15話 噂と動乱
この一週間の間に、48のパーティが全滅した。
4名から8名の冒険者からなる、国王に認可された68のパーティ。
その7割が消息を絶ったのだ。
『勇者』につぐ実力をもつ『四傑』と呼ばれる4組のパーティは、そのうち2つが全滅した。
もちろん『勇者』も。
『神速』のクレス・クーを除いた3人は、唯一生き残った彼の証言をもって死亡が断定された。
この事実は王国軍の情報部を伝って、軍部大臣から王の耳に入った。
後先を考えられる聡明さをもたない王は緊急のスピーチを独断で実行し、いやいや集まった国民に対して『勇者』の死を嘆いた。
これは大きなスクープであった。
すぐに各地の手書き新聞社が情報を公開した。
国民は誰もが混乱した。
これまでもパーティの全滅は幾度となく報じられてきた。
負け知らずの強力なパーティや、はたまた『勇者』パーティでさえ、その訃報は魔王との戦いがはじまってから、過去5世紀にわたって繰り返されてきたのだ。
しかし、今回は違う。
壊滅したパーティの数が異常である。
しかもこの短期間のうちに。
不安はうわさとなって王都から主要な都市へ、町へ、辺境の村へと伝播していった。
その中でもあるうわさが、ひときわの信ぴょう性を伴って各地へ広がった。
魔王は生きている、と。
ちょうど1年前。
稀代の大賢者が、王命にて発動した儀式魔法。
発動者自身をふくむ、各町村から選出された生贄126,000名の命を犠牲に放たれた『超長距離消滅魔法』。
先代の『勇者』パーティがつかんだ魔王の玉座の座標にてピンポイントで発動する消滅点は、おそらく魔王の命を奪ったはずだった。
沈静化したモンスターの活動や、魔王城付近の魔素の濃度低下が、魔王が死んだという結果を裏づけていた。
家族を生贄にされた遺族を中心とした反乱分子は、魔王の死という吉報が現実味を帯びてくるにしたがって次第になりをひそめていった。
『勇者』をはじめとしたパーティの進撃は、魔王の死を確認する意味合いが強くなった。
大陸北部を中心に、各地に大量に残存しているモンスターを殺すことが、パーティの仕事のウェイトのほとんどを占めるようになったのだ。
それゆえ、まだ魔王が生きているといううわさは全国民に衝撃をあたえたのだ。
慌てたのは王政の実権を握る大臣たちである。
儀式魔法に魔王の殺害という成果が伴っていないことが判明すれば、溜まりに溜まった民衆の不満は間違いなく爆発する。
加えてパーティの激減。
パーティは王政がもつ軍事力であり、民衆の不満をそらす都合のよいデコイでもある。
よって40を超えるパーティが全滅したことは、王政の権力が半減したに等しい。
モンスターの組織的な行動。
魔王生存の噂。
『勇者』や『四傑』をはじめとした強者の死亡。
体制が、時代が、水面下でうごめく何かが。
急速に変わろうとしていた。
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