心安らぐ場所
12月に入り、街はクリスマス一色になった。昌雄もサンタクロースに期待する年齢ではなくなったが、何だかワクワクした。
そして自室で歩美に勉強を教えてもらった後に、
「今年のクリスマスは歩美さんの家で過ごしたい」
と言い出した。
「私の家⁉︎どうして?」
歩美は驚いてそう聞いた。
「去年は俺の家やったから、今度は歩美さんの家でしたいなって思って。歩美さんの家族にも改めて挨拶したいし」
昌雄は明るくそう話した。しかし、歩美はすぐには返事をできずに複雑そうな顔をした。
そのことに不安を感じた昌雄は、
「俺が歩美さんの家に来たら迷惑?」
と聞いた。それに対して歩美は
「そんなことはないよ。私は嬉しいし、家族も歓迎してくれると思う。ただ…」
と言葉を詰まらせた。昌雄はその理由がわからず、続きを待つしかなかった。
そして歩美はようやく
「せっかくマサ君のために用意した料理を、凛太朗に食い尽くされそうな気がしてならない」
と続けた。
それを聞いた昌雄は思わず
「あー!」
と叫んだ。
昌雄も、凛太朗の大喰らいはよく知っている。歩美がバレンタインデーのために練習として作ったお菓子を食い尽くされたと聞かされたくらいだ。その前から、凛太朗のことはよく知っているが、本当に容赦無く食べるのだ。
「確かに否定できへんな。凛太朗君、恐るべし」
昌雄はそう呟いた。
「やろ?」
と歩美は言った。そして
「もし迷惑やなかったら、またマサ君の家で過ごしてもええ?」
と続けた。気付けば、勉強を教えるために昌雄の部屋に入り浸るようになっていたため、家に行くことに抵抗がなくなっていた。
「もちろんええよ。また頑張って料理しようかな」
昌雄はそう返した。
「マサ君の作る料理、美味しかったから嬉しいな」
歩美はそう微笑んだ。
その時にふと、自分は料理が得意ではないから、昌雄のようにはできないと考えた。本当は自分も練習して料理できるようにすべきだろう。将来昌雄に料理を任せっぱなしにしてしまうのだろうかと、遠い未来のことまで考えた。
「どうしたん?急に思い悩んだ顔をして」
考え事から表情が曇った歩美のことを、昌雄は心配した。
「いや、私も料理できたらええのになって思って」
歩美は思っていたことを正直に話した。
「歩美さんに料理してもらえたら嬉しいけど、急がんでもええよ。それに、練習しても凛太朗君に食われるんやろ?」
昌雄にそう言われて、歩美はほっとしった。それと同時に、昌雄の考えが大人っぽいことに感心した。体の成長も感じていたが、内面もしっかり成長しているのだと実感した。
「そうね。じゃあ、お言葉に甘えてマサ君の料理を楽しみにするね」
歩美はそう返した。
「よし、去年よりも美味しく作るぞ!」
と昌雄は張り切った。
「―というわけで、歩美さんは今年もこの家でクリスマスを過ごしたいって言うてた」
その日の夕食時に、昌雄は家族にそう告げた。
「歩美ちゃん、昌雄の勉強を教えるためによくこの家に来てくれてるしね。居心地良く思えてもらえてるなら良かった。もちろん歓迎やよ」
母親は嬉しそうにそう返した。
「それでさ、今年はクリスマスの料理を全部用意しようって思っとるんや」
昌雄はそう続けた。
「兄ちゃん、普段から料理しとるもんね」
義雄はそう納得した。
母親も叔父も仕事で帰りが遅い日が多いため、夕食は同居している祖母が作ることが多いが、昌雄が作ることも多かった。母親も料理ができないわけではないが、祖母の方が上手である。そのため昌雄は祖母に、
「ばあちゃん、改めて料理を教えてもらってもええ?」
と頼んだ。
「もちろんええよ。あんまりオシャレなものは作ってへんけど」
祖母はそう快諾した。
「それから、クリスマスケーキも手作りしてみようと思うんや。バレンタインデーには歩美さんがお菓子を手作りしてくれたし」
昌雄はそんな話もした。
「それはええけど、私は洋菓子を作れへんよ?」
祖母はそう困惑した。
「大丈夫、教えてくれそうな人を知っとるから」
と昌雄は返した。
「―というわけで、クリスマスケーキを作りたいと思っているんです。お菓子作りを教えてもらってもいいですか?」
昌雄は、志緒里に電話でそう話した。先日のバンド演奏の際に、昌雄はメンバーの連絡先を交換していたのだ。
「もちろんええよ。歩美だけやなくて、昌雄君にまで頼まれるとは」
電話越しに、志緒里の温かい声が聞こえた。
「良ければ家に来て教えようか?レシピだけやとわかりにくいやろから」
志緒里はそう提案した。
「それはありがたいですけど、家にお邪魔していいんですか⁉︎」
昌雄はそう驚いた。
「大丈夫やよ。歩美にも私の家で作り方を教えたし」
志緒里は淡々とそう返した。
「でも、歩美さんが来るのと俺が来るのではわけが違いませんか?何か緊張します」
泊まりではないとはいえ、男の自分が彼女でもない女の子の家に上がり込んでいいのだろうかと困惑した。
「歩美のためってわかるから大丈夫やよ。緊張するならたまちゃんでも呼ぼうか?」
志緒里はそう提案した後に、少し間を置いてから
「いや、たまちゃんはこのことを歩美にバラしそうやからやめといた方がええか。内緒にしておきたいよね?」
と続けた。
「そうですね。歩美さんをビックリさせたいです。…そうや、凛太朗君を誘ってみてもいいですか?彼なら口が堅いし、お菓子を出されたら喜ぶでしょうから」
昌雄は、そんなことを考えついた。
「歩美の弟君?もちろん来てくれてええよ。あの子、すごい大食いやったね」
志緒里は笑いながらそう返事をした。凛太朗の食欲は、バンドメンバーの間でも知れ渡っていた。
「じゃあ今度、凛太朗君にも話をしてみます。返事をもらってから改めて連絡します」
昌雄は志緒里にそう伝えた。
「うん。予定が決まったら住所を教えるね」
志緒里はそう返し、通話が終了した。
「凛太朗君、少し話したいことがあるんやけど」
翌日の部活帰り、昌雄は凛太朗をそう呼び止めた。
「何?お金なら貸さないよ?」
凛太朗は真顔でそう返した。
「何の疑いかけてんねん。俺が君に借金したことなんてないやろ」
昌雄はすかさずそうツッコんだ。
「もちろん冗談やよ」
凛太朗は顔色を変えずにそう言った。
「凛太朗君でも冗談とか言うんやね」
凛太朗は真面目で堅物な印象が強いため、昌雄はそう感心した。
「改めて、話って何?」
凛太朗はそう話題を戻した。それに対して昌雄は、前日までの経緯を話した。
「じゃあ、お菓子が食べられるんや。もちろん行く」
凛太朗はそう返事をした。表情が薄い凛太朗にしては随分嬉しそうな顔をしていたので、内心はかなり楽しみなのだろうと昌雄は思った。
「じゃあ、凛太朗君も来るって志緒里さんに連絡するな。その後に場所を教えるから」
昌雄は凛太朗にそう伝えた。
「お邪魔します」
その後の休日、昌雄は凛太朗と2人で志緒里の家を尋ねた。
「2人ともいらっしゃい。ここに来るまでに迷わなかった?」
志緒里はそう言いながら2人を迎えた。
「はい。大丈夫でした。今日はよろしくお願いします」
昌雄はそう返事をした。
「今日は何を作るんですか?」
凛太朗がそう食い付いた。それだけでも、いかにこの日を楽しみにしていたかが窺える。
「ブッシュドノエル。クリスマスらしくなるかと思って」
志緒里は苦笑いしながらそう答えた。
「あの、木を模したケーキですよね。食べてみたかったんです!」
凛太朗はそう言い、随分とテンションが上がっている。
「基本的な作り方はロールケーキと一緒やよ。デコレーションしやすいから楽しいかも」
志緒里はそう説明した。
「そうなんですね。僕もお菓子作りしてみようかな」
凛太朗はそう話した。
「レシピは2人分用意しているから持って帰ってな」
志緒里はそう言い、レシピを取り出した。
「ありがとうございます」
昌雄と凛太朗はそうお礼を言った。
それから、志緒里は材料や作り方の手順を丁寧に説明していった。昌雄と凛太朗は、お菓子作りに馴染みがなかったのでそれを見るだけでもワクワクした。
「ケーキを巻くのが、1番難しいかな。ゆっくり丁寧にするの」
志緒里は、ケーキを焼いている時にそんな話をした。
「俺、あまり器用やないから上手く巻けないかもしれません」
昌雄は不安になりそう呟いた。
「確かに綺麗に作れたらその方がええけど、やっぱり見た目より味の方が大事やよ。それに、気持ちを込めて作ったことに歩美は喜んでくれると思うよ」
志緒里はそう話した。
「歩美さんと親しい志緒里さんにそう言われると心強いです。頑張ります」
その言葉に嬉しくなった昌雄は、そう張り切った。
「そういえば、姉さんって最近学校ではどう過ごしていますか?家ではあまり学校の話はしませんけど、以前にも増して楽しそうにしているので」
凛太朗は、志緒里にそんな質問をした。
「私は今年は歩美と違うクラスやからその様子はわからんけど、部活は一緒に楽しく取り組んどるよ。先輩達が引退して最高学年になった分、部活を引っ張っていこうって2年生は張り切っとるの。みんなで新しい演目を考えたんやけど、歩美は主役のお母さんの役を楽しそうに演じとる」
志緒里はそう話した。
「歩美さんがお母さんの役って珍しいですよね?去年観に行った時みたいに、ヒロインを演じることが多いのだろうと思っていました」
昌雄は、そんな感想を述べた。
「そうやね。部員同士でも意外やねって話してた。でも、実際してみたらすごくハマってた」
志緒里は楽しそうにそう話した。
「元々ヒロイン役も、姉さんが自らやりたいって手を挙げたわけではなかったんですよね?」
凛太朗はそんな質問をした。
「そうやね。入部した時に大まかな役割は割り振られたけど、歩美は役者をしたいって強く押していたわけでもなかった。私は自ら裏方に立候補したけど。歩美は役をえり好みせずにきたけど、どんな役も楽しいみたい」
志緒里はそう答えた。
「姉さんが楽しそうで良かった」
凛太朗は独り言のようにそう呟いた。
その様子を見た昌雄は、凛太朗は歩美のことを褒めたり自慢することはなく素直でない印象があったが、ちゃんと弟らしく気に掛けているのだと感心した。
そんなたわいもない話をしているうちにケーキが焼けた。まだ冷ます時間が必要になるが、すでにいい香りがして美味しそうに焼き上がっているケーキを見て、凛太朗はさらにテンションが上がった。
「生クリームって、ハンドミキサーより手で泡立てる方がきめ細かくなって美味しいんやよね。昌雄君、泡立ててみる?」
ケーキが冷めてから、志緒里が昌雄にそう聞いた。
「はい、やってみます」
昌雄は張り切ってそう答えた。お菓子を作らない昌雄でも、ピンとツノが立つまで泡立てるということは知っていた。
昌雄は生クリームを泡立てたことがなかったので手つきはぎこちなかった。それでも力一杯泡立てていった。そんな中で昌雄は
「泡立てるのって大変ですね」
と言った。とはいえ野球で鍛えてきた分力があったため、極端に疲れは感じず、仕上がるまでに長い時間も掛からなかった。
「ええ感じやね」
ツノが立った生クリームを見て、志緒里はそう言った。
「大変な分やりがいがありますね」
昌雄は、生クリームの仕上がりに満足してそう返した。
「あとはクリームを塗って形作るだけやね」
志緒里はそう言い、ケーキに生クリームを塗っていった。そして、
「クッキングシートを使うのは基本やけど、滑りにくくするために下に濡れ布巾を強いた方がええよ。最後に麺棒を置いてシートを引っ張って、形を整えるの」
とケーキを巻くコツを伝授した。
「へー、いろんな工夫があるんですね」
昌雄はそう感心した。
「ロールケーキの端を斜めに切って上に乗せてクリームを塗るのがバームクーヘンの基本やね」
志緒里はそう説明しながら切ったケーキにクリームを塗った。
「最後にクリームにフォークで筋を入れることもあるけど、これは自由やね」
志緒里はそう続けながら、フォークで筋を入れた。そして
「さあ、完成したよ」
と言った。
「綺麗で美味しそうですね」
昌雄と凛太朗はそう言い瞳を輝かせた。
「早速食べようか」
志緒里はそう言い、ブッシュドノエルを切り分けた。
「凛太朗君は、これくらい食べたい?」
志緒里は、切り分けた分の半分以上を皿に取ってそう聞いた。
「はい。たくさん食べたいです!」
凛太朗は喜んでそう答えた。凛太朗は、食べ物を目の前にすると素直になるのだと昌雄は感心した。
「美味しいです。これだけ上手に作れる志緒里さんってすごいですね」
凛太朗は食べながらそんな感想を述べた。
「好きでやっとるだけやよ。でも、それが歩美や昌雄君の役に立てて嬉しい」
志緒里はそうはにかんだ。
「丁寧に教えていただいてありがとうございます。俺も頑張って練習します」
昌雄は改て志緒里にお礼を言った。
それから昌雄は毎日、夕食の支度をするようになった。それは、クリスマスの料理の練習だけでなく、部活を引退して時間があるという理由もあった。
「昌雄、元から料理上手やけど日に日に上達しとるね。これからも食事の用意をお願いしたいくらい」
昌雄の用意した夕食を食べながら、祖母はそう感心した。それに対して昌雄は
「そう言ってもらえて嬉しい。高校入るまでは時間があるから毎日作ろうかな」
と返した。元々料理は嫌いではなかったが、褒められるとやはりやりがいを感じられた。
そして休日には、ブッシュドノエルを作る練習をした。材料は自分で買い揃えた。調理器具としてオーブンはもちろんボウルや鉄板はあるが、ハンドミキサーがないことに後から気付いた。
「しまった。ハンドミキサーを買ってもらうように頼んだ方が良かったかもしれない」
昌雄はそう思った。しかし、手動の泡立て器はあるため、自力で混ぜれば作れるだろうと思った。そうしてバレンタインデーの時の歩美と同じことをしていることを、昌雄は知らない。
その結果、歩美と同様ケーキの生地を泡立てる際に体力を使ったが、力がある分時間はかからなかった。それに、既に生クリームは泡立てたため、少しだけ腕が慣れていた。
そうして作り上げたブッシュドノエルは、志緒里が作ったものほど綺麗ではなかったが、それなりに様になっていた。
そうして完成品を切り分けようとした時に、
「ピンポーン」
と家のチャイムが鳴った。
昌雄は、もし歩美だったら計画がバレてしまうと不安になり、急いでブッシュドノエルを冷蔵庫に隠した。
それからダッシュで玄関の扉を開けたら、そこには歩美ではなく凛太朗がいた。
「凛太朗君、どうしたん?」
昌雄は、凛太朗が来た理由がわからずにそう聞いた。それに対して凛太朗は
「休日やし、昌雄君はお菓子作りの練習でもしとるかなって思って試食しに来た」
と答えた。
「君、超能力でもあんの?丁度練習として作ったブッシュドノエルが完成したところなんやけど」
昌雄はそう驚いた。
「じゃあ、お菓子を食べられるんや」
凛太朗はそう嬉しそうにしていた。
「うん。食べてくれてええよ。それで、正直に感想を聞かせて」
昌雄は凛太朗にそう告げた。
「じゃあ、お邪魔します。姉さんが練習で作ったお菓子も美味しかったし、昌雄君は元々料理上手やから期待できるな」
凛太朗はそう言い昌雄の家に入った。
「凛太朗君がうちに来るのって久しぶりやない?歩美さんはよく来るけど」
昌雄は、ブッシュドノエルを切り分けながらそんな話をした。
「言われてみればそうやな。小学校まではよくハゼと遊んどったけど」
凛太朗はそう答えた。
「凛太朗君は、これくらい欲しいよね?」
昌雄はそう言い、ブッシュドノエルの4分の3を凛太朗に渡した。
「こんなに貰ってええの?ありがとう」
そう話す凛太朗の声は、普段より随分と明るかった。
「美味しい。これなら姉さんにも喜んでもらえるよ」
昌雄の作ったブッシュドノエルを食べた凛太朗は、そう絶賛した。
「ありがとう。凛太朗君にそう言ってもらえると心強いよ」
昌雄はそう喜んだ。凛太朗はお世辞を言うことはなく、人を褒めること自体が少ないため、より嬉しかったのだ。
そして昌雄も自分で食べて
「確かに美味しい。これならクリスマス当日も大丈夫やな」
と安心した。
そうして、クリスマスイブの日がやって来た。昌雄も歩美も、学校は冬休みに入っていた。
そのため、昌雄は朝からディナーとお菓子の準備にと忙しく過ごした。「歩美さんに喜んでもらいたい」その一心だった。
ディナーの下拵えは一通り完了し、ロールケーキも完成させた。後はデコレーションするだけだと張り切った。
練習の時はデコレーションはしていなかったが、当日はブッシュドノエルを可愛く華やかにしようと思ってきた。そのため昌雄は、ワクワクしながら事前に買っていたきのこの山を飾り付けていった。
しかし、張り切りすぎたせいできのこの山を飾りすぎてしまい、きのこが大量発生した樹木のような、可愛いとは言い難い仕上がりになった。
「どうしよう、これ」
昌雄はそう呟いた。飾りすぎたきのこの山を取ろうかと考えたが、それだと飾った跡の穴ぽこだらけになって、それはそれで不恰好になるような気がした。
「仕方ない、これでいくか」
昌雄はそう決心した。
そして夜になり、歩美が
「お邪魔します」
と家にやって来た。
「待ってました。今年もゆっくりしてな」
昌雄は、笑顔で歩美を迎えた。
「今年も皆さんにクリスマスプレゼントを用意しました」
歩美は昌雄の家族にそう挨拶をした。
「ありがとう。今年も用意してもらえたなんて嬉しいわ」
昌雄の母親はそう喜んでお礼を言った。
「今年は兄ちゃんがクリスマスのディナーとケーキを全部手作りしたんやよ」
義雄は歩美にそう伝えた。
「そうなの⁉︎すごい!作ってくれてありがとう」
歩美はそう感動した。
「じゃあ、早速食べてもらいましょうか」
母親は張り切って昌雄が作った料理を取り分けて出した。
「これ、全部マサ君が作ってくれたんや。準備するの大変やったんやない?」
歩美は、出された豪華な料理の数々を見てそう聞いた。
「確かに朝から準備しとったけど、歩美さんに喜んでもらおうって思いながら作ったから楽しかったよ」
昌雄はそうはにかんだ。
「どれも美味しいね。作ってくれて本当にありがとう」
そう笑顔で料理を食べる歩美を見て、昌雄は心が満たされた。
「喜んでもらえて嬉しい。朝から準備した甲斐があったな」
昌雄もそう笑顔になった。
「やっぱり、この家に来ると心安らぎます」
歩美は昌雄の家族と囲む食卓の中で、そう話した。昌雄と付き合うようになり、勉強を教えに通っていることもあり、前年のクリスマスイブほど緊張しなくなった。
「私達も、歩美ちゃんが来てくれるのは嬉しいよ。昌雄と付き合うようになってくれたことに感謝しとるんや」
母親は、改めて歩美に感謝の言葉を述べた。歩美はその言葉を聞き、長谷川家は本当に温かい家庭だと思った。
「昌雄、クリスマスケーキも作ったんやったね。早速出してあげて」
ディナーを完食したあと、母親が昌雄にそう言った。それに対して昌雄は
「う…うん」
とぎこちなく笑った。歩美はその理由がわからず、どうしてこのような反応をしているのだろうと疑問に思った。
「今回はクリスマスらしくブッシュドノエルを作ったんや。変な仕上がりになったけど」
昌雄はそう説明しながら、ブッシュドノエルを出した。歩美は、きのこの山が大量発生しているそれを見て
「デコレーションに張り切りすぎたの?」
と言い、思わず吹き出しそうになった。
「やっぱり変やよね、これ。全然笑ってくれてええよ」
昌雄はそう苦笑いしながらブッシュドノエルを切り分けた。
「美味しい。マサ君ってお菓子作りそんなにしてなかったよね?すごい」
歩美はブッシュドノエルを食べて、そう話した。
それに対して昌雄は
「うん。自分1人でお菓子を作ったのはこれが初めてやよ。実は、志緒里さんに教えてもらいに行ったんや」
と話した。
「私も志緒里にお菓子作りを教えてもらったけど、初心者でも美味しく作れるように教えてくれて、すごいよね」
歩美はそう感心した。昌雄が女の子に相談をして会いに行っていたという事実を聞かされたわけだが、その相手は親友の志緒里のため、モヤモヤした気持ちや嫉妬心は一切芽生えなかった。
「今年もこの家でクリスマスイブを過ごせて嬉しいです。もし迷惑でなければ、毎年来てもいいですか?」
歩美は、長谷川家で過ごしたクリスマスイブを幸せに感じて、そう聞いた。
「迷惑なわけないやん。クリスマスイブ以外でも、いつでも歓迎やよ」
母親は笑いながらそう答えた。
「歩美ちゃんが来てくれるのはいつも嬉しいよ。いつお嫁に来てくれてもええからな」
そんな叔父の言葉に、歩美は何だか恥ずかしくなるのだった。




