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タクティカルな魔王討伐のススメ  作者: サブ
第1章
10/32

9話 衝突(2)

激しい戦闘が続く森の中にときの声がこだました。

 敵の前衛に突撃をしかけるのは、セメス率いる本隊200名。

 先頭を行くのは、若き小隊長ネイ・フルートの部隊である。


 突撃隊が助走距離を一気に走り抜ける。

 後方の魔導士たちがバフ・スペルをかけ、隊のスピードがさらに上がる。

 そしてついに前列のゴーレムたちとネイの隊がぶつかった。


 槍の穂先がゴーレムの胸を貫く。

 銀の硬度をやすやすと貫通する、破壊的な膂力。

 これがネイたちの強みであり、セメスが彼を買っている才能のうちのひとつだ。


「ネイくんナイス!あとは任せな!」


 前線に空いた穴をふさごうと、両側からゴーレムが迫る。

 わずかなスペースに飛び込んだのはセメス。

 空中で勢いよく両足を開き、左右のゴーレムに重い蹴りを入れた。

 敵が吹き飛び、大きくなった前線の穴から本隊が内部へと突撃する。


 別のゴーレムたちがセメスを包囲しようと迫るが、周囲に生える木々のせいで思うように動けない。

 本隊はネイの先導で左右に分かれ、セメスが雷魔法の発生源へとたどり着けるように通り道を確保していく。


 ゴーレムの壁を突破した奥には、何百体ものシルバーナイトが待ち構えていた。

 矛とカイトシールドを装備した生ける鎧たち。

 先頭を走っていた兵士たちが矛のひとなぎによって刈り取られた。

 セメスは自身の得物である長剣を抜き、すれ違いざまに2体のナイトを両断。

 硬いが苦戦するほどではない。

 突破できる。


 直後、あの黒雲が頭上に現れた。

 一瞬の間をおいて8本の稲妻が放たれる。


 そのうちの1本がセメスの胸に飛来し、常時展開しているマジックアーマーの4分の1の魔力を消し飛ばした。

アーマーを展開できない兵士が3人、前方で痙攣しながら崩れ落ちる。

 すぐに空気中から魔素を集め、アーマーへ供給。

 早く仕留めなければ魔法の犠牲は増える一方だ。


 無詠唱でランク3のバフ・スペルを自身と周囲にかける。

 腕力と脚力、持久力の上昇。

 再度勢いを得た部隊が、シルバーナイトの群れを切り裂く。

 そしてついに。


「みっけた」


 いっそう厚いナイトたちの集団の中央。

 フクロウのような巨体が両のつばさを広げている。

 頭上にはイエローカラーの魔法陣。

 おそらくあの雷魔法のものだろう。


 背後では銀色の転送魔法陣が展開されていた。

 そこからシルバーゴーレムたちが溢れ出している。


「短距離の転送魔法!そりゃ追いつかれるわけだ」


 発動難度の高い転送魔法とあの雷の併用。

 間違いなく強敵だ。

 敵の接近に気づいたフクロウが体を震わせた。

 周囲に4つの魔法陣が現れる。

 そこから、高密度に圧縮された静電気の球体が撃ちだされた。


 球体は列の先頭を走る兵士たちへ飛んでいく。

 セメスはそれらに狙いを定め、演算を開始。

 4つの魔力エネルギーの塊を放つ。


 彼はあらゆる魔法を得意とするわけではない。

 抜きん出た魔法の才能を持ちえない彼は、ゆえに、自分の得意なものだけに磨きをかけてきた。


 強化魔法バフ・スペルと、エネルギー魔法。

 このふたつが、新兵の頃から丁寧に研磨されてきた彼の武器である。


 エネルギー魔法と敵の電気球が寸分の狂いなくぶつかり爆発した。

 煙を切り裂いてフクロウへ接近。

 足元を固めるナイトたちを速度の上がった剣撃で倒す。

 追いついた味方が残っている護衛たちを追いやり、ついにフクロウが孤立した。


 フクロウはセメスを優先して排除すべき対象として定めたようだった。

 さらに多くの魔法陣が左右に展開され、いく本もの雷撃が襲う。


「なんでこんなハイスペックな敵が仲良く集団行動してんのか知らないけどさあ」


 体をひねって電撃球をかわす。

 さきほどの必中の雷と比べればあまりにも遅い。

 軍の中央が平和ボケに堕ちていくその間、いったいどれほどの時間を訓練に費やしただろう。

 これしきの攻撃、なんの痛手にもならない。


「俺ら今までずーっと日の当たらないところで働いてきたけど」


 まるまると太った巨体の側面に高速で回り込み、跳躍。

 その無防備な頭上で剣を振りかぶる。

 フクロウはセメスの動きについていくことができない。


「だから、訓練の成果を出せる日が来てワクワクしてんだわ」


 勢いよく振り下ろされた長剣がフクロウのマジックアーマーに衝突した。

 コンマ数秒のせり合いを見せたあと、耐え切れなくなったアーマーが壊れる。


 フクロウは頭から足まで縦に両断され、魔素の供給源を失った魔法陣たちがつんざくような音を立てて消滅した。

 背後の転送魔法陣も焼き切れ、陣から出かけていたゴーレムの一団が半身を切断されて生き絶えた。


「味方の損害は?」

「死傷者80名。うち20名はすぐに戦線に復帰できます」

「思ったよりみんなやるじゃん。でもこれ以上は犠牲増やしたくないな。俺が魔法撃ったら逃げるよ。全隊に伝えて」

「了解!」


 敵の押し返しを牽制しながら兵士たちが退がる。

 セメスの周りから味方がはけ、代わりにゴーレムやシルバーナイトたちが群がってきた。


「ふう……」


 大きく息を吐き、地面に手をかざす。

 展開される紫色の魔法陣。

 周囲の魔素が陣の中心に吸い込まれていく。


「『拒絶する球域(インスラスフィア)』」


 発動されるはランク6の上級エネルギー魔法。

 セメスを中心に膨大な魔力の爆発が起こった。

 体表や鎧の銀で中和しきれなかった衝撃によって、周囲のゴーレムたちが吹き飛ばされた。

 隙を見たすべての部隊が反転し、森の中へ駆け込む。


 味方の犠牲は7分の1。

 決して少なくはない損害だが、敵の主力は潰した。

 『勇者』を屠ったパーティだ、まだあのレベルの敵が控えているだろう。

 セメスは、今は敵と距離を取り陽動に徹することに決めた。

 この場での戦いは王国軍の辛勝であった。

評価の方よろしくお願いします!

いよいよ本格的な戦闘パートです。

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