊の集結計画をつくるのでこちらにどうぞ」


 セメスは背後の円卓を指さした。


 伝令は、情報が魔法的に彫られた地図をもっていた。

 参謀本部の解析では、クレス・クーによるテレパシーの発信源は、ここから北に7キロの地点だという。

 つまり彼はそこにいる可能性が高い。

 何かに追われているとしたら探索範囲を広げる必要がある。


「まずは脅威の断定よな。人かモンスターか、あるいは災害か」


 セメスは円卓にて、向かいに座る長身の女に声をかけた。


「おおかたモンスターでしょう。パーティと現地住民以外の人間がこんな辺境にまで来ているとは考えられません」


 声をかけられた女は冷静な口調だった。

 名をオーラ・ルフェイブルという。

 上のずさんな人事のせいで入れかわりが激しい部隊内で、彼女は長年セメスの右腕として働いていた。

 それは武芸的な意味においても、頭脳的な意味においても同じである。


 オーラは地図を睨みつけるようにして見ていた。

 しわひとつない軍服は彼女の生真面目な性格を物語っている。


「広範囲に索敵網を敷きたいです」

「たしかに、じっくり敵の種類と動きをつかんでから残りの部隊を集結展開させたいけどさー」

「時間をかけると救出自体が失敗しかねませんね」


 クレスを表す地図上の点をさわる。

 付与された記述魔法マジック・パターンが空中に青色の文字を映し出した。

 テレパシーが発信された推定時刻、こことの距離、地形の概要。

 

 これらの情報をもとに索敵計画を立てる。

 セメスたちの話を、記述魔法マジック・パターンに精通した書記が書き込んでいく。


 空気があたたかくなってきた昼頃。

 1時間におよぶ会議が行われ、詳細な計画が記された地図が各部隊に届けられた。

まだ小説家になろうのシステムよくわかってないです…

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