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俺だけの先生

 「朝倉さん、中学生の男の子と付き合っとるって本当⁉︎」

ある昼休み、まだ新鮮味のある顔ぶれの教室で、歩美は新しいクラスメートの北村 瑞香(みずか)にそう聞かれた。

「そうやけど?」

歩美は、きょとんとしながらそう答えた。

「そうなんや。ちょっと意外!」

質問してきた北村はそう言ったので歩美は、

「相手が中学生って変かな?」

と不安になった。それに対して北村からは

「いや、変っていうより、大学生とか社会人とか、年上の彼氏がいそうって思ったから」

と返ってきた。

「でも、朝倉さんってお姉さんっぽいから、年下と相性良さそう」

最初に質問してきた北村と一緒にいたクラスメートの野呂 有佐(ありさ)からは、そう言われた。

「ところで、私の彼氏の話ってどこで聞いたん?」

バンド仲間である親友には、相談してきたこともあり昌雄と付き合い始めたことは真っ先に報告していたが、それ以外で学校で昌雄の話をすることはなかったため、歩美は疑問に思ってそう聞いた。

 それに対して北村は、

「前のクラスメートやった大野さんがバレンタインデーに、『歩美からガトーショコラをたくさんもらった』『告白する男の子よりも多いって』って嬉しそうにしとったから」

と説明した。

「やっぱり珠姫か。アイツって裏表ないけど口が軽いところがあるからな」

調度歩美と一緒にいて、同じクラスになった涼子が少し呆れてそう言った。

「隠すほどのことではないけど、わざわざ大っぴらにすることでもないからな」

当の歩美もそう話した。

「ってか、私の話なんて知って面白い?」

続けて歩美は、疑問に思ったことを聞いた。

「だって朝倉さんって学校の有名人やもん。私たちも一緒のクラスになれて大喜びしとったんやで」

北村はそう答えた。

「有名人⁉︎」

歩美はその言葉に驚いた。ただ、クラスメートになれて嬉しいと言われているので、悪目立ちはしていないのだろうと思った。

「バレンタインデーの時の大野さんの話を聞いて、『朝倉さんが告白する相手って知っとる?』って食いついたっけ」

野呂もそう話した。

「たまちゃんからマサ君について詳しく話始めたわけやなかったんや」

と、歩美は当時の状況を理解した。

「当事者がおらん場所でそんなに盛り上がれるんや。その後も、珠姫から歩美の話をあれこれ聞いたんや?」

涼子はそう感心した。

「うん。でもさすがに『本命チョコよりたくさんもらった』って話には『それでええの⁉︎何か変やない?』って驚いたっけ」

北村が楽しそうにそう話した。

「でも、朝倉さんと仲ええから、水谷さんのことも知っとったよ」

野呂がそう話した。

「私の場合、珠姫の様子見のためにあいつのクラスに顔を出すことも多かったしな」

涼子はそう納得した。

「ちなみに水谷さんって去年は何組やった?」

野呂がそう聞いた。

「椿組やけど?」

「そうなん⁉︎私らのクラスやった桜組とは1番教室遠いやん」

野呂と北村はそう驚いた。

 この学校の組は全て花の名前であるが撫子組はなく、椿組・梅組・桃組・桜組の4クラスが存在する。

「そんな遠い教室からわざわざたまちゃんの制御に行ってきたんやね」

歩美も改めてそう感心した。

「珠姫とは今年も別のクラスやけど、隣やから様子見に行きやすくなった」

涼子もそう話した。

「それで、彼氏は中学3年生やったよね。ってことは、これから高校受験?」

北村は改めてそう聞いた。

「たまちゃんから学年まで聞いたん⁉︎これから勉強教えたりして協力するつもりやけど…」

歩美は少し驚きながらもそう答えた。

「あんまり歩美やその彼氏のことを執拗に詮索したら私がキレるよ」

涼子は、歩美以上にドン引きしてそう釘を刺した。

「私も話したくないことはちゃんとそう言うから、涼子が目くじら立てやんでもええよ」

歩美はそう宥めたが、彼女の押しに弱いところも知っている涼子は安心しきれなかった。

「私は他校のことはよくわからんから、参考になりそうな話があったら聞かせて」

歩美は、北村と野呂にそうお願いをした。


 「お前、また一緒のクラスか!」

一方昌雄は、前年度に歩美についてあれこれと食いついてきた羽山と再度クラスメートになった。

「今年も仲良くしてな」

羽山は嬉しそうにそう返した。昌雄も羽山とクラスメートになったことが嫌ではなかったが、驚きの方が先行していた。そして、小学校時代の親友である根本 壮磨(そうま)と同じクラスになったことの方が嬉しかった。

「昌雄、久しぶりやね。元気やった⁉︎」

壮磨は、新しいクラスで昌雄と会ったときにそう嬉しそうにしていた。

「うん、元気やよ。中学ではクラスも部活もバラバラやったから、ほとんど会わんだよな」

昌雄は穏やかにそう話した。

 そして壮磨に

「ところでお前、歩美さんと付き合い始めたって本当⁉︎」

と聞かれた。

「そうやけど、その話聞いたんや。めっちゃ噂されとるんやね」

昌雄は返事をすると同時に、幼馴染とはいえ中学では接触が少なかった壮磨にまで知られていたことに驚いた。

「俺、別に自慢したいわけやないんやけどな…」

昌雄は独り言のようにそう呟いた。

「幸せな話やから、学校に拡散しまくったっけ。それに、そしたら長谷川を狙う女子も諦めてくれるやろ」

羽山はドヤ顔でそう話した。

「それ、完全に余計なお世話ってヤツやから。心配せんでも、俺を狙う女子なんておらんやろ?」

昌雄は呆れながらそう話した。

「そうか?俺の、前のクラスの女子が、お前のことが気になるみたいな話をしてたことあるよ?」

壮磨はそう首を傾げた。そして

「それから羽山、昌雄の恋の成就を喜ぶのはええけど、わざわざ小学校の同級生やった俺らに彼女がどんな人か知りたいって、あれこれ聞いてきたよな。頼まれて写真を持ってきたら『想像以上しとった何百倍も可愛いな。ええなー』って大騒ぎしてさ」

と続けた。

「そうなんや。今年も学校生活は騒がしくなりそうやな」

昌雄はそう話した。新しいクラスの最初の席は出席番号順であるため、名字が「長谷川」である昌雄の前が根本壮磨であり、後ろが羽山透也だった。

「これから嫌でも高校受験のことを考えやなあかんからな。気軽に話せる仲間ができそうで嬉しいわ」

壮磨も素直にそう話した。


 それから、中学校では受験勉強用の分厚い教材を配布され、4月時点で志望校を記入して提出する必要があった。

「3年生になった途端にこれか…」

昌雄だけでなく3年生の誰もが、その現実を想像はしていたもののウンザリした。学校には高校の案内もあるが、それを読んでも実際の高校生活は不透明だったりする。

 「俺、どうすればええんやろ」

志望校の記入用紙を受け取った直後の休日、昌雄は歩美を自室に呼び、そう漏らした。

「マサ君は、将来就きたい仕事とか、高校卒業後は就職か進学かとか、考えとる?って、私が聞ける立場やないか…」

歩美は、自身は男子から離れたいという理由で中高一貫の女子校に入ったため、昌雄に質問した後に話し方が弱くなった。

「いや、小学生の時点で受験勉強したのも大変やったと思うよ。しっかりした動機もあったわけやし」

昌雄はそうフォローした。しかしながら、

「でも正直、どうせ歩美さんと同じ学校には入れへんってテンション下がっとるところもあるかもしれへん」

と続けた。

「マサ君と中高では1年しかかぶらんけど、同じ学校に通えたら楽しかったかもね」

歩美はそう返した。

 受験勉強していた小学生時代の歩美は、昌雄の自分への想いに気付かずにいた。しかし、同級生でなくても自分のことを気に掛けてくれる男の子がいると知っていたら、進路の選択も変わっていたかもしれないと思った。ただやはり、今の女子校での生活は楽しいので、自分の選択に後悔はなかった。

「そう言ってもらえるだけでも嬉しい。俺がもっと早くに歩美さんに告白すべきやったんやろか?」

と、昌雄も「もしも」の現在と未来を想像した。

「でも、高校入ってもそこの女子と浮気なんてせんから安心して!」

昌雄は、話題を変えたくてそう話した。

「そんな疑いはかけてへんよ?もちろん、浮気されたくはないけど」

歩美は、きょとんとしながらそう返した。

「それから俺、就きたい仕事があって…」

昌雄は、そう切り出しながらも口ごもった。

「そんなに言いにくいこと?ゾウさんになりたいとか、二次元キャラと結婚したいとかいう話やないんやろ?笑わんから話してみて?」

その様子に対して、歩美はそう言った。

「ありがとう。もっと真面目な話やから。俺、警察官になりたいって思ってて」

昌雄は、恥ずかしそうにそう告げた。

「すごいやん。マサ君ならええ警察官になるって!」

歩美は明るくそう返したので、昌雄は安心した。

「誰にも話したことなかったから、話せてほっとした。俺には無理って笑われるかもしれへんって警戒して、誰にも話せてなかったんや」

と昌雄は話した。

「確かになるのは簡単やないやろけど、笑われるような話やないと思うから、私以外にも相談していったらええと思うよ。ただ、志望高校との直接的な関係性は少ないのかもしれへんな」

と、歩美も自分なりに考えた。

「警察官になるには武道もしたほうがええやろなって思っとる」

昌雄はそう話した。

「確かに身体能力が必要やと思うけど、野球の経験も役に立つと思うよ?でも、高校から武道を始めるのもええやろな」

歩美もそう話した。

「でも、高校で武道を始めたら、歩美さんを甲子園に連れて行けなくなる!」

昌雄は、そのことに気付いて少し寂しくなった。

「甲子園の話、続いとったんや。私、連れってってとは言ってへんのに」

歩美は、思わずそうツッコんだ。

「野球でも武道でも、マサ君が興味のある部活に入ればええよ。高校も、学力や通いやすさから選ぶものやろ?無理に背伸びすることも遠い学校に通うこともないと思う」

歩美はそう続けた。そう言いながら、自分自身は自宅から少し遠い学校に通っているのだが。

「そうか、ありがとう。あと、勉強も教えて欲しいから、歩美さんには頼りっぱなしになるな」

昌雄はそう苦笑いした。それに対し歩美は

「私は、マサ君のためになれることは嬉しいよ?これまでマサ君には心配掛けてばっかやけど、今回初めて自分の方が年上で良かったって思えたの」

と微笑んだ。

「そうか。俺こそ、歩美さんに甘えてばかりと思ってたけど、そう言ってもらえて嬉しい」

昌雄はほっとしながらそう話した。

 よく受験勉強や部活動など、大きな課題や目標に立ち向かう時期に恋愛が絡むと、それが邪魔になることがある。

 例えば、同級生のカップルが受験生になるときに、勉強よりもそれの現実逃避に走って失敗に繋がる可能性がある。一緒に勉強して共に目標に向かって努力するカップルも存在はするが、決して多いパターンではないだろう。

 しかし、歩美は昌雄より年上であるため、受験勉強を共にする当事者ではなく先輩である。そのため、勉強を教えやすいだけでなく、ある程度状況を客観視しやすいところもある。ただ、この状況はカップルでありながら「姉弟のような関係が続いている」と言えなくもない。

「早速やけど、英語を教えてもらってもええかな?5教科の中で1番苦手なんや」

昌雄は英語の教材を取り出して、歩美にそうお願いした。

「ええよ。うちの学校は英語も熱心やから、教えられることも多いはず」

歩美はそう快諾した。

「そう言えば、歩美さんって英語が得意やったな。すごく頼もしい」

昌雄はそう喜んだ。

「洋楽とか聴いたら、英語に親しみを持てるかも」

歩美はそう提案した。やはり、バンド内で洋楽を和訳して歌っていることもあり、そのような発想に至った。

「歩美さんってバンド活動もしとったな。いつか聴かせてな」

昌雄は、そう頬が緩んだ。

「もちろん。でも、この後は勉強な。人に教える機会ってあんまないから、わかりにくいかもしれへんけど」

歩美はそう話し、英語の教材を手に取った。

「よろしくお願いします。先生!」

昌雄は、元気にそう話した。

「先生か。…そうやよね。私も先生らしく頑張る!」

歩美もそう張り切った。

 教えることを不安がっていた歩美だが、学校内でも英語の成績が良く、要点をしっかり押さえて理解しているため、指導も的確でわかりやすかった。

「やっぱり歩美さんはすごいな。次の英語のテスト、頑張れそう」

昌雄はそう思った。

 しかし、2人とも英語の勉強に夢中になって時間を意識しなくなっていた。そのうち、歩美の英語を教える声が小さくなっていった。

「…?歩美、さん?」

昌雄は、静かになったことが心配になって歩美の顔を覗き込んだ。そのときに、歩美が教材を持って座ったまま眠っていることに気付いた。

「忙しいのに、無理させてしもたな」

昌雄は静かにそう呟き、歩美を部屋のベッドまで運んだ。

「俺のことは気にせず、ゆっくり休んでな」

昌雄は、歩美をベッドに眠らせて、幸せそうな寝顔に向かってそう囁いた。

 昌雄は、本来は自分1人だけでも勉強すべきなのだろうと思いながらも、歩美の寝顔を眺めて癒された。普段は落ち着きのあるお姉さんという印象の歩美だが、この時は年上とは思えないほどあどけなかった。

「歩美さんの寝顔って、最高に可愛いな。俺といて安心できるからって思ってもええんやろか?」

昌雄は、無防備な歩美の姿を眺めながらそう思った。ちゃんと自分も歩美のことを守れているのだろうかと思いながら、この姿は他人には見られたくないという気持ちも芽生えた。

「これからも、この可愛い寝顔を眺められたらいいのに」

昌雄は、思わずそんな独り言を呟いた。

 「あれ⁉︎ここは…?」

目を覚ました歩美は、自分がベッドの上にいることに気付いて驚いた。

「起きた?無理させてごめんね」

昌雄は歩美にそう話した。

「私こそごめんね。せっかく張り切ってたのに寝ちゃうなんて」

歩美も、そう謝罪した。そして、彼氏の部屋のベッドで寝ていたと思うと、本当に単純に眠っていただけとはいえ、急激に恥ずかしくなってきた。

「そんなに赤くなること?」

昌雄は歩美の反応に動揺しながら、彼女は寝ても覚めても可愛いとも思った。

「それにマサ君、私をベッドまで運んでくれたのよね?重くなかった?私のせいで腰痛になったらシャレにならへんよ」

歩美はそう慌てた。

「全然重くなかったよ。むしろ、想像以上に軽くて驚いたくらい。普段から野球で鍛えとるし、これくらいでへばっとったら警察官にはなれへんよ」

昌雄は胸を張ってそう返した。

「そっか。いらん心配やったね」

歩美はそうほっとした。

「そういえば私、小学生の頃に受験勉強しすぎて机に伏せて寝てしもて、それに気付いたお父さんに心配されてベッドまで運ばれたことがあったな」

歩美は、そんな思い出話をした。

「そうやったんや。頑張っとったんやな」

昌雄はそう感心した。

「でも変やよね。教えとる私の方が寝ちゃうなんて」

歩美はそう苦笑いした。

「いや、教える方も大変やと思うし、歩美さんも忙しいやろから仕方ないよ。急にお願いしたのは俺やし」

昌雄はそうフォローした。その一方で

「ただ、もし迷惑やなかったら、これからも無理のない範囲で勉強を教えてもらってもええかな?」

と改めてお願いした。

「もちろん、根気よく教えるつもりやよ。一緒に頑張ろう!でも、マサ君も無理しないでね」

歩美のその微笑みに、昌雄はほっとするのだった。

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