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お祭りデート

 7月も後半に入り、昌雄と歩美の学校はそれぞれ夏休みに入った。

 夏休みは授業がなく自由に過ごせるので嬉しいが宿題はたくさんあり、昌雄の場合は進路を固めるためにものんびりはしていられない。ただ、そのおかげで中学3年生は自由研究が免除されるというメリットもあった。


 「マサ君、次の休みは地元のお祭りやね。一緒に行かへん?」

夏休みに入ってすぐの頃、歩美は昌雄に会ったときにそう誘った。

「うん。でも、宿題や受験勉強もあるのに大丈夫やろか…」

昌雄は、歩美の勧誘を嬉しく思いながらもそう不安になった。

「1日くらい大丈夫やよ。むしろ、息抜きに勉強や受験のことを忘れて楽しむ日があってもええと思うよ?心配なら、前日までにがっつり勉強すればええよ。私も付き合うし」

歩美は、にこにこしながらそう返した。

「そっか。ありがとう。でも、歩美さんも忙しない?」

昌雄は、歩美の言葉にほっとしながらも新たな心配をした。

「私も、宿題は早く片付けるつもりやよ。さすがにマサ君の宿題は教えられても代わってはあげられへんけど。それに、部活はあるけどそこまで多ないし、学校はアルバイト厳禁やからそんなに忙しないよ?」

歩美はそう答えた。

「そうなんや。さすがに宿題を代わってもらおうとは思ってへんよ。そこまで余裕ない年はなかったから。でも、それなら良かった」

と、昌雄は改めてほっとした。


 それから2人は祭りの日を楽しみに、先行して順調に宿題を進めた。昌雄は普段の勉強同様、宿題もわからないところは積極的に歩美に質問していった。

「そういえば、花火って歩美さんや俺の家の2階からも見られたよな?やから、屋台に行くのは夕方とか、早い時間にせえへん?」

この日の宿題が一段落してから、昌雄はそう提案した。

「そうね。遅くなりすぎると家族からも心配されるやろし、夕方の方が歩きやすいかもしれへんな」

歩美はすんなりそう快諾した。

「お祭り、久しぶりやから楽しみやな」

歩美は、そう話し頬を緩めた。

「そうなんや⁉︎」

昌雄は、そう驚いた。

「私は地元の友達おらんし、凛太朗は自分の友達と遊びに行くからさ。それに、小学校時代の同級生と会いたくなくて、敬遠しとったんや」

歩美はそう事情を話した。

「じゃあ、俺と付き合い始めたからお祭りに行く気になれたん?」

昌雄は歩美にそう聞いた。

「うん。もし小学校時代の同級生に会っても、マサ君が一緒なら平気かなって」

歩美ははにかみながらそう話した。

「そうか。そう言ってもらえて嬉しい」

昌雄は、嬉しくなって思わずガッツポーズした。

「そんなに喜ぶこと?」

と歩美は苦笑いしたが、悪い気はしなかった。


 そして迎えた夏祭り当日。

「歩美さん、浴衣着てきたんや。よう似合っとるよ」

昌雄は、家に訪ねてきた歩美の浴衣姿を絶賛した。

「ありがとう。新しく買いに行ったのが、すごく楽しかった」

歩美は嬉しそうにそう返した。

「演劇部の発表の時も思ったけど、歩美さんって和装が似合うよな」

昌雄はそう言いながら、普段とは異なる歩美の姿にドキドキしっぱなしだった。歩美の夏制服だけでもドキドキしていたが、浴衣を着て普段はおろしている髪を綺麗にまとめていて化粧もしている姿は大人っぽくて、見ていて恥ずかしくなるほどだった。

「でも、部活でも和装する機会があるとはいえ、歩きにくいやろ?転んだり変な奴に絡まれんように、会場では絶対に俺の手を離したらあかんよ」

昌雄は続けて、力強く歩美にそう伝えた。

「ありがとう。でも、心配しすぎやない?」

歩美はそう苦笑いした。

「そう言えば、淳平からも過保護扱いされたことあったっけ」

当の昌雄も、そう思い返した。

「そうやったんや。でも、マサ君と付き合う前の頃、野球の応援に凛子ちゃん達を呼んでくれたのって淳平君やったんやろ?」

歩美は、凛子が淳平に呼ばれたと教えてくれたことを思い出してそう聞いた。淳平が最初に誘ったのは妹の凛子だっただろうと想像しやすかった。

「そうなんやよ。『彼女が応援に来た』って騒がれずに済むやろなんて変な気を効かせてさ。ありがたいようなそうでもないような、複雑な気分になったっけ」

と昌雄は当時の出来事を振り返った。

「そうやったんや。私は凛子ちゃん達と一緒に応援できて楽しかったよ?弟にはええ友達がおるんやなって改めて実感したし」

と歩美は微笑んだ。

「今では凛太朗もマサ君と一緒のチームやから、応援しやすくなったし、勝って欲しいって気持ちも強くなったな」

歩美はそう続けた。

「歩美ちゃんいらっしゃい」

2人の会話に気付いた昌雄の母親が、そう挨拶した。

「お邪魔してます」

歩美はそう挨拶した。

「いつも昌雄に勉強教えてくれてありがとうね。そのお礼って言ったら何やけど、お小遣いあげようって用意しとったんや。屋台のもの、何でも買えるようにね。今日は思い切り楽しんでおいで」

母親はそう言い、歩美にお小遣いを渡した。

「ありがとうございます。…こんなに⁉︎いいんですか⁉︎」

歩美は、渡された金額に驚いた。

「普段昌雄に勉強教えてくれとるから、そのバイト代と思って。バイト代からしたら安いもんやから、遠慮なく受け取って」

母親にそう力説されて歩美は断るのは不適切と思い、改めて

「ありがとうございます。楽しんできます」

と返した。

 もちろん、歩美にだけお小遣いを渡すことは不適切と考えたため、母親は息子である昌雄にもお小遣いを渡した。実はこっそり、2人が楽しめるだけのお小遣いを事前に用意していたのは母親だけの秘密である。

「母ちゃん、歩美さんのこと随分気に入っとるな。ついでに俺もお小遣いもらえたからラッキーやな」

家を出てから昌雄は小声でそう口にした。

「ふふ。マサ君だけやなくてそのお母さんとも仲良くなれて嬉しい」

歩美はそう笑った。そして、この家にはいつお嫁にいっても困らないのかもしれないと思った。

 2人が会場に到着したときはまだ日が暮れるまで時間があったが、すでに屋台は始まっていた。

「行列になる前に、屋台を回ろうか。屋台で食べるならやっぱりたこ焼きより焼きそば。いや、唐揚げの方がええ?」

昌雄は歩美にそう聞いた。それに対して歩美は

「別に、青のりくらい気にせんよ?好きなもの食べたらええやん?」

と返した。

「そう?じゃあ、俺も遠慮なくがっつり食べよっかな!」

と昌雄は張り切った。

「あれ、歩美⁉︎もしかしてデート?」

聞きなれた声がしてそちらを向くと、珠姫が姉らしき女性と立っていた。

「たまちゃん。来とったんや。隣にいるのはお姉さん?」

歩美はそう聞いた。

「うん。帰りが遅なっても大丈夫なように同行してくれたんや。屋台のものを食べ比べるために、お祭りは積極的に行くんや!お姉ちゃんが社会人で良かった」

珠姫はそうはしゃいだ。

「珠姫の姉の大野 夏姫(なつき)と言います。いつも妹がお世話になっています」

珠姫の姉は、そう歩美に挨拶した。夏姫は珠姫より6歳年上で、地元の公務員として実家暮らしをしている。

 因みに、姉妹の年齢差を知った歩美は、自分の母親にも6歳年下の妹がいることを思い出していた。

「こちらこそいつもお世話になっています。お揃いで浴衣っていいですね。2人とも似合っています」

歩美は、姉妹で浴衣を着ている姿が微笑ましくてそう話した。

「ありがとう。歩美もすごく似合っとるよ」

珠姫は嬉しそうにそう返した。それに対して昌雄は

「俺も浴衣着た方が良かったやろか…」

と呟いた。浴衣を着ることを考えなかっただけではないが、普段着の方が何かあったときに動きやすくていいだろうと思っていたのだ。

「それは気にせんでええよ?無理強いする気はないから。でも、浴衣も似合うと思うよ?」

歩美は、昌雄に対しそう話した。

「そうか。じゃあ、来年は着るからそのときも一緒に」

こうして、「来年」や「次の機会」を簡単に話せることが嬉しかった。

「せっかくのデートなのに、お邪魔してしまいまいたね。行くよ、珠姫」

夏姫はそう話して珠姫の手を引いた。

「うん。じゃあね!歩美達も楽しんできてな!」

珠姫はそう手を振って歩美と別れた。

「お祭りって、屋台の食べ比べって発想もあるんやね。たまちゃんらしいな」

歩美は、大野姉妹を見送ってからそう微笑んだ。

「珠姫さん、相変わらず元気そうやね。歩美さんが友達と仲良くしとるみたいでほっとした」

昌雄も、珠姫達とのやりとりを微笑ましく思い、そう感想を述べた。

「たまちゃんは中学時代からよう知っとるし、部活やバンドも一緒やから、関係性はそう変わらんよ。マサ君も、友達との予定ができたら遠慮なく入れてええからな」

歩美はそう返した。

「ありがとう。でも、学校の友達と外で会う機会って、そんなに多くないかもしれへん。俺の友達って、男しかおらんけど」

昌雄は、歩美の言葉に少し驚きながらそう話した。その後に、

「それより、俺らも早い内に屋台を回ったほうがええよな」

と本来の目的を思い出した。

「そうやったね。じゃあまだ空いとるし、焼きそば買いに行こっか」

歩美もそう苦笑いして、すぐ近くの焼きそばの店へ向かった。

 「久しぶりやったけど、やっぱりお祭りって楽しいね」

いくつかの屋台を回って食べ歩きながら、歩美はそう笑った。そう言いながら、もしかしたら昌雄と一緒だから更に楽しくなったのかもしれないとも思った。

「そうやね。俺も家族と行くこともあったけど、デートとして行くほうが楽しい」

昌雄も嬉しそうにそう話していたので歩美は、同じことを考えていたのだと微笑ましく思った。

「さて、混雑する前に帰って花火を見ようか」

昌雄はそう言いだし、歩美の手を引いた。

 その時に、

「あれ、歩美ちゃんやない⁉︎綺麗になったな」

という男の声がした。歩美は最初その相手が誰かわからなかったが、しばらく経ってから小学校時代に自分をからかっていた同級生だと思い出した。

「あれ、もしかして、昌雄と付き合っとんの?」

その同級生は、からかうようにそう言い出したので、昌雄は小声で

「早く帰ろう」

と囁き、歩美の手を引いた。

 歩美はそれに対して小さく

「うん」

とだけ答えて、置いて行かれないように速く歩いた。

 手を繋ぐことには慣れてきてほっとするようになっていたのに、昌雄の手は以前より逞しくなったような気がして、頼もしく思った。

 改めて見ると、背も伸びてきて声も以前より低くなってきた気がする。歩美は、そのように昌雄が以前にも増して男らしく成長していることを実感してドキドキした。

「もう追いかけてきてへんよな。大丈夫やった?」

二人の家に近付いてから、昌雄は後ろを振り返り歩美にそう聞いた。

「うん。ありがとう」

歩美はそう返しながらも、まだドキドキしていた。

「もう5年以経っとるのにわざわざ話しかけるなんて、しつこい奴もおるんやね。逃げられて良かったわ」

昌雄もそう呆れた。

「うん。ああなる可能性も考えてはおったけど、やっぱり嬉しくはないな。結局返事もせんだけど。でも、マサ君がおってくれて良かった」

歩美は素直に自分の思いを話したので、昌雄はドキドキしながらも

「俺、ちゃんと歩美さんのお役に立てたんや」

と嬉しくなった。

「もちろん。さあ、もうすぐ花火が始まるから、2階に上がろう」

歩美は、恥ずかしさをごまかすようにそう言い、2人は昌雄の部屋に入った。

「ここなら外よりも蚊に刺されにくいかもしれへんな」

昌雄は自分自身が痒くなったこともあり、そう苦笑いした。それから

「浴衣のままやけど、足は痛なってへん?」

と歩美を心配した。先程普段とは異なる服装で早足になったため、足への負担が増えたかもしれないと思ったのだ。

「大丈夫やよ。ありがとう。部活でも和装する機会はあるとはいえ、やっぱり着物って慣れへんな」

歩美は苦笑いしながらそう返した。それから

「でも、部活とか関係なく着物は好きやし、夏祭りも浴衣の方が楽しめる気がするんや。部活での着付けは、裏方の志緒里達に任せっきりやけど」

と続けた。

「そうなんや。やっぱり歩美さんには着物が似合うよ」

昌雄が相槌を打った後に、調度花火が始まった。2人は花火が見やすくなるよう窓の前で立ちながら、自然と手を繋いでいた。

 家にいるため時間を気にする必要がないこともあり、花火を見続けていても飽きないくらい夢中で眺めた。そのため、花火が終わった時は急に辺りが静かになったことに、寂しさを感じた。

「花火、終わったね。また来年のお楽しみやね」

歩美は、静かになった夜空を眺めながらそう呟いた。

「そうやね。来年も楽しめるように、その頃に志望校に通えとるように頑張る」

昌雄は自然と、自分の意志を口にしていた。

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