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珠姫と潤

 「じゅんじゅん、おっはよー!」

「おはよう。珠姫ちゃんは朝から元気やね」

教室で明るく挨拶する珠姫に対して、潤は落ち着きながらもそう感心しながら返事をした。


 珠姫と潤は小学校・中学校・高校と同じ学校だったが、高校2年生にして始めて同じクラスになった。

 珠姫は今回のクラスを知った時に、

「わーい、じゅんじゅんと一緒のクラスや!」

と大喜びし、その潤が新しい教室に来た途端に、

「じゅんじゅん、一緒のクラスになるの初めてやね。1年間よろしく!」

と明るく話して潤の腕にしがみついた。

「うん。こちらこそよろしくね」

潤はそう返しながらも少し引いていた。

「そういえば、このクラスで演劇部員は珠姫ちゃんと私だけやったか」

潤は、教室を見渡してそう話した。

「そっか。じゃあ、クラスの中ではじゅんじゅんを独り占めできるんや!」

珠姫のその様子に潤は思わず、

「そんなにはしゃぐことなん?」

と聞いた。

「うん!もっとじゅんじゅんと仲良くなりたい!」

珠姫は、相変わらず明るくそう話した。潤はその反応を嬉しく思いながらもどこか不安も感じ、

「それに、独り占めって、私珠姫ちゃんに何されるの…」

と独り言のようにそう呟いた。 


 珠姫と潤が互いを認識したきっかけは、高校の演劇部に入部したことだった。

 潤は小学校から中学校までは剣道をしていた。剣道自体は好きで楽しく続けていたが、中学生活が終わる頃にこれまで頑張れたという満足感と、剣道以外こともしてみたいという気持ちを抱くようになった。

 そんな中で内部進学として高校に入り、文化部もこれまでと違った面白さがあるかもしれないと思って見学に回っていた。その中で、楽しそうという印象を1番に持った部活が演劇部だった。

「かっこいい子やね。男役似合いそう」

見学のときには、演劇部の先輩にそう歓迎された。

「そう…ですか?」

潤は緊張感もありそんな反応しかできなかったが、嬉しく思った。剣道をしてきた名残から、高校に入っても髪を短くしていたが、それも新しい場面で役に立つのかもしれないと思えたのだ。

「演劇って、一体感があって楽しそう!」

珠姫がそう明るくはしゃいでいたことを、潤はよく覚えている。珠姫の方は、中学時代から親しかった歩美と志緒里と涼子と一緒に見学に顔を出しているところだった。

 その時に潤は、珠姫の言葉に共感したと同時に、このような明るい同級生が部活仲間だと、より楽しいかもしれないと思った。

 一方、珠姫は中学では吹奏楽部に所属し、ドラムを叩いていたが、潤はそのことがあまり印象に残っていなかった。また、珠姫も中学まで潤との接点がなかったため、高校に入って初めてよく知るようになったのだった。


 「じゅんじゅん、一緒にお弁当食べよう!」

ある昼休みに、珠姫が教室で潤を誘った。

「ええけど、私と食べて楽しい?」

潤は、珠姫は歩美たちといる印象が強かったので、そう聞いた。

「うん。だってじゅんじゅんって女子からモテるくらいかっこええし、バレンタインデーもチョコレートをおねだりしたらくれたから、もっと仲良くなりたいって思っとったんや!」

珠姫は、明るくそう答えた。

「それって、私より食べ物目当て?」

と潤は戸惑いながらも自分の弁当箱を開けた。

「わー、じゅんじゅんのお弁当美味しそう!これ、お母さんが作ったん?」

珠姫は潤の弁当を見てそう瞳を輝かせた。

「弁当は、毎朝私が作っとるよ。良かったら食べる?」

潤は、珠姫の反応に戸惑いながらもそう聞いた。

「ええの⁉︎ありがとう!」

珠姫はそう大喜びした。

「美味しい。じゅんじゅんって男役が似合うかっこいいイメージがあったけど、女子力も高いんやね」

珠姫は、潤からもらった弁当を頬張りそう話した。

「そうかな?家族がみんな忙しいから仕方なく自分で作っとるだけやよ。まあ、それが嫌ってわけやないけど」

潤は、不思議そうにそう返した。

「そうなんや。勉強や部活も頑張っとるのに凄いね」

珠姫は、純粋にそう感心した。

「そんな褒められることやないから。でも、珠姫ちゃんが喜んでくれるなら、いつでもお弁当を分けてあげるな」

潤は珠姫の反応が嬉しくて、はにかみながらそう話した。

「ええのー⁉︎ありがとう!じゅんじゅん大好き!」

珠姫は、さらに瞳を輝かせてそうはしゃいだ。

 その様子はクラスの中でも目立っており、それから周囲のクラスメートの、珠姫と潤への見方も変わっていくのだった。


 「じゅんじゅん、おはよう。2限目の授業って、実験室やったよね?」

新しいクラスになって1ヶ月が経つ頃、潤は珠姫以外のクラスメートからもそう話しかけられるようになった。

「うん、そうやけど。…私のことじゅんじゅんって呼ぶの、珠姫ちゃんだけやなかったんや」

潤は、返事をすると同時にそう驚いた。

「何か、大野さんの呼び方につられたんやよね。一緒にいるところを見てて、案外話しやすそうって思って」

潤に話しかけた前川紗希は、そう話した。

「そうなんや」

潤はそのような反応しかできなかったが、珠姫のおかげで他のクラスメートにも親しみを持ってもらえたことは嬉しかった。

 潤は元々口数が少なく、人付き合いがドライなところもあったため、一人でいることも多かった。

 そんな一面や、中性的で綺麗な顔立ちが、クールでかっこいいと思われて好意を抱く生徒も少なくなかったが、それ故に少し近寄りがたい印象も持たれていた。

 それが、珠姫に振り回されて戸惑いながらも優しく接している様子から、温厚な一面が引き出されるようになっていた。


 「うちの珠姫が迷惑かけてへん?」

その日の昼休み、珠姫の様子を見に来た涼子が潤に聞いた。

「あー、うるさいのが来たー!」

珠姫はそう言い、潤の背中に隠れた。

「誰がうるさいだ!私だってあんたが大人しくしとったらわざわざ様子見になんか行かずに済んださ」

涼子がそう言い珠姫を引きずり出す様子を見て、潤は大声をあげて笑った。

「2人って、本当仲ええんやね」

潤は、笑いながらそう話した。

「仲良しっていうか、ただの腐れ縁やよ。確かに珠姫のことが嫌いなわけやないけどさ」

涼子は、苦笑いしながらそう答えた。

「珠姫ちゃん、ずいぶん子供っぽいけど裏表なくて可愛いもんね。私も、一緒にいて楽しいよ」

と、潤は話した。

「本当?迷惑なら遠慮なく私に言いなよ?」

涼子は潤の言葉に少し驚いてそう言った。

「でも、たまちゃんのおかげで、他のクラスメートとも話しやすくなったから」

と、潤は意識せずに珠姫への呼び方が「たまちゃん」に変わっていた。

「めぐさんがそれでいいなら私も口出しするつもりはないけどさ。珠姫もええ仕事することがあるんやね」

涼子は、感心しながらそう返した。

「何その言い方!涼子って本当私に対して遠慮がないよな。それに、うちのクラスメートは『めぐさん』やなくて『じゅんじゅん』って呼んどるよ!」

と珠姫は反論した。

「さっき私をうるさいって言ったくせに何が遠慮ないだ!確かに珠姫は前から『じゅんじゅん』って呼んどったね。そのあだ名、嫌やない?」

涼子は、珠姫の言葉に反論してから潤にそう聞いた。

「最初は名前の読み方間違えられたんかなって思ったけど、今では気に入っとるよ?私も『たまちゃん』って呼ぶようになったし。もちろん、『めぐさん』が嫌なわけやないけど」

潤は、穏やかにそう答えた。

「そうなんや。じゃあ、これからは私も『じゅんじゅん』って呼ぼうかな」

それに対して、涼子はそう賛同した。

「うん。そう呼んでもらえたら嬉しい」

潤のその笑顔は無理に作ったものではなく、楽しくて自然に出たものだったので、涼子は我慢しているわけではないのだと理解してほっとした。


 「たまちゃん、おはよう。弁当ついでにお菓子作ったんやけど、食べる?」

それから、潤は自分から珠姫に話しかけるようにもなった。

「おはよう。じゅんじゅんってお弁当だけやなくてお菓子も作れるんや!すごいな。ありがとう!もちろん食べるー!」

珠姫は、潤の話に大喜びしてそうはしゃいだ。

「何か、たまちゃんが喜んでくれる様子が嬉しくて、色々あげたくなるんやよね。」

潤は、作ってきたお菓子を珠姫に渡しながらそう呟いた。そして小声で

「これを餌付けって言うんやろか」

と続けた。

「ん?何か言った?」

珠姫は、潤の言葉を聞き取れずにそう呑気な反応をした。

「いや、何でもないよ」

潤はそう少し慌てた。

「このお菓子美味しいね。歩美たちにもおすそ分けしてええ?」

珠姫は、潤から貰ったお菓子を頬張りながらそう聞いた。

「うん。ええよ」

潤はそう快諾した。そして、珠姫はこれまでお菓子に夢中でおねだりすることも多い印象があったので、仲間に分けたいと言い出したことが少し意外に思った。そして、そんな友達想いなところに感心した。

 その日の昼休み、珠姫は歩美たちの教室に向かって

「このお菓子、じゅんじゅんから貰ったよ!」

と話しながらお菓子を渡した。

「ありがとう。じゅんじゅんって、お菓子作れるんや」

歩美は、珠姫の話を聞いてそう驚いた。自分はお菓子作りに苦戦し続けたので、未だにそれが得意な人には敬意を抱いた。

 そして歩美だけでなく、珠姫の影響ですでに多くの生徒が『じゅんじゅん』と呼ぶようになっていた。

「じゅんじゅん、たまちゃんのクラスにいる?今からでもお礼を言いにいきたい」

歩美は喜びながらそう続けた。

「うん、うちのクラスにおるよ」

珠姫は、お菓子をかじりながらそう答えた。

「ん?歩美ちゃんがうちのクラスに来るなんてどうしたんやろ?」

潤は、自分のクラスに歩美が来た理由がわからずそう疑問に思った。

「お菓子、たまちゃんから貰ったよ。ありがとう」

歩美から嬉しそうにお礼を言われて、少し潤は驚いた。

「そんな。わざわざお礼を言われるほどのことやないよ。でも、歩美ちゃんたちも喜んでくれるなら、今度はもっとたくさん作ろうかな」

潤は、謙遜しながらもそう微笑んだ。

 歩美は、そんな潤が以前より笑顔が増えたことに気付き、微笑ましく思った。

「たまちゃんと一緒のクラスになれて良かった。騒がしいけど楽しいな」

潤は心の中でそう呟いて、また笑顔になるのだった。

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