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星に願いを?

 「歩美先輩、この前、気になっていた幼馴染に告白してもらえました」

6月中旬。以前歩美に恋愛相談をしていた萌が、部活が始まる前にそんな嬉しい報告をしてきた。

「そうなんや。おめでとう。私も嬉しい」

歩美は、後輩の話が自分のことのように嬉しくなった。

「先輩がアドバイスしてくれたおかげです。ありがとうございます」

萌は、歩美にそうお礼を言った。

「そんな、お礼を言われることはしてへんよ?萌ちゃんが勇気を出せた結果やろ?」

歩美は、少し照れながらそう返した。

「でも、相手から告白してもらえたんや?」

萌と親しい後輩の奈桜が、そう聞いた。

「うん。『一緒にいて楽しい』って話したら告白してもらえた。もちろん、その後ちゃんと私も好きって告白したけど」

と、萌は当時の状況を話した。

「『一緒にいて楽しい』って、告白しとるようなもんやけどな」

同じく萌と親しい後輩の佳澄は、そう話した。

「うん。それを話すのもちょっと勇気がいったな。先輩の彼氏も他校の幼馴染でしたよね?また彼氏のことを相談していっていいですか?」

萌は照れながら、歩美にそう聞いた。

「もちろんええよ。部活以外でも頼ってもらえるって嬉しいな」

と歩美は快諾した。ただ、萌の場合は彼氏とは同級生であるため、家が隣同士の2歳年下の男の子と付き合っている自分とは異なる点も多いかもしれないと少し考えた。もちろん、それでも相談されたら自分ができる範囲で応じてあげたいという気持ちに変わりはなかった。

 「みんな、笹を飾って短冊も用意したから、自由に願い事を書いて飾っていってな」

その日の部活を始めるときに、部長の村川 紗弥加(さやか)が部員たちにそう伝えた。

「ありがとうございます」

部員たちは皆そう部長にお礼を言った。

「そっか。もうそんな時期か。何か早く感じるな」

歩美は、心の中でそう呟いた。

 昨年のこの時期も、部室には笹が飾られていた。誰がそれを用意するといったルールは特にないのだが、昨年も当時の清水部長が用意してくれていたことを歩美は覚えている。村川部長も、その影響から自ら進んで用意してくれたのだろうと思った。

 ただ、当時自分が短冊に書いた願い事は、思い出せなくなっていた。それは、今のように昌雄と過ごすようになる前の話だったかもしれないと気付いた。

「たまちゃんは、どんな願い事を書くの?」

潤は、張り切って短冊を手に取った珠姫にそう聞いた。

「もちろん、『お菓子をお腹いっぱい食べられますように』やよ!」

珠姫は、嬉しそうにそう答えた。

「たまちゃんらしいね。私も、これからもお菓子を作ってあげやんとな」

と、潤は微笑んだ。

「じゅんじゅんは何のお願いすんの?」

今度は珠姫が潤にそう聞いた。

「そうやな…何がええやろ?まだ6月やし、考えついてから書こうかな?」

と、潤は少し悩んでからそう返した。

「涼子は何書いた?」

涼子がさらさらと短冊に願い事を書いている様子に気付いた珠姫は、すかさずそう聞きに行った。

「ちょっ…まだ書いとる途中やから」

涼子はそう慌てた。

「へー『ギターが上達しますように』かー」

珠姫は、涼子が書いた短冊を覗き込んで明るくそう言った。

「勝手に読むな!」

部員たちが目にすること前提の願い事とはいえ、涼子はそう突っ込まずにはいられなかった。

「私だって、涼子以外にはこんなことせんよ」

珠姫は、けろりとそう返した。

「そんな形で特別扱いしてくれるな!」

涼子は思わずそう叫んだ。

「ええ願い事やん。バンドのことも大事にしてくれとるんやね」

珠姫は、笑顔でそう話した。

 そんな中、歩美は迷わずに願い事を書いていった。

『マサ君の高校受験が成功しますように』

他に考えられる願い事はなかった。そして、意識せずとも昌雄が好きな色である赤い短冊を選んでいた。

「やっぱり歩美は、昌雄君のことを書くか」

歩美が短冊を飾る時に、内容に気付いた志緒里が、静かにそう話した。

「うん。他に思い付かんだ」

歩美は、素直にそう返した。

「自分以外のためにお願い事をするって素敵やね」

と、志緒里は微笑んだ。

「私が叶えてあげられるわけやないけどな」

歩美は、恥ずかしさもありそう話した。

 その後に次々と飾られた短冊の願い事も様々だった。

『もっと部活で活躍できますように』や『成績が上がりますように』『検定試験に合格できますように』といった学校での活躍に関する願い事はやはり多かった。ちなみに幼馴染と付き合い始めた萌は、『彼氏と仲良く過ごせますように』と書いていた。その中でもやはり、珠姫の『お菓子をお腹いっぱい食べられますように』は目立っていた。


 「−ってことがあってね」

その後の休日、歩美は昌雄の部屋で演劇部の出来事を話した。

「歩美さん、俺のことをお願いしてくれたんや。ありがとう」

昌雄は、歩美の書いた願い事を聞いてそうはにかんだ。

「いや、叶えられるのはマサ君であって、私にはお願いすることしかできへんから」

歩美は、照れながらそう話した。

「でも、歩美さんに勉強を教えてもらっとるおかげで成績が伸びたんやで。母ちゃんなんか、『歩美ちゃんにバイト代を払いたくなってきた』って言っとったくらい」

昌雄はそう話し、一番新しく受けたテストを見せた。

「すごい!でも、成績が上がったんはマサ君が頑張ったからやよ?それに、お母さんも理解しとるやろけど、お金が欲しいとか、アルバイトのつもりもないから。…でも、ちゃんとマサ君の力になれてて嬉しい」

歩美は、見せられたテストの点数に感心しながらも、微笑みながらそう返した。

「本当にありがとう。でも、俺に勉強教えとることで、歩美さんの学校生活に支障は出てへん?最初は居眠りさせてしもたし」

昌雄はふと、そんな心配をした。

「それは大丈夫。むしろ、教えるって自分の復習にもなるから、私の成績も少し上がったんやで。高校でも、中学の勉強の内容は繋がっとるから」

歩美は、正直にそう話した。

「そうなんや。さすが歩美さん」

と昌雄は感心した。歩美は、何がさすがなのかわからなかったが、不要な心配を取り除けて安心した。

「ところで、俺の方は学校で笹を飾ったりはしてへんな。野球部やから屋外の活動がメインやし、俺ら中3の願い事は『高校受験の成功』がほとんどやろから。でも、毎年七夕の日には、給食に星型のコロッケや七夕ゼリーが出るんが楽しみなんや」

と、昌雄は自分の学校の話を始めた。

「それ、小学校でもあったな。懐かしい」

と、歩美もその話に食いついた。

「そっか。歩美さんの学校は給食はないか」

歩美の反応に対して、昌雄はそう話した。

「うん。食堂はあるけど、基本的に弁当やね」

と歩美は返した。

「私学には食堂もあんのか。俺は公立高校を目指しとるけど、私学やと学費がかかるけどそんなメリットもあるんやね」

と、昌雄は感心した。

「志望校が固まってきた?」

歩美はそう聞いた。

「うん。少なくとも学費の負担も考えて、公立高校って決めとる」

昌雄はそう答えた。

「そっか。家族のことも考えて偉いね」

歩美はそう感心した。

「でも、まだわからんことや不安も多い。それこそ、お星様にもお願いしたいくらい」

と昌雄は話した。これは、照れ隠しではなく真実だった。

「でも短冊に書く願い事って、実は星にお願いしとるわけやないって説があるよ?」

昌雄の言葉に対し、歩美はそう言い出した。

「そうなん⁉︎じゃあ、誰が願い事を叶えてくれんの?」

昌雄は、驚いてそう聞いた。

「あれは、自分自身が叶えるもので、短冊に書くことで意志表明しとるって説があったはず。それに、願い事なら何でもええってわけでもないと思う」

歩美は、そう答えた。

「そうなんや!でも、言われてみれば納得。でもやっぱり、夢は見ないと叶えられへんから、願い事を書くことが無意味ではないんやよね」

と、昌雄は驚きながらも納得した。

「もちろん、強く願う事も大事やと思う。ただ、叶えるのも自分自身ってのが現実やよね。自力ではどうにもならんことも多いけど。流れ星が流れた瞬間に3回願い事を口にしたら叶うって話もあるけど、あれって結局は隕石やしな」

と、歩美も賛同した。

「やっぱり、ちゃんと受験が上手くいくように頑張らんとな。ところで、織姫と彦星が引き離されたのは、仕事をほったらかしていちゃいちゃしてたからやったな。俺らみたいに簡単に会えなくて可哀想って思っとったけど、自業自得やんな。むしろ、年に1度会わせてもらえとるだけでも親切かもしれへん」

昌雄は、そんな話をし始めた。

「そうね。七夕の日は雨降りになることも多いやん?それは2人が会えなくて泣いているって言われとるけど、うちの学校で『いちゃいちゃしとんのを見られたくないから、雨降らせて隠しとるんや!』って言っとる生徒がおったな」

歩美のその話に、昌雄は思わず

「言われてみればそうかもしれへん」

と笑った。

「私もあの話、年に1度会える事がロマンチックって思っとったけど、そうせんと日常生活頑張れへんの⁉︎って呆れたっけ。色んな意味でバカップルやんな」

と歩美も言い出し、話はさらに盛り上がった。

「あれって、恋に現を抜かすなっていう戒めなんやろか?俺も、歩美さんに勉強を教えてもらえて嬉しいけど、ちゃんと現実と向き合わんと」

と昌雄は話した。

「その意識さえあれば問題ないと思うけどな?私も、勉強に集中できるようにするから」

歩美は、少し不思議そうにそう返した。

 古から先生は綺麗な人の方がいいと言われるように、昌雄にとっても歩美のような美人の彼女に勉強を教えてもらえて嬉しいし、勉強が楽しくなったという気持ちはあった。そしてそれが故に「俺だけの先生」でいてほしいと思っている。

 昌雄にとって、歩美は告白するまで近くて遠い存在だったので、こうして自分の部屋で勉強を教えてもらっていることに改めて感謝した。こんな幸せな受験生はあまりいないだろうと思った。

「でもやっぱり、離れ離れは嫌やね。私、こうしてマサ君に勉強を教えていて楽しいから」

歩美は、昌雄の気持ちに気付かなかったが、そう呟いた。歩美にとっても、教える相手が昌雄だから楽しいしやりがいもあるのだ。

「そうなん⁉︎負担かけとるとばかり思っとった」

昌雄はそう驚いた。

「確かに、私もちゃんと勉強を教えられるように頑張らんとって意識はあるけど、そのおかげで、一緒に成長できとる気がするんや。」

と、歩美は微笑みながら自分の思いを話した。

「一緒に成長…か。これからも大変なことは多いやろけど、そう思えることが増えていったらええな」

と、昌雄も笑顔になった。そしてそれは「ずっと一緒にいたい」という思いから来ていると実感するのだった。

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