勉強以外の学校生活
11月になり、歩美達の演劇部では3年生が引退した。そのことにより涼子が部長に、志緒里が副部長になり、2年生が部活を仕切るようになった。
「先輩達が引退して寂しいな」
「これからは私たちが頑張らんとな」
2年生の部員はそう話した。
「涼子先輩、改めてこれからよろしくお願いします!」
1年生たちは元気よくそう話した。演劇部は部員同士の仲が良く、涼子は部長になる前から後輩たちに慕われてきた。
「ああ、任せな!」
涼子はそう張り切ったので
「さすが先輩、カッコいいです」
と後輩たちは顔を緩めた。
「学校生活って勉強だけやないもんね。せっかくなら楽しまんと」
歩美もそう言った。
「うん、演劇部楽しい!」
珠姫もそうはしゃいだ。珠姫も後輩と仲がいいが、話しやすい一方あまり先輩扱いはされてこなかった。
一方、顧問の先生達は「みんなしっかりしてるから」とあまり心配していなかった。部員達からも頼りにされている先生達だが、しっかり相談してくれると思っているからでもあった。
2年生達はまず、新しい演目の決定について相談し合うことになった。
「これまでは先輩がオリジナル作品を書いてくれる事が多かったけど、既存の作品をするのもありやよね」
部長の涼子はそう切り出した。
「そうやね。私は台本なんてよう書けへん。オリジナル作品にするならみんなで話し合って作っていかへん?」
副部長の志緒里はそう提案した。
「それも面白そう!」
珠姫はそう賛同した。
「たまちゃんに任せたら、ギャグになりそうやな…」
潤は独り言のようにそう呟いた。
「それはそれで面白いんとちゃう?笑わせるって結構難しそうやけど」
歩美はそう返した。
学園祭でのクラスの演劇発表は演技力のないおふざけだけの内容も多いが、この演劇部は演技力に基づいてしっかりと笑わせられるだけの技量がある。それに、本当に笑いを取るためには真剣に演技をしなければいけない。
「そうだ、あの少年漫画のギャグスピンオフなんてどう⁉︎」
珠姫がそう提案した。
「あれ、珠姫も読んどるんや。女子校でするのは意外やけど、やからこそ面白いかも」
と涼子は返した。
「せっかくなら、1年の子達をメインにしてあげよう。先輩達も私たちが1年の時にそうしてくれたから」
歩美はそう提案した。
「そうやね。これからの後輩の活躍が楽しみやもんね。ちなみに、歩美は何の役したい?」
涼子は歩美の意見に賛成しながら、そう聞いた。それに対して歩美は
「主役のお母さん」
と答えた。
歩美はヒメインロインの役が多かったので他の役にも挑戦してみたいと思ってきた。
「ちょっと意外」
「でも似合いそう」
「男役よりはお母さんって感じやよね」
部員達はそんな反応で盛り上がった。歩美自身、自分は男役は似合わないと思っており、してみたいと思うこともなかった。
「よし、歩美をお母さん役にして、みんなで台本を作っていこう!」
涼子はそう張り切った。
「うん、楽しみ」
それから、部員達は協力して台本作りを進めていった。
一方、昌雄達は夏に野球部を引退したため、部活という学校の楽しみがなくなってしまった。他の運動部だったクラスメイト達も、
「部活はキツかったけど、引退してからは勉強ばっかりになって辛い」
と嘆いていた。
「その分暇になったな。こないだはゲーセンと映画館に行ってきたわ」
ある昼休み、羽山は教室でそんな話をした。
「確かに遊べなくはないけどさ、部活を引退したら完全に受験のことを考えさせられるやん」
昌雄はそう指摘した。気晴らしも大切であるが、遊んでばかりで勉強を怠っていたら志望校に入れなくなる。
「大事な時期やもんな。こんなに進路や勉強のことを考えさせられたのは初めてやわ」
壮磨もそう納得した。
「でも、後輩とは会う機会があるよ。この前は授業で使うから色鉛筆貸してほしいって頼まれた」
壮磨はそう続けた。
「同級生の部活仲間だけやなくて後輩との関係が切れてへんってええよな。でも、先輩に物を貸してほしいって頼みに来たんや?」
昌雄はそう返した。
「うん。同級生はみんな持ってなかったらしい。俺は学校にあったから、後輩の役に立てたことが嬉しかったわ」
と壮磨は答えた。
「昌雄君、次の休日はキャッチボールに付き合ってくれへん?」
その翌日の昼休み、淳平が昌雄のクラスに来てそう切り出した。
「ええけど、俺でええの?今の相棒とする方が実践的なんとちゃう?」
昌雄はそう疑問を抱いた。
「そうなんやけど、昌雄君とキャッチボールするのが楽しかったから、またしたいなって思ってさ」
淳平は笑いながらそう答えた。
昌雄は、前日にクラスメイトと話した内容を思い出し、淳平は受験勉強の気分転換を提案してくれたのだろうかと考えた。そのため、
「そういうことならやろっか。休日ならいつでも空いとるし」
と快諾した。
そして迎えた休日の午後、この日は少し寒かったが屋外スポーツには最適な快晴だった。
「こうやってグローブ持つの、なんか懐かしいな」
昌雄はグローブを着用しながら独り言のように呟いた。
「懐かしいって、そんなに昔の話やないやん」
淳平はそうツッコんだ。
「部活を引退してから学校でも家でも受験一色やからさ、野球しとったんが随分前のことのように思うんや」
昌雄はそう返した。
「やっぱり受験って大変なんやね。俺も1年後にはそうなるんか…」
淳平はそう言いながらボールを持った。
「好きなタイミングで投げてええよ。腕が落ちとるかもしれへんけど」
キャッチボールの準備が整った昌雄は、淳平にそう告げた。
「よし、行くで!」
淳平はそう合図してボールを投げた。昌雄はそれをすんなりとキャッチした。
「腕、全然落ちてへんやん。部員時代のまんま」
淳平はそう感心した。
「それなら良かった。どんどん投げて」
昌雄もそれを嬉しく思いながらそう返した。
こうして飽きることなくキャッチボールは続き、外は少し暗くなり始めていた。
「もうこんな時間⁉︎やっぱキャッチボールって楽しいな」
昌雄は驚きながらもそう言った。
「そうやね。昌雄君とするのはもっと楽しい。でも、疲れを溜めたらあかんから、今日はこれで終わりにしようか」
淳平はそう返した。
「淳平、今日は誘ってくれてありがとう。気が向いたらまたいつでも誘って」
昌雄は淳平にそうお礼を言った。
その翌週の休日、昌雄は空き倉庫に来ていた。そう、歩美にバンド演奏を見に来てほしいと誘われたのだ。
「昌雄君、久しぶりやね。来てくれてありがとう。遅ればせながら、歩美と付き合えて良かったわ」
昌雄と会った涼子はそう挨拶をした。
「お久しぶりです。歩美さんは皆さんにも相談してきたと聞いているので感謝しています」
昌雄もそう挨拶した。
「バレンタインデーのお菓子、志緒里が作り方を教えてくれたもんね。上手くいって良かったよ!」
珠姫がそう言い出した。
「そうだったんですか。ありがとうございます。美味しかったです」
昌雄は志緒里にそうお礼を言った。それに対して志緒里は
「そんな大したことしてへんから」
とはにかんだ。
「珠姫は志緒里の家でのお菓子作り教室にも来たし、歩美がバレンタインデーに作ったお菓子も大量に貰っていたから、珠姫のためにもなったかもな」
涼子は、苦笑いしながらそう話した。
「なんか、珠姫さんらしいですね」
珠姫のことを詳しく知っているわけではないが、昌雄も苦笑いしながら納得した。
「もー、みんなしてそんなこと言って!でも確かにラッキーやったな」
珠姫は拗ねながらもそう返した。
それからメンバーは演奏の準備を整えた。
「さあ、演奏を聴いてもらおうか」
歩美はそう張り切った。
「すごく楽しみです」
昌雄もそうワクワクした。
演奏した曲は明るい応援歌や昌雄が好きな曲、洋楽の和訳など幅広かった。生演奏を聴く機会がほとんどない昌雄は、とてもテンションが上がった。
「演奏お疲れ様でした。とても楽しかったです」
演奏後、昌雄はそう感想を述べた。
「こっちこそ聴いてくれてありがとう。見てくれる人がいた方が、演奏も楽しいから」
歩美はそう言い笑った。
「歩美は昌雄君を呼びたいってずっと言ってたもんね。ようやく叶った」
志緒里もそう話した。
「昌雄君が来てくれるのは、いつでも歓迎やよ」
涼子もそう話した。その言葉に嬉しくなった昌雄は
「ありがとうございます。また来ます」
と返した。やはり、高校受験は大切だが、休日にこのような楽しみがあってもいいだろうと思うのだった。




