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大切な選択

 8月に入ってから、昌雄は高校のオープンスクールに参加するようになった。気になる学校は複数あり、それらは全てオープンスクールに参加するようにしている。その中で、少しずつ選択肢を絞れるようになってきた。


 この日、昌雄は第一志望校のオープンスクールに参加した。そのため、以前にも増して学校のことを知ろうと張り切っていた。

「あれ、昌雄もここ目指しとんの⁉︎」

オープンスクールの会場では、親友でありクラスメートの根本壮磨と、小学校時代のクラスメートだった茂木(もてき)嶺都(れいと)もいたので、互いに驚いた。

「うん。ここが第一希望」

昌雄はそう頷いた。

「そうなんや。俺も。やから、一緒に合格できるように頑張ろな!」

壮磨は嬉しそうにそう言った。

 同じ中学校の生徒も他に何人かいたが、昌雄にとって親しい相手は彼らくらいだった。

「そうや、俺も昌雄に相談したいことがあるんや。この後付き合ってくれへん?ジュースおごるからさ!」

嶺都もそう必死にお願いしていた。昌雄はその様子に少し呆れながらも

「別に、ジュースおごらんでも付き合うよ?」

と承諾した。

 その後、高校の説明が始まった。昌雄が最初に理解したことは、オープンスクールの参加者同様、在校生も男子が多いということだった。

 実はこれが、昌雄がこの高校を志望した1番の理由だった。共学でも女子が少ない方が歩美に安心してもらえるだろうし、昌雄自身男子と付き合う方が気楽なのだ。

 その影響なのか、制服紹介があったときには女子の参加者達から

「制服ダサい」

「地味で可愛くない」

と不評だった。

 それに対して昌雄は、制服が地味でもいいじゃないかと思った。その一方で、歩美の学校の制服は、落ち着きや気品がありながら可愛いことを思い出した。

 もしあの制服の歩美と同じ学校に通っていたら、勉強や部活に集中できなくなるかもしれない。そんな想像をして、改めて歩美と同じ学校でなくてかえって良かったかもしれない。そして、女子の制服は地味なくらいの方が男子にとってはいいかもしれないなんて考えた。

 そうでなくても、歩美の美しさと存在感は人目を引くものである。共学校にいたら、小学校時代のようにからかわれることはないとしても、男子が放っておくわけがなかった。

 口にすれば間違いなくぶっ叩かれるので黙っているが、昌雄にとって歩美以外の女子は皆金太郎同然なのだ。


 「やっぱり、この高校に入りたい」

昼休み、昌雄は弁当を食べながらそう口にした。

「そうか。高校でも昌雄と一緒ってのも、悪ないかもな」

それに対して一緒に弁当を食べている壮磨はそう返した。

「じゃあ、お前もここ目指すん?」

昌雄はそう聞いた。

「うん。校風もええし、男子多いから気楽そうやし」

と壮磨は答えた。

「それ思った」

と昌雄もその言葉に納得した。

「確かに男子多いのはええけどさ、彼女できなさそうで寂しいな」

嶺都はそんな感想を述べた。

「いや、彼女作るために高校通うわけやないやろ」

昌雄はそう呆れた。

「そりゃ、昌雄には綺麗な彼女がおるから関係ない話やろけどさ」

と嶺都は拗ねはじめた。

「昌雄と比べることないやん。ヤキモチなんてみっともないぞ」

昌雄を心配した壮磨が、そう擁護した。

「俺に彼女おること、知っとったんや」

一方昌雄は、歩美の話をしたことがない嶺都にそう感心した。


 「あれ、昌雄やん。うちの高校目指しとんの⁉︎」

午後のクラブ見学で野球部の見学に参加した際に、中学時代の先輩の田辺 謙太郎(けんたろう)と再会した。

「そうなんです。野球は続けるかどうか迷っていますけど」

部活内で仲が良く気に掛けてくれた田辺が相手ということもあり、昌雄は自分の現状を素直に話せた。

「そうなんや。うちの学校は運動部が盛んやで、新しく他の競技を始めても楽しいかもしれへん。もちろん、野球部の入部も大歓迎やけど」

そう話す田辺は、とても楽しそうだった。

「確かに学校生活も野球部も楽しそうですね」

昌雄はそう感想を述べた。

「楽しいよ。学校全体が男ばかりで少々暑苦しいけど」

田辺の話を聞き、昌雄は志望校をこの学校に決められたのだった。


 「これ、約束のジュース」

オープンスクールの後、嶺都はコンビニで買ったジュースを昌雄に手渡した。

「ありがとう。本当に買ってくれたんや」

昌雄は、「ジュースおごる」という話は覚えていたが、期待はしていなかったのでそう驚いた。

「それで、相談って何さ?」

昌雄は嶺都にそう聞いた。壮磨には先に帰ってもらい、嶺都の家で2人きりなので、よほど切実な内容だろうと想像した。

「それが…どうしたらモテると思う?」

嶺都が深刻な顔をしたかと思えばそう言い出したので、昌雄は想像が裏切られたことに驚き、思わず

「知らんがな!」

と叫んだ。

「だってお前、彼女おるから、こうした相談しやすいかと思って。俺、名字がモテキやのに全然モテへんからさ」

嶺都は必死でそう言うが、昌雄は

「彼女おることとモテることは別問題やろ。俺、歩美さん以外の女子に興味ないし、兄弟も弟しかおらんから女子のこととかようわからん」

と返した。

「そうか、それでも彼女は作れるんか。じゃあ、俺にもチャンスがあるってことか」

と嶺都は1人で納得した。

「何か、しれっと酷いこと言われた気がするんやけど」

昌雄はそうむっとなった。そして

「今はモテるとか彼女作るより受験の方が大事やろ?俺だって毎日彼女と遊んどるわけやないから。ロマンスの神様にお願いする受験生がどこにおんねん」

と続けた。

「確かに進路のことも考えとるけどさ。そっか、女の子のことを考えるのは高校入ってからでええか」

と嶺都も納得した。

「そういうこと。って、せっかくジュース買ってもらったのにええ解決にはならんだな。代金、返した方がええ?」

昌雄はそう言いだし、財布を出し始めた。

「いやいや十分参考になりました。ありがとう」

嶺都はそうお礼を言った。

「勉強や進路の相談ならともかく、恋愛相談されるとは思わんかったわ」

と、昌雄は素直な感想を述べた。そして

「受験はまだまだ続くから、俺から相談することもあるかもしれへん。お互い頑張ろな」

と続けるのだった。

「うん、ありがとう。俺も、昌雄と一緒の高校に入れるように頑張る」

そう返す嶺都の顔も晴れ晴れしていた。

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