人生のセンパイ
夏休みが終わり、中学校では本格的に高校受験に向けて話が進んだ。
「それで、長谷川はもう志望校を決定したのか」
進路面談の際に、昌雄は担任の五十嵐先生にそう確認された。
「はい。この学校にします」
昌雄ははきはきとそう答えた。
「今の長谷川の成績ならあまり苦労せず入れると思うよ」
五十嵐先生はそう返した。
「本当ですか⁉︎それなら志望校目指して改めて頑張ります」
昌雄はそう喜んだ。
「ああ、後悔のないようにな」
五十嵐先生はそう続けた。
その言葉に、昌雄は強く納得した。これからは学校を自ら選ぶことにより、今後の人生に大きな影響が出る。自分が何をしたいのか、改めてしっかり考えないとと思った。
「ちなみに先生はこの高校の出身やないけど、幼馴染や教え子が通っとったよ」
五十嵐先生は、そんな話を切り出した。
「そうなんですか。ちなみに、何の仕事に就いたか知ってますか?」
昌雄はそう食いついた。
「幼馴染は道場の先生になったよ。進学率は高いけど、体育会系の学校って印象があるな」
五十嵐先生はそう感想を述べた。
警察官を目指している自分にとって、その校風は合っているかもしれないと昌雄は思った。
「両親みたいな警察官になれるでしょうか」
昌雄は独り言のようにそう呟いた。
昌雄が警察官になりたいと思った理由は、地元の安全を守りたいというだけでなく、その仕事をする両親への敬意もあった。
両親は同期の警察官であり、共にやり手だった。母親は今でも出世を続けて活躍している。父親は巡査部長に就任して間もない頃に、仕事中に自動車に轢かれて亡くなった。そのことを惜しまれていたことを子供ながらに覚えていることもあり、父親の警察官としての遺志を引き継ぎたいと思ってきた。
「長谷川は警察官を目指しとるんや。真っ直ぐで優しい長谷川なら大丈夫やよ」
五十嵐先生はそう微笑んだ。
歩美からいい警察官になれると言われたことも嬉しかったが、担任教師という人生経験の長い大人にそう言われるとさらに説得力が増した。
それから昌雄は、警察官になりたいという夢を家族や周囲の同級生にも話すようになった。
「昌雄が警察官に⁉︎」
母親はそう驚いた。
「まさか同じ仕事を目指してくれるなんて思わんだから嬉しいわ。でも、過酷な仕事よ」
母親はそう続けた。
「もちろん、警察官としての苦労は母ちゃんや父ちゃんを見てきてそれなりに知っとるつもりやから覚悟はしとるよ」
昌雄はまっすぐそう答えた。
「ありがとう。私も応援しとるからね」
母親は嬉しそうにそう返した。
「長谷川、警察官を目指しとるんや。かっこええな」
親しいクラスメイトに話したら、羽山にそう興奮された。そして
「長谷川になら捕まるのも悪ないかもしれへんな」
と続けたので昌雄は
「捕まえたくはないわ!というより捕まるようなことするな!」
とツッコんだ。
「そうやよな。悪いヤツを捕まえんのが警察の仕事やけど、悪いヤツがいなくて暇なくらいの方が平和でええもんな」
一緒にいた壮磨もそう納得した。そして
「そういえばお前の両親って警察官やったな。やっぱりそのことに憧れて?」
と聞いた。
「うん。親の名前だけでなれるとは思ってへんけど」
昌雄は恥ずかしそうにそう頷いた。
「今から将来の仕事を考えとるってすごいな。俺も同じ志望校やけど、まだ何も考えてへん」
壮磨はそう感心した。
「いや、それが普通なんとちゃう?」
羽山はそう言った。
「少なくともお前は昌雄に捕まらんようにしなよ」
壮磨が冗談混じりにそう返した。
その頃歩美も、3年時に選択科目が増えることもあり、今後の進路について真剣に考えるようになった。
父親は弁護士として法律事務所を開業しており、母親は祖父が開業した小児科医院を引き継いだため、親の仕事を引き継ぐべきだろうかとも考えた。
そのため科目選択の面談の数日前に両親に
「私に仕事を引き継いでほしい?」
と聞いた。
「歩美がうちの事務所を?考えたこともなかった。歩美は自分がなりたい仕事を選べばええよ」
父親にそう返された。
「そうね。私もお祖父ちゃんに頼まれて医院を引き継いだわけやないよ。お祖父ちゃんを見てお医者さんになりたいと思うようにはなったけど」
母親もそう言った。
「そうなんや。そういえば、叔母さんがお母さんの医院の看護師になったのは、お母さんのお手伝いをするためって言ってたっけ」
歩美は、そんな話を思い出した。
「そうよ。小学生くらいの頃からそう言っとった」
叔母は母親より6歳年下のため、医師を目指す母親を早くから見ていてそう思ったのだろうと歩美は想像した。しかし、歩美は看護師になりたいと考えることはなかった。
また、得意の英語を活かした仕事も考えたが、それ以上に憧れる仕事があった。
「私、美容師になってお客さんを綺麗にして笑顔になってもらいたい」
歩美は、両親の前で自分の夢をそう話した。
「ええやん。そういえば、うちの親父は美容師やないけど髪を切るのが上手かったな」
父親はそう呟いた。
「そうやったんや。私もその腕前を引き継げたらええな」
歩美はそう話した。歩美は特別手先が器用なわけではないが、メイクは上手で手つきも丁寧である。
「みんなは進路はどうするつもりでおる?」
バンドの練習の際に、歩美はメンバーに聞いた。
「私は、白石先生みたいに英語教師として高校に戻りたいな」
涼子はそう話した。白石先生とは歩美と涼子のクラスの担任の英語教師であり、学校の卒業生でもある。
「白石先生って、優しいし面倒見ええよな。涼子もええ先生になりそう」
歩美はそう言い微笑ましく思った。そして
「次の春には姉妹校のあるイギリスに短期留学するんやったね」
と続けた。
「涼子が面倒見ええのは、たまちゃんの制御をしとるからやない?」
志緒里がそう苦笑いした。
「何それひどーい!そういう志緒里はどうなんさ?」
珠姫は膨れながらそう聞いた。
「私はお母さんみたいな薬剤師になりたいって思っとる。薬学部に入るのって難しそうやけど」
志緒里はそう答えた。
「そんで、珠姫こそ進路どうなんさ?」
涼子は珠姫にそう聞いた。
「私?大学に進学することは考えとるよ。でもみんなみたいに具体的な仕事は考えてへん」
珠姫はそう答えた。
「確かに大学に入ってから進路を考えるのもありやな。会社員になる場合がほとんどやろけど」
と歩美は話した後、
「私は、美容師になろうって思っとるんや」
と続けた。
「歩美が美容師って、似合いそうやね。丁寧に切ってくれそう」
涼子はそう返した。
「私の髪も切ってな!」
珠姫も無邪気にそう話した。
「うん、そうなれるように頑張るな」
歩美はそう頷いた。
美容師は、専門学校の案内にあるような綺麗でお洒落なだけの世界ではなく厳しいだろう。それでも技術の向上とお客さんに喜ばれるやりがいもあるだろうから、美容師の道を目指したいと歩美は思うのだった。




