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感謝の気持ち

 「昌雄、前期試験に合格したんや。おめでとう」

前期試験の結果発表の翌日、羽山はそう喜んでくれた。

「ありがとう」

昌雄はそうお礼を言った。しかし、羽山が無理やり笑っているような気がした。すると案の定、羽山は

「俺は落ちちゃった。後期試験を頑張る!」

と苦笑いをした。

 その様子が心配になった昌雄は羽山に

「俺に言われても腹立つだけかもしれへんけど、無理して笑わんでええんやで」

と言葉をかけた。すると羽山は糸が切れたように

「本当は悔しかった」

と泣き出した。それでも

「でも、昌雄が合格して嬉しいのは嘘やないから。俺も昌雄に続けるように頑張る」

と続けた。

「ありがとう。羽山なら大丈夫やよ」

昌雄は、羽山にそう返した。


 そして、卒業式の日がやって来た。

「中学校に行くのも今日が最後やな」

壮磨は、しみじみとそう話した。

「そうやね。そう思うと、少し寂しいな」

昌雄も、そう同意した。

「俺は、試験のことでそれどころやないな。また学校にも報告に行かなあかんし」

一方、羽山はそう気合を入れていた。

「そうやよな。応援しとるで」

昌雄はそう羽山を励ました。

「高校の説明会もあるから、中学校の制服を着るのが今日が最後やないのは一緒やな」

壮磨は、そんな話をした。

「昌雄君、合格と卒業おめでとう」

淳平と凛太朗が、昌雄の元に来てそう話した。弟の義雄と、その親友の凛子とイクラも一緒にいる。

「ありがとう。みんなもこれからも元気でな」

昌雄はそうお礼を言った。

「俺ももう受験生になるから他人事やないな。頑張る」

淳平は独り言のようにそう呟いた。

「ああ、応援しとるよ」

昌雄はそう返した。

「昌雄君は、姉さんにボタンを贈るん?」

凛太朗は、昌雄にそう聞いた。

「そんな古風なことはせんよ。考えもせんかった」

昌雄はそう驚いた。

「言ってみただけ。昌雄君が卒業するのは寂しいな」

凛太朗はそう話した。

 凛太朗はまだ1年生のため進路についてはまだ考えていないだろうけど、おそらく同じ高校には入らないだろうと昌雄は思った。

「歩美さんが卒業式に来てくれたらとは少し思うな。学校があるから、無理なのは仕方ないけど」

昌雄はそんな本音ももらした。

「やっぱり昌雄君、歩美さんに告白してから変わったよな。前より明るくなったし、頼もしくなった気がする」

淳平はそう指摘した。

「うん、色々と悩んだけど、告白して良かったって思う。付き合い始めてからは本当に幸せ」

昌雄はそうはにかんだ。そして

「凛太朗君も義雄も、協力してくれてありがとうな。2人がおらんかったら告白に踏み切れなかったと思う」

と続けた。

「力になれたなら嬉しい。僕も姉さんが幸せそうにしているのが嬉しいから、昌雄君には感謝しとるよ」

凛太朗はそうお礼を言った。

「俺も、兄ちゃんに協力できて嬉しいよ。歩美さんがよく家に来てくれるのも嬉しいし」

義雄もそう話した。

「歩美さんみたいな綺麗な人がよく家に来るなんて羨ましいなー」

イクラはそう話した。

「でも、イクラにもお姉さんがおったよね?綺麗な人やなかった?」

それに対して、凛子はそう聞いた。イクラには10歳年上の姉がいる。

「歩美さんみたいに優しくないし、歩美さんの方が綺麗やもん。そんな話をしたら、絶対姉ちゃんにしばかれる」

イクラはそう返した。

「それは、イクラが自由過ぎるからやない?」

凛太朗はそう呟いた。

「俺も昌雄君の入る高校を目指そうかな。進路についても親身になってサポートしてもらえるって好評やし」

淳平はそんな話を切り出した。

「本当に⁉︎そうなったら楽しみやな。そしたらアドバイスもしやすいやろし。たくさん頼ってくれてええよ」

昌雄はそう嬉しくなった。

「ありがとう。どこにいても昌雄君は大事な仲間やと思っとるから」

淳平は笑顔でそう話し、昌雄に拳を向けたので、昌雄も拳を差し出して合わせた。

 卒業式自体は立って座って歌っての繰り返しのため少々退屈だったが、これまでの中学校生活を思い出した昌雄は少し寂しさを感じて涙ぐんだ。


 「マサ君、卒業おめでとう」

その日の夕方、学校帰りの歩美が制服のまま昌雄の家に訪ねてきた。

「ありがとう。卒業は寂しかったけど、嬉しかったよ」

昌雄はそんな卒業式の感想を述べた。そして

「高校生活を頑張ろうって思えた」

と言い、歩美の手を握った。

「うん。マサ君の夢のために有意義な時間を過ごせると思うよ」

歩美はそう言いながら、昌雄の手を握り返した。

「そうや、凛太朗君に言われたんやけど、制服の第二ボタン欲しい?」

昌雄は歩美の手を握ったままそう聞いた。

「そんなこと、考えもせんかった。私は貰っても困らへんけど、マサ君が困らへん?まだ中学の制服を着る機会はあるやろ?」

歩美はそう驚いた。

「そうやね。じゃあ、中学の制服を着る機会がなくなったら贈ってもええ?合格と卒業の記念に持っていてほしくて」

昌雄はそう話した。

「わかった。楽しみにするね」

歩美はそう笑顔を浮かべた。


 卒業式の後は、昌雄は暇になった。入学する高校から課題は出されたがそれほど多くなく、説明会や入学手続きの時間もしれていた。そして家での食事の支度をするようになっていた。

 そのため、今年のホワイトデーはクリスマスのリベンジも兼ねてお菓子を手作りしようと考えた。

 歩美の祖父が書いたというレシピは参考になりそうだと思ったが、それだと歩美に計画がバレてしまうので回避した。

 また志緒里に教えてもらうことも考えたが、練習する時間もあるので自力で作ってみたいと思った。

 そう思った昌雄は、近所の図書館にあるお菓子のレシピを借りに行った。その中で、作りやすそうなものはどれだろうと検討した。その結果、作りやすくて可愛いカップケーキを作ることに決めた。

 その翌日に、材料を確認して必要なものを買いに行った。そうは言っても材料はほとんど家にあったため、買うものはケーキのカップくらいだろうと思った。

 製菓コーナーには可愛いカップがあったので、歩美にも喜んでもらえるだろうと嬉しくなった。

 飾り付けはどうしようと店内を見回っていたら、桜花の塩漬けが目に入った。春だし、合格した桜が咲いたというお礼を込めて、ケーキの上に飾ったらシンプルながら可愛い仕上がりになるだろうと想像した。

 そうして材料を買い揃えた昌雄は、帰宅してすぐに張り切ってお菓子作りの練習を始めた。

 カップケーキは泡立てる必要がなかったため、ブッシュドノエルより簡単に作れた。生地をカップに注いだら、桜花の塩漬けを一つずつ乗せるだけ。そうしているうちに、事前に準備していたオーブンの予熱が完了した。

 「ただいま。あれ、兄ちゃんお菓子作ったん?」

カップケーキを焼き終わって食べられるほど冷めたとオーブンから取り出した時に、ちょうど義雄が学校から帰ってきた。

「うん。良かったら食べてくれへん?」

昌雄はそう答えた。

「ええけど、凛太朗にあげなくてええん?」

義雄はそう聞いた。義雄の中でも凛太朗は何でも食べるやつ認定されているのだ。

「今回は凛太朗君にも贈りたいから内緒にしておいてほしい。もちろん歩美さんにも」

昌雄はそう返した。

「わかった。じゃあいただきます」

義雄はそう言い、渡されたカップケーキを食べ始めた。

「うん、美味しい」

義雄が素直にそう感想を述べたので、昌雄はほっとした。しかし、

「桜の花を飾ったんや」

と義雄が言いながらその箇所を食べた瞬間

「しょっぱ!」

と叫んだ。

 昌雄はそのことにショックを受けながらも、自分でもカップケーキを食べてその感想に納得した。まるで塩のかたまりをかじっているようだった。

「ごめんな」

昌雄はそう義雄に謝った。

「練習やから大丈夫やよ。ケーキ自体は美味しいし」

義雄はそう返した。

 昌雄は、まだ残っている桜花の塩漬けの容器を手に取った。そうしてようやく「10分ほど水に浸けて塩抜きしてから水気を取って使ってください」という説明があることに気付いた。

「そっか。塩抜きせなあかんのか。俺、そのまま乗せてた」

昌雄はそう呟いた。そして、そのことに気付けたので練習して正解だったと心から思うのだった。


 ホワイトデー当日、歩美は部活が始まる際に、珠姫が大きな紙袋を持っていることに気付いた。

「たまちゃん、それどうしたん?」

不思議に思った歩美はそう聞いた。

「ホワイトデーにクッキーを焼いたんや。みんながバレンタインデーにチョコレート菓子をたくさんくれたお礼」

珠姫は嬉しそうにそう答えた。

 そして珠姫は部員たちにそれを配った。

「へー。珠姫、自分でお菓子を作ったんや」

涼子は渡されたクッキーを受け取りそう感心した。

「うん!たくさん試食したから味は保証するよ」

珠姫は明るくそう言うので、その様子に対して潤は

「やっぱりたまちゃんは自分でもたくさん食べたんやね」

と呟いた。

 歩美はその話を微笑ましく思いながら、珠姫からのクッキーは持って帰って昌雄や凛太朗にも分けようと決めた。

 そうして歩美が帰宅したら、すでに凛太朗がいた。

「姉さんおかえり」

そう言う凛太朗に対して歩美は

「ただいま。もう帰ってきてたの」

と話した。

「うん。日が長くなってきたとはいえ、早く帰宅するように学校で決まっとるから」

凛太朗はそう答えた。

 そんな話をしている時に、玄関のチャイムが鳴った。歩美が出ると、そこには昌雄がいた。

「歩美さんお疲れ様。ホワイトデーのお菓子を作ったので持ってきました。良かったら凛太朗君にも」

昌雄のそんな話が聞こえた凛太朗は

「僕はついで?」

と話しながら昌雄がいる玄関まで歩いた。

「ついでとは思ってへんよ。凛太朗君もバレンタインデーにお菓子をくれたから、一緒にお返ししようと思ったんやよ」

昌雄はそう説明した。包装されたお菓子の数は歩美の分と凛太朗の分が同じだった。

「私もたまちゃんからお菓子を貰ったの。また3人でお茶する?」

歩美はそう提案した。

「それはええけど僕、邪魔やない?姉さんと二人きりの方がええんとちゃう?」

凛太朗はそう戸惑った。

「そんなことないよ。歩美さんとならいつでも二人になれるから」

昌雄はそう返したので

「結局惚気か」

と凛太朗は小さく呟いた。

 歩美が珠姫から貰ったクッキーを取り出している間に、凛太朗は紅茶を淹れ始めた。

「何か俺、おもてなしされるお客さんみたいになっとるな」

手持ち無沙汰になった昌雄は独り言のようにそう話した。

「ええやん。ここは昌雄君の家やないから」

凛太朗はそう返して、紅茶を出した。

「クッキー持ってきたよ」

その間に、歩美が戻ってきた。

「可愛くて美味しそうやな」

袋から出されたクッキーを見て、昌雄はそう感想を述べた。

 珠姫が作ったのは型抜きクッキーだった。味はプレーンとココアの2種類があり、型はハートや星、猫やウサギなどどれも可愛かった。

「美味しいね。たまちゃんが自ら試食しまくったって言ってただけあるわ」

歩美はクッキーを食べてそう話した。それを聞いた昌雄は

「珠姫さん、相変わらずやね。元気そうで何より」

と話しながらクッキーをかじった。

「確かに美味しい」

凛太朗もそう満足した。

「マサ君はカップケーキを作ってくれたんや。桜が乗ってて綺麗」

続けて歩美はそう話した。

「ありがとう。合格して桜が咲いたってお礼を込めて選んだんや」

昌雄はそう説明した。

「美味しい。こちらこそ作ってくれてありがとう」

歩美はそう美味しそうにカップケーキを頬張っていたので、昌雄は練習した甲斐があったと思うのだった。


 それから1週間後に、昌雄のもとに羽山から電話が来た。

「長谷川、元気にしとる?」

羽山は最初にそう挨拶をした。

「元気やよ。っていうか、今月卒業式で会ったばかりやん」

昌雄はツッコミながらそう返した。

「なら良かった。俺さ、志望校の入試に合格したよ」

羽山は、嬉しそうにそう告げた。

「おめでとう。俺も嬉しい。報告してくれてありがとう」

昌雄も、そう声を弾ませた。

「ありがとう。長谷川には報告しやんとと思ってさ。それでさ、みんなで合格したお祝いも兼ねて、映画でも行かへん?」

羽山がそう言い誘った作品は、昌雄も読んでいる人気少年漫画のアニメだった。

「ええな。行こう。それって壮磨とかにも誘っとんの?」

昌雄はそう聞いた。

「これから誘おうと思っとる。あとは、同じ高校に入る仲間も誘うつもり」

羽山はそう答えた。

「そっか。大勢で行く方が楽しいもんな」

昌雄はそう話して、2人で予定調整をした。

「じゃあ、日程が決まったらまた電話するな」

羽山はそう言って電話を切った。

「映画館に行くのって久しぶりやな。楽しみ」

昌雄はそうワクワクした。男友達と遊びに行くのも楽しい。歩美との時間も大切にしているが、それと変わらないくらい友達との時間も大切にしようと思うのだった。

 映画館に行く日程が決まってから、昌雄はそのことを歩美に伝えた。

「友達と映画か。ええな。楽しんできてな」

歩美は快くそう反応してくれた。

「もちろん、歩美さんとの時間も大切にするから!」

昌雄はそう話した。

「そんなに気を遣わんでもええよ。私もよく友達とは食事や買い物に行くし」

歩美はそう笑った。

 そして約束した映画鑑賞の日が来た。昌雄は最初に集合場所に着いたため、他のメンツが集まるまで待つことになった。

「長谷川、早かったな」

そう話ながら羽山が来た。

「楽しみすぎてフライングしてしもた」

昌雄はそうはにかんだ。それから続々と人が来て全員集合となった。

 集まったメンバーは昌雄、羽山、壮磨、羽山の幼馴染であり彼と同じ高校に入る佐伯海人と今市 瑠維(るい)の5人だった。昌雄にとって佐伯は2年時のクラスメートだった。今市とはクラスや部活は一緒にならなかったが羽山の友達として認識はしていた。

 そのため佐伯には

「長谷川君久しぶりやね。彼女とは上手く行っとる?」

と聞かれた。

「うん。受験勉強も教えてもらえたし、楽しく過ごしとるよ」

昌雄は照れながらそう返した。

 上映の開始までまだ時間があったため壮磨は

「何か買う?」

と聞いた。

「じゃあ、ポップコーンとジュースを買う!」

羽山はそう言い、売店に並んだ。他のメンツも続けて並んだため、昌雄もジュースを買うことにした。

 そうして5人は会場に入った。この日は平日のため、比較的人は少なかった。

「まだ上映まで時間があるな。暇つぶしに早速ポップコーンを食べよ」

羽山は時間を確認しながらそう言い、ポップコーンを食べ始めた。大型のサイズを選んだにも関わらず、結局本編の開始前に完食したのだった。

 昌雄はその様子を隣の席で眺めながら、よくそんなに食べるなと感心しながら買っていたジュースを飲んだ。それと同時に、他人に迷惑はかけていないから構わないだろうとも思うのだった。

 そうして本編が始まり、会場は一気に静かになり、誰もが映画の内容に集中するのだった。

 昌雄にとって好きな漫画作品だけでなく、クオリティも高い仕上がりになっていたため、観ていてとても楽しかった。元々気になっていた映画だったため、誘ってもらえて幸運だった。

 しかし、上映が終わって映画館を出てから、一緒に観た相手が男友達で良かったと思った。

 映画はデートの定番と言われているが、暗い会場の中で映画に集中するため、恋人と一緒にいるという実感があまりわかないような気がしたのだ。それに、2人とも好きな作品でないと、片方が退屈してしまう。歩美と映画を観に行く日は来るのだろうかと考えた。


 それから高校の入学の手続きが全て終わった日に、昌雄は歩美の家を訪ねた。歩美の学校も春休みに入っているため、すぐに出てもらえた。

「歩美さん、渡したいものがあって来ました」

昌雄は玄関でそう話した。

「そうなんや。まずは上がって」

歩美はそう言いながら、昌雄を家に上げて居間へと案内した。

「これ、前に話していた第二ボタン。もう中学校の制服は着ないから、受け取ってほしくて」

昌雄はそう話し、ボタンを差し出した。

「ありがとう。でも、その話すっかり忘れとった」

歩美はそう苦笑いした。

「勉強を教えてもらったお礼と、その…変わらず歩美さんのことが好きって気持ちを込めて」

昌雄は、途中恥ずかしくなりながらもそう伝えた。

「うん。ありがとう。じゃあ受け取るな。これは、マサくんが中学校生活を頑張った証拠でもあるから、大切にする」

歩美はそう微笑んで、ボタンを受け取った。

「ありがとう歩美さん。これからもよろしく」

昌雄はそう笑顔になるのだった。

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