家族との時間
「明けましておめでとうございます!」
歩美の家では毎年、元日に母親の実家に行っている。そこは車で30分もかからず、時間をかければ自転車でも行ける場所にあるため気軽に遊びに行けるのだが、新年の挨拶をしたいという家族の思いと、お年玉を贈りたいという祖父母の思いから毎年新年に顔を出している。
「歩美姉ちゃん、久しぶり!」
お正月には叔母一家も来る。その一人息子である歩美の5歳年下の従兄弟の大和が元気に挨拶をした。
「大和君久しぶりやね。元気そうで良かった」
歩美はそう返した。大和とは同じ小学校に通っていたが、1年しか重ならなかった。一方、凛太朗は大和と1歳差であるため、小学校で関わる機会が多く、春からは同じ中学校に通うことになる。
そのため大和は凛太朗を見つけると嬉しそうに
「凛太朗兄ちゃんも久しぶり。春からまたお世話になります!」
と挨拶をした。
「そうやね。また同じ学校に通えるのが楽しみやわ」
凛太朗は、そんな言葉とは裏腹に少し不安そうな顔をした。
「大和、凛太朗君に懐くのはええけど、あんまり困らせたらあかんよ。小学校ではしょっちゅう忘れ物してその度に凛太朗君に借りに行っとったんやから」
大和の母親である叔母がそう忠告した。そう、大和は凛太朗に懐いていた分、何でも頼りっぱなしだった。凛太朗も、そんな大和に呆れながらも本当の弟のように面倒を見てきた。
「うん、流石にリコーダーは貸したくなかったな」
凛太朗は、小学校時代を振り返りそう呟いた。潔癖症なところのある凛太朗は、小学生の頃大和にリコーダーを返してもらった後、帰宅してから真っ先に台所洗剤を使って洗っていた。当然、大和には秘密にしている話であるが。
「さすがに、イタズラは卒業したよな?」
さらに凛太朗はそう聞いた。
「うん。もう飽きた」
大和は明るくそう返した。
「飽きたから止めるって…。女の子へのイタズラは早い段階で懲りたけど僕らにはしょっちゅうしとったからな」
凛太朗はそう呆れた。
大和は小学校低学年の時に好きな女の子に引っ付いてもらおうと虫のおもちゃを使ってイタズラをして嫌われたことがあるため、「女の子には」イタズラしないと決めていた。しかし、その分凛太朗やその男友達にイタズラをしていた。
「だって、凛太朗兄ちゃんは最初のうちは面白いくらい驚いてくれたけど、だんだん警戒するようになってつまらんだんやもん。最後まで驚いてくれたのはハゼ君とイクラ君だけやった」
大和は悪びれることなくそう振り返った。
「そりゃ警戒もするよ。自分の席の椅子に座布団があったら、絶対何かあるって思うやろ。机の中にも変な物ないかって探ってみたらネズミのおもちゃが入っとたし。ハゼとイクラが単純なだけやよ」
凛太朗もそう振り返った。
「凛太朗兄ちゃんは慎重やよね。毎朝自分の下駄箱や席に変なものがないか細かく確認しとったし、まっすぐ立ってたから膝カックンも効かんかったし、後ろから大声を出して脅かしてもカンチョーしても淡々と『また大和か』としか言わんくなったもんな」
大和はそう拗ねながらもどこか懐かしそうにそう話した。
「もし本当の兄弟やったら、家でもイタズラされたんやろな。寝ている間に顔に落書きとかされそう」
凛太朗はそう呟いた。
「うん。昔父ちゃんにオバQメイクして母ちゃんに怒られた」
大和は元気いっぱいそう答えたので凛太朗は
「本当にしてたのか。しかも想像以上に手が込んどる」
とツッコまずにはいられなかった。
「朝起きて鏡見たらオバQになっとったから、寝ぼけてるのかと目を疑ったよ。その後お母さんの化粧品を使ったことがバレて怒られたんやよ」
大和の父親である叔父がそう説明した。因みに叔父も看護師であり、叔母の最初の勤務先の病院の先輩だった。
「でも、『おしろいは貯めたお年玉で買ったもん!』って主張してきたから『お年玉を何やと思っとんの⁉︎』って叫んだっけ」
叔母もそう振り返った。
「ブーブークッションも虫やネズミのおもちゃもお年玉で買ったんや?」
凛太朗が呆れながらそう聞いたら、大和は
「うん!」
と即答した。
「お年玉の使い道は持ち主の自由やから、好きに使ってええよ。そんなことになるとは思ってなかったけど」
祖母も苦笑いしながらそう話した。
「今年も3人ともお年玉を用意しとるよ」
その話を聞き、思い出したように祖父がお年玉を出した。
「ありがとう」
歩美は、笑顔でお年玉を受け取った。そして大和に
「大和君は今年はお年玉で何買うつもりなん?」
と聞いた。すると大和は嬉しそうに
「ゲーム!」
と答えた。イタズラグッズよりはマシだが、子供らしい買い物に違いはなかった。
続けて大和も歩美に
「そう言う歩美お姉ちゃんは何買うん?」
と聞いた。それに対して歩美は
「そうね。使わず貯金することが多かったけど、新しい服を買ってもいいかも」
と答えた。
そんな歩美を見て祖父は
「歩美、随分明るくなったな」
と話した。
「そう?確かに今は楽しく過ごしとるけど」
歩美は驚きながらそう返した。
歩美が小学校で男子にからかわれて泣いていたことを知っている祖父母は、そのことをずっと気に掛けてきた。特に祖父は小児科医ということもあり、母親と共に治療もしてきた。
「女子校に入ったのもそうやけど、やっぱり彼氏の昌雄君のおかげとちゃう?」
凛太朗は淡々とそう話した。
「そうやね。勉強を教えるのも結構楽しい」
歩美は恥ずかしそうにそう返した。
「そっか、歩美に彼氏ができたんやね」
祖母がそう微笑んだ。
「昌雄君って、隣の家の子やったよね?確か、警察官の家の」
祖父も思い出したようにそう聞いた。
「うん。警察官になりたいからって頑張っとるの。今は、高校受験の勉強に協力できとることが嬉しい」
歩美はそう答えた。
「昌雄君ももうすぐ高校生か。みんな大きくなったな」
祖父はしみじみとそう呟いた。
その後、祖母が用意したお節料理を親戚一同で囲んだ。
「美味しい。やっぱりおばあちゃんの料理が好きやな」
歩美はそう言い笑顔になった。
「ありがとうな。みんなが美味しそうに食べる顔を見たくて、毎年張り切って作るんや」
祖母は嬉しそうにそう返した。
歩美にとって、母親の実家やこうして親戚が集まる時間はとても温かくて幸せなものである。そのため、毎年元日に顔を合わせることが楽しみになっている。
しかし、母親の実家へ抱く気持ちは以前とは異なるものになっていた。祖父母のことが好きであり、居心地がいい場所であることは変わりはない。
小学生の頃の歩美にとっては逃げ場だった。クラスの男子にからかわれたり女子に後ろ指を指されることが辛い時に、歩美は自転車を走らせて祖父母に会いに行っていた。
祖父母はその度に辛いという話を聞いてくれて、両親に連絡して泊めてくれることも何度もあった。
それが、今となっては純粋に親戚と会う場所になっていた。歩美は、祖父母にすがらずに過ごせるようになったことに安心しながら、当時は救いの場所になってくれたことを心から感謝するのだった。
ただ、それは歩美にとっては恥ずかしい話でもあったため、祖父母は昔のことを話題に出すことはなかった。その配慮もありがたく感じている。その代わりに、歩美が元気になったことを喜んでくれているのだ。
これから先、大人になっても、もし結婚しても、こうして親戚で集まりたい、祖父母に会いに行きたい、そのために長生きしてほしいと歩美は思うのだった。




