大切な記念日
冬休みも終わり、中学校では本格的に高校受験の準備に入り始めた。私立の高校の受験は1月末のため、それを第一志望としている生徒達は対策に追われた。
昌雄の志望校は公立のため、2月に前期試験が控えている。そのため、面接や作文の対策に追われた。
「後期試験もあるから前期試験は練習のつもりに思えばいいとも言われとるけど、やっぱり前期のうちに合格したいよな。そしたら安心して卒業できるし」
前期試験を数週間前に控えたある昼休み、壮磨はそう言い出した。後期試験は卒業式の後にある。
「前期試験って、学力試験がない代わりにこれまでの成績が問われるんやよな」
昌雄もそう話した。前期試験は作文の代わりに一部科目の学力試験を設ける高校もあるが、昌雄達の志望校はそれはなく作文と面接がある。
「そっかー、ちゃんと勉強しとけば良かったな」
他の公立高校を志望している羽山はそう嘆いた。
「そんな後悔をするやつは多いやろな。高校に入ってからもそうなるのかも」
昌雄は独り言のようにそう呟いた。
「昌雄は彼女に勉強を教えてもらっとるからそんな後悔ないんやろ?」
羽山は少し拗ねながらそう聞いた。
「確かに勉強を教えてもらえて助かっとるけど、もっと成績が良かったらと思うことはあるよ。3年生になってから成績は上がったけど、トップクラスやないし」
昌雄は正直に自分の思いを述べた。成績で1番になりたいという気持ちはないが、自分は1番にはなれないと思ってきた。
「最低限、第一志望校に入れる成績があったら十分やよ。みんなで前期試験に合格できたらええな」
壮磨はそう話した。
「そうやね。早く試験を終わらせてプレッシャーから解放されたいわ」
昌雄は、そう返した。
その頃、歩美はバレンタインデーに作るお菓子をどうしようかと考えていた。前年に手作りのお菓子を贈って付き合うようになった記念日なので、大切にしたいと思っている。
そうして手に取ったのは、父方の祖父が残したお菓子のレシピだった。
「本当に種類が豊富で、丁寧に書かれてるな」
歩美は、レシピを見ながら改めてそう感心した。だからこそ、何を作ろうかと迷った。しかし、何も作るお菓子を一つに絞らなくていいのだと気付いた。
バレンタインデーは高校入試の前期試験の結果発表の日である。そのことを歩美も把握しているため、贈るお菓子が昌雄の合格祝いになればいいと思った。
ガトーショコラは前年に作ったため対象外とした。一方、練習に失敗したトリュフのリベンジはしたいと思った。さらに、「もっと仲良くなりたい」という意味があると書かれていたマドレーヌも作ってみたいと思った。
作るお菓子を決めた直後の休日、歩美はマドレーヌを作る練習をすることを決めた。マドレーヌといえば貝の形が特徴的である。そのため、材料を集めて練習する前に、マドレーヌの型がないだろうかと台所の食器入れを覗いた。すると、かなり奥の方に貝の型が見つかった。やはり、祖父はレシピを残したくらいなので、型も買っていたのだと思った。
そして訪れた休日、歩美は練習とはいえ昌雄の入学試験の成功を願ってマドレーヌを作り始めた。そうでありながら、結局はまた弟の凛太朗に完成品を食い尽くされるだろうと想像しながら。
レシピに書かれた原材料は、「バター」ではなく「無塩バター」、「小麦粉」ではなく「薄力粉」、「ココアパウダー」ではなく「純ココア」など、かなり具体的だった。
そのため、祖父は自分がお菓子を作るためのメモではなく、後に家族もお菓子を作れるようにするためにこのレシピを書いたのかもしれないと歩美は思った。
すると、自分が生まれる前に亡くなったため会ったこともない祖父が、隣にいてくれるような気がした。もしかしたら、祖父の作るお菓子が好きだった祖母も来ているかもしれない。そう思うと、心が温かくなった。
マドレーヌのレシピはプレーンとココアの2種類が書かれていた。当然、バレンタインデーなのでココアを作ることにした。
作る手順は複雑でないため、あまり苦労はしなかった。その代わり、前年の失敗の反省から、焼くときの温度と時間は慎重に確認した。
「あれ、姉さんバレンタインデーのお菓子の練習?」
マドレーヌを焼いている間、凛太朗がそう言ってやってきた。歩美は思わず
「やっぱり凛太朗が来た」
と口にした。
「何、僕が来たらあかんの?」
凛太朗は少し不満そうにそう聞いた。
「あかんとは言ってへんよ。ただ本当に食欲あるなって感心しただけ」
歩美はそう答えた。そして少し小声になりながら
「マサ君やなくても、喜んで食べてくれる人がおったら嬉しいし」
と続けた。
「へー、僕も姉さんの役に立てとるんや。まあ、昌雄君のクリスマスケーキ作りの教室にも付いて行ったし、練習に作ったそれも食べに行ったからな」
凛太朗はそんな話をした。
「凛太朗らしいな。てか、そんな話自分からするんや?」
と、歩美は少し呆れた。
そんな話をしているうちに、マドレーヌが焼き上がった。まだ冷ます時間もあるため、2人はまだ待つしかなかった。その時に歩美は
「言わんでもええことやろけど、マドレーヌの完成品、1個だけでも私に食べさせてよ。ちゃんと味見したいから」
と告げた。
「もちろん全部は食べへんよ。それより、毒味から味見に進化したんや。姉さんもそれだけお菓子作りに慣れたんやね」
凛太朗はそう返したので、歩美は思わず
「何よその言い方」
と言わずにはいられなかった。
そしてマドレーヌが食べられる温度まで下がったため、歩美はそれを取り出してお茶の用意をした。
完成したマドレーヌは8個だったが、歩美は本当に自分の分は1個だけ取った。これには凛太朗も
「姉さん、本当にええの?」
と聞いた。
「うん。1個食べれば味は十分わかるから」
そう答える歩美に対して凛太朗は
「もしかして、ダイエット中?」
と聞いた。それに対して歩美は
「そんなわけやないよ」
と即答した。
「じゃあ7個も貰うのは悪いから、姉さんがもう1個食べてよ」
凛太朗はそう言い出した。それには歩美も素直に
「わかった」
と答えた。
「美味しいな」
マドレーヌを一口かじった凛太朗は、そう感想を述べた。
「うん。そんなに難しくなかったし、これなら当日に出しても大丈夫やね」
歩美もそう安心した。
「ところで、このマドレーヌのレシピって、父方のおじいちゃんが書いたんやったけ?」
凛太朗は、そんな話をした。
「うん。とても丁寧でわかりやすいレシピやった」
歩美はそう答えた。マドレーヌの優しい甘さを噛み締めながら、祖父はきっと優しい人だったのだろうと想像した。
「そっか。会ってみたかったな。僕の場合、父方のおばあちゃんも生まれてすぐに亡くなったから記憶にないし」
凛太朗は珍しく寂しそうにそう言った。それに対して歩美は
「そうやね。今でも生きてたら優しくしてくれたと思う。でも、お菓子を作っている間、おじいちゃんとおばあちゃんが来てたような気がしたの。このレシピのおかげで、私はおじいちゃんとおばあちゃんに会えた気がした」
と話した。
「そうか、それなら僕もそのレシピでお菓子を作ってみようかな。おやつにもなるし」
凛太朗はそう呟いた。
その翌週の休日、歩美は次はトリュフを作る練習をした。前年は手を切った事以外の失敗はなかったが、温度管理に気を遣いながらチョコレートを溶かした。
すると凛太朗が
「あれ、またお菓子作りの練習?」
と言いながら来たため、歩美は
「また来た」
と独り言のように呟いた。
「もうそう言われるのも慣れたよ。今回は何作るん?」
凛太朗はそう聞いた。
「トリュフのリベンジ。去年は結局マサ君に贈れへんだから」
歩美はそう返した。
「へー。じゃあ、今回は血液は入ってへんのや?」
凛太朗はそんな話をしてきたので、歩美は思わず
「そんなこと覚えてなくてええのに」
と反論した。すると凛太朗は小声で
「だって、手をケガしたのが心配やったんやもん」
と話した。
「あんたに心配される筋合いなんてないから」
歩美は少し膨れながらそう返した。しかしすぐに
「美味しく作るから楽しみにしててよ」
と続けた。
「うん。本当は去年もトリュフを食べたかったから楽しみ」
凛太朗は普段通り淡々とした態度を装いながらも、瞳が輝いていた。
そしてトリュフが完成した。
「はい、できたよ」
という歩美の言葉に、凛太朗はワクワクしていた。そして今回も歩美の分は最低2個残せばいいだろうという勢いでトリュフを頬張った。
「美味しい。マドレーヌとトリュフって、随分と豪華なバレンタインデーになるな」
凛太朗は素直にそう話した。
「うん。マサ君にも喜んでほしい」
歩美は自分の分のトリュフを確保しながらそう返した。
「大丈夫やよ。練習がこれなら変なものは出さへんやろ」
凛太朗は相変わらず生意気にそう言うので歩美は
「あんたって本当にいらんことばかり言うよな」
と指摘した。弟は本当にあまり素直でなく可愛くないと思うのだった。
そしてあっという間に2月に入り、昌雄は前期試験の日を迎えた。
「マサ君おはよう。今日はいよいよ入試やね」
その日の朝、歩美は登校前に昌雄の家に来た。
「おはよう歩美さん。学校があるのに来てくれてありがとう」
昌雄は予想しなかった出来事に驚きながらも、そうお礼を言った。
「どうしても試験前に応援の挨拶をしに来たの。すぐ終わらせるから」
歩美はそう言い
「マサ君はこれまでたくさん頑張ってきたから心配してへんよ。無理に全力を出さなくても、マサ君の良さはちゃんとわかってもらえるから、気をつけて行ってきて」
と続けた。
その言葉に昌雄は笑顔になり
「ありがとう歩美さん。そう言ってもらえると力が湧いてくる」
と返した。
「うん。その顔で面接にも挑めたらええな」
歩美もそう微笑み、学校へと向かっていった。
そして昌雄も準備を整えて志望校へと向かった。
「今日は寒いな。緊張感もさることながら、この寒さにも負けやんようにせんと」
昌雄は、一緒に向かう壮磨にそう話した。
「そうやね。一緒に受かればええな」
壮磨はそう返した。2人はお互い、志望校が同じ仲間という気持ちはあっても、合格を競い合うライバルという気持ちは芽生えていなかった。それはやはり、変わらず友達として過ごしてきたからだろう。
体育館にて前期試験の案内がされた。そこでは、午前は作文、午後は面接というスケジュールの説明があった。
案内された教室で作文が始まった。出席番号順から、昌雄の前に壮磨が座ることとなった。昌雄は、作文のテーマは何だろうと気になり、すでに緊張した。
配られた用紙に書かれたテーマは、「中学校で頑張ったこと」だった。昌雄は、警察官になりたいという将来の夢のために勉強したことや、野球部で捕手として活動したことを書いていった。文章構成や内容は自信満々だったわけではないが、自分なりに十分書けたと思えた。
昼休みは作文を書いた教室で過ごし、面接もその場で待つことになった。そのため壮磨は、
「一緒に弁当食べよう」
と言い、机を後ろに向けてきた。
「一旦は、作文お疲れ様やね。できるだけのことはしたはず」
昌雄は弁当を開きながらそう話した。
「そっか、俺は自分の思いを書き散らして終わったわ」
壮磨はそう言い少し不安そうな顔をした。
「面接もあるからそこでも頑張れるよ。俺も頑張る」
昌雄はそう励ました。同じ立場の者同士だからこそ、このような言葉は心強い。
「そうや、面接が終わっら一緒に帰らへん?1人で帰るのが不安ってのもあるけど、せっかくなら昌雄と話したいからさ」
壮磨はそんな話を切り出した。
「ええけど、待たせることになるよ?外は寒いのに大丈夫?」
昌雄はそう心配した。
「昌雄の面接は俺のすぐ後やん。大丈夫やよ」
壮磨はそう返したので、昌雄は
「じゃあ一緒に帰ろうか」
と返事をした。
そう話していると時間は過ぎて、面接が始まった。先に呼ばれた壮磨は
「頑張ってくる!」
と拳を握りしめて教室を出た。
昌雄は、この待ち時間をもどかしく思いながら緊張もした。しかし、個人面接のため時間は短く、昌雄もすぐに呼ばれた。
「失礼します」
昌雄は、よく聞こえる声でそう挨拶をして面接会場に入った。緊張しながらも、はっきりと話そうと心掛けた。いつも通り話せば大丈夫だと自分に言い聞かせながら。
面接官は、いかにも体育会系の男性の先生だった。そのことからも、校風が窺えた気がした。
面接では志望動機や高校について知っていることを聞かれた。そして最後に
「将来の夢はありますか」
と質問された。
これには戸惑う受験生も少なくないかもしれないが、昌雄は胸を張って
「警察官になることです。理由は、警察官の両親を見ていて、町の平和を守る姿勢に敬意を抱いて、自分も同じようになりたいと思ったからです。そのために、貴校では警察学校に入ることを目標に勉強と部活動を頑張る意志でいます」
と答え、前期試験が終了した。
「お待たせ。寒かったやろ?」
高校を出た昌雄は、壮磨をすぐに見つけてそう話しかけた。
「そんなに待ってへんから大丈夫やよ。試験お疲れ様」
壮磨はそう返した。その表情は随分と晴れやかだったため昌雄は
「壮磨もお疲れ様。面接は上手くいった?」
と聞いた。
「うん。ちゃんと伝えたいことは話せたかな。とりあえず試験が終わってほっとした」
壮磨はそう答えたので昌雄も
「そうやよな。今日は帰ったら寝よう」
と返した。
「俺もそうする。結果が気になってしばらく落ち着かへんかもしれへんけど疲れたから」
壮磨はそう頷いた。
そしてバレンタインデー当日、歩美は前年同様朝一番に会った親友たちに昌雄へのチョコレートの片割れを贈った。
「ありがとう。今年は2種類もあるなんて豪華やね!」
珠姫はそう大喜びした。
「そういえば、今日って高校の前期試験の結果発表日やったよね?」
涼子が歩美にそう聞いた。
「うん。そういえば、涼子はいとこが公立高校を受験しとるんやったっけ?」
歩美はそう答えた。涼子は1人っ子だが、2歳年下の従姉妹の女の子がいる。
「なんか、歩美まで不安そうな顔をしとるね。やっぱり昌雄君の試験結果が気になる?」
涼子がそう聞いた。
「うん。マサ君なら大丈夫って思っとるけど、早く結果を聞きたいなって思って」
歩美はそう答えた。
「そうか。上手くいってたらええな」
涼子はそう話した。
この日は部活があったため、歩美は部員たちにもチョコレートを贈った。また、同じようにチョコレートをくれた部員も多かった。そして誰からの贈り物も、珠姫の分だけ明らかに量が多かった。
「こんなに貰えるなんて嬉しい。みんなありがとう!」
珠姫はそう満足した。
昌雄の学校では、前期試験の結果報告は午後にあった。そのため昌雄は、朝からそわそわしていた。というよりも、前日の夜もちゃんと眠れずにいた。
そして待ちに待った結果発表の時間が来た。まずは一緒に試験を受けに行った壮磨を見送ることになった。
昌雄は壮磨の合格を願って待っていたら、遠くから歓声が聞こえた。
「やった。合格したよ!」
教室に戻ってきた壮磨がそう教えてくれた。
「おめでとう。俺も嬉しいわ」
昌雄は素直にそう喜んだ。
「ありがとう」
壮磨はそうお礼を言った。
そしてすぐに昌雄が結果を聞く番となった。
「おめでとうございます」
結果発表の教室に入ると、担任の五十嵐先生がそう告げてくれた。そのため昌雄は思わず
「やったー!」
と叫んだ。そしてクラスの教室に戻り、壮磨に
「俺も合格したよ!」
と伝えた。
「おめでとう。高校でもよろしくな」
壮磨もそう喜んでくれた。
「ありがとう。壮磨と一緒に合格できたことが嬉しいわ」
昌雄はそう話した。一緒に同じ学校を目指す仲間がいたことは、とても心強かった。
昌雄は、今すぐにでも歩美に合格の報告をしたかった。休み時間にメールを送る方法もあるが、やはり直接会って伝えたいと思った。
そして帰宅したが、もう部活もなく早く帰れる昌雄と異なり、歩美は部活があるのでいつ帰ってくるかわからなかった。そのため、歩美が帰宅しそうな時間まで大人しく待つことにした。
そしてそろそろ歩美の家を訪ねようかと思った時に「ピンポーン」と家のチャイムが鳴った。迷わずに出たら、そこには歩美がいた。
「歩美さん、来てくれてありがとう。前期試験に合格したよ!」
昌雄は、テンション高くそう伝えた。
「そうなんや。おめでとう!じゃあ、このバレンタインデーのお菓子はそのお祝いになるんや」
歩美も嬉しくなりそう話した。
「ありがとう歩美さん。でも、今日がバレンタインデーってこと、すっかり忘れとった」
昌雄はそう返した。
「試験のことで頑張ってたらそうなるかもね。でも、今日はマサ君と付き合い始めた記念日やから、受け取ってもらえたら嬉しい」
歩美はそう話した。
「もちろん貰うよ。ありがとう。歩美さんが勉強を教えてくれたから合格できたんや」
昌雄はそう話し、初めて歩美のことを抱きしめた。
歩美はそれに驚いて戸惑いながらも、
「マサ君が頑張ったからやよ。でも、力になれて嬉しい」
と言い昌雄のことを抱きしめ返した。
「お邪魔します」
その時、そんな凛太朗の声がしたので、2人は赤くなりながら体を離した。
「凛太朗、どうしてきたのよ⁉︎」
歩美は動揺しながらそう聞いた。
「2人に渡したいものがあったから」
凛太朗は淡々とそう答えた。
「バレンタインデーに、2人が付き合い始めた記念日のお祝いのお菓子を贈ろうと思って」
凛太朗はそう言い、お菓子の袋を差し出した。
「そうやったんや。全然気付かへんかった。ありがとうね。これもマサ君の合格祝いになるね」
歩美はそう話した。
「昌雄君、合格したんや。おめでとう」
凛太朗は嬉しそうにそう伝えた。
「ありがとう。せっかくなら3人でお菓子を食べへん?って、これが凛太朗君の狙い⁉︎」
昌雄は凛太朗にお礼を言いつつ、そう疑った。凛太朗は静かに笑うだけで答えなかった。
そして昌雄の家で3人はお茶と一緒にバレンタインデーお菓子を開けた。
「歩美さんはマドレーヌとトリュフを作ってくれたんや。2種類なんて豪華やな。本当にありがとう」
昌雄は歩美からの贈り物にそう感想を述べた。
「うん。作りたいものがあって迷ったけど、一つに絞らんでもええかなって思って」
歩美はそうはにかんだ。
「どっちも美味しい。今年も歩美さんからお菓子を貰えて嬉しいな」
昌雄はそう幸せを感じた。
一方、凛太朗が作ったお菓子はブラウニーだった。こちらは、ナッツやドライフルーツも入っていて食べ応えがあった。
「こっちも美味しい。凛太朗君も作ってくれてありがとう」
昌雄は凛太朗にもお礼を言った。
「姉さんが作る物は知っとったから、他のお菓子にしようと思ったんや」
凛太朗はそう話した。
「でも凛太朗、いつの間に作ったの?」
歩美は、疑問に思っていたことを聞いた。
「凛子に事情を話して、作らせてもらった。調理器具は揃っとるって確認が取れたから、おじいちゃんのレシピと材料を持って凛子の家で作ったんや。もちろん、凛子にもそのお礼にブラウニーを贈ったよ」
凛太朗はそう答えた。
「そうやったんや。ってことは淳平も把握済みか」
昌雄はそう話した。凛子が知っているということは、その兄である淳平も知っているということになる。
「うん。淳平君にも贈った」
凛太朗はそう話した。
「あと、お菓子のレシピっておじいちゃんが書いたんや?2人のおじいちゃんって、お医者さんやったよな?」
昌雄はそう聞いた。
「それは母方のおじいちゃんやね。父方のおじいちゃんは私達が生まれる前に亡くなったけど、お菓子のレシピを書いてくれていたの。マドレーヌもトリュフも、それを元に作ったの」
歩美はそう説明した。
「そうやったんや。おじいちゃんにも感謝せんとな」
昌雄はそう言いながら、改めて幸せを噛み締めるのだった。




