プロローグ 壊滅
こういうジャンルに出会ったばかりの作者が、これミリタリーというか戦記というかそういうもんとミックスできんじゃね!?という安直な思考のもと書き進めております。
『神速』のクレス・クーは『勇者』パーティの剣士であった。
その時代で"もっとも強いただひとつのパーティ"へ送られる『勇者』という称号。
国王に認可された60組を超えるパーティが日々大陸最北端の『魔王城』へと進撃する中、クレスの『勇者』パーティは彼らの先頭を突き進んでいた。
彼らパーティを構成するメンバーは『冒険者』と呼ばれていた。
その称号に恥じない実力があった。
魔王を倒せるビジョンがあった。
使命感が、正義が、信念があった。
しかしクレスの心は、今目の前で起きている嘘のような光景を前に完全に折れてしまった。
「クレスさん!クレ……」
たった今、パーティの僧侶がモンスターの群れに飲み込まれたところだった。
戦いの舞台は魔王のテリトリー内にぽつんと佇む村。
5日前の出来事だ。
休息のために立ち寄った『勇者』4名と、それを温かく出迎えた住民約200名は、突如としてモンスターの奇襲を受けた。
転送魔法陣から無限に湧いてくる強力なモンスターたち。
戦士の打撃を無効化するスライム。
僧侶の強化魔法の付与対象をジャミングしてくる奇術師。
魔導士を取り囲むシルバー・ゴーレム。
やつらは逃げ惑う住民を『勇者』たちが殺せないと知っていた。
彼らを盾にし、時に殺し、隙を生み出しメンタルを揺さぶった。
丸5日がたった。
5日、5日だ。
この間クレスたちは一度たりとも息をつけなかった。
そして戦士が、魔導士が、今は僧侶が脱落した。
最高で、最強の仲間だった。
彼らと共に魔王を倒す運命なのだろう。
自分たちがこの世界に平和と正義をもたらすのだろう。
そう信じて群雄割拠のパーティたちの先頭を走り続けてきた。
「お……え……」
嗚咽も絶叫も出ない、少しの悪態さえも。
重度の脱水症状で喉は潰れていた。
頭が朦朧としている。
魔法も発動できない。
「無様だなァ」
背後で声がした。
振り返ったセメスの視界に、2メートル超の人影が映った。
長刀を持ち、太い尻尾が生え、体毛に覆われていて目は爬虫類のように無機質。
獣人、いや、魔人か。
こいつが元凶か。
普段単独で行動するはずのモンスターたちによる集団戦術も、明らかな『勇者』たちへの対策も、高難度の転送魔法も。
魔王の幹部と思われる魔人たちとはこれまでも何度か戦ってきた。
やつらは一筋縄では倒せない。
それでもセメスは声にならない叫びをあげ、目の前の魔人に立ち向かう。
1秒の間に15の剣筋が切り結ばれた。
次の1秒では20、さらに25。
クレスにとってこの剣速についていくことは簡単だったが、5日分の疲労と傷がそれを許さない。
右肩、左腕、腰。
徐々に魔人の剣がクレスに届きはじめる。
永遠にも思える数十秒。
限界が来てしまったのは『神速』のクレス・クーの精神だった。
「う……うっ」
"明確に"追い詰められるという経験。
敗北の予感。
全滅した味方。
今までも死を覚悟した戦いはあったが、終わった後には必ずパーティメンバーの笑顔が待っていた。
たとえ目の前の敵に勝ったとしても。
たとえ魔法陣から湧き続ける敵を狩り切ったとしても。
もう彼らには会えないのだ。
「う、うわああああ!」
民からの、王からの期待、仲間からの信頼、羨望の眼差し。
そして自らが己に課してきた絶対的な正義感。
最後に残ったのはそんなものではなく、死への恐怖のみ。
本能的な死への恐怖が、わずかに残っていたセメスの闘志を押し潰した。
「くるな、くるなあ!」
仲間が目の前で死んだ時には出なかった絶叫を響かせ、最高速でセメスは背後の森へと駆け出した。
「クソが逃すなァ!追えェ!」
魔人の声が荒れ果てた村にこだました。
周りを囲むモンスターたちがすぐ行動に移る。
あたりの空気はチリチリと震えていた。
鳥たちがいっせいに木々から飛び立った。
この日、『勇者』を含む多くのパーティが壊滅した。
次話から戦争要素強めになっていきます。
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