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春と現実がやって来る

 「せっかくの春休みなので、お花見にでも行きませんか?」

春休みに入ってから、昌雄は歩美にそうメールした。

「部活のない日も多いから、予定は入れやすいよ」

歩美からは、そんな返事が来た。

「明日は俺も休みなので、歩美さんの家に行ってもいい?改めて相談させてください」

昌雄はそうメールを送った。


 「お邪魔します」

翌日、昌雄は歩美の家を訪ねた。

「いらっしゃい。もうマサ君もよくうちに来るようになったから、『おかえり』って言いそうになるな」

歩美は昌雄を迎えながら、笑ってそう話した。

「そう言い合えたら嬉しいけど、まだ早いやろ?」

昌雄はそうはにかんだ。

「それで、お花見に行きたいって話やったよね?」

歩美は、リビングで2人して座ってからそう聞いた。

「うん。春休みやし、その…初デートになるかと思って」

昌雄は、照れながらも明るくそう話した。

「そっか。そうやね。まだ昼間やし、近所の公園くらいなら今からでも行けるよ?」

歩美がそう提案した。

「そうや。あそこの桜綺麗やったな。じゃあ、そこに行こう!」

昌雄も喜んで賛同した。

 2人の家の近所の公園は、それなりに広くて桜の木も多く、花見に行く人も少なくなかった。

「まだ肌寒く思うときもあるけど、すっかり春やね」

移動中、歩美はほんわかとそう話した。

「こうすれば、温かくなるやろか?」

昌雄はそう話し、緊張しながら歩美に手を差し出した。

「そ…そうやよね。私たち付き合っとるんやから、手くらい繋ぐのが普通やよな」

歩美は戸惑いながらそう話した。

「もしかして、嫌やった?」

昌雄は不安になってそう聞いた。

「嫌やないけど、なんか恥ずかしくて。でも、マサ君の手は昔より大きくてしっかりしてるなって思うようになった」

歩美はそう話しながら、昌雄の手を握った。

「不思議やよね。小さい頃は何の意識もなく手を握れたのに」

歩美は、昌雄の手を握ったままそう続けた。

「そうなんや。でも、俺は小さい頃は確かに今みたいな意識はなかったけど、歩美さんに手を握ってもらえたことは嬉しかったよ?」

昌雄のその言葉に対し、歩美は

「そんな頃もあったな」

と遠い目をしながら話した。

 歩美にとって完全に忘れた話ではなかったが、その頃は弟の面倒を見るような感覚で昌雄と接していたので、あまり強く印象には残っていなかった。

 しかしながら昌雄にとっては、歩美が姉のように優しくしてくれた記憶であり、2人の大切な思い出なので、その頃から歩美に好意を抱き始めていたのだろうと改めて思った。

「俺も、歩美さんの手は好きやな。昔より大きくなったけど、変わらず温かくて綺麗で−」

昌雄は照れながらも素直にそう話した。歩美は年上な分早く大人に近付いているが、女性らしく華奢な手は自分よりも小さく、変わらず優しい感触に癒されてきた。

 そうしているうちに目的地の公園に到着した。それも、2人共成長して歩幅が変わったためか、昔よりも自宅からの距離が近く感じるようになった。

 この日は平日で午前中だったため、比較的公園は静かだった。

「桜、綺麗に咲いとるね。今は人気も少ないし、ここでお弁当でも用意してもお花見を楽しめたかもしれへんな」

歩美は、公園を見渡してそう話した。

「俺が突然押し掛けたから気にせんでええよ。それに、来年も再来年も、この場所でお花見すればええやん」

昌雄は明るくそう話した。

「そっか。それもそうやね」

歩美もその話に頷きながら、これからも2人で過ごす未来を考えた。

「それよりも、この公園って遊具も多いよな。まだ小さい子も少ないし、せっかくなら思い切り遊ばへん⁉︎」

昌雄は、豊富な遊具を目の前に瞳を輝かせながらそう話した。

「それは構わへんけど、桜はもうええの?」

歩美は、そう言って少し困惑した。

「まずはシーソーでも乗らへん?2人でしか楽しめへんし!」

昌雄はわくわくしながら歩美の手を引いた。

「ええよ。でも、そんなにはしゃぐこと?」

歩美はそう苦笑しながら、昌雄のことを年下らしくて可愛いと思った。

「シーソーで遊んだのって小学生以来かもしれへん。でも、今やっても楽しいな」

実際にシーソーで遊ぶと、歩美もそう言って楽しめた。

「じゃあ、今度はターザンロープやろう!」

しばらくシーソーで遊んだ後に昌雄は、はしゃぎながらそう提案した。

「うん。ええよ」

歩美はそう返した。

 この公園のターザンロープは、幼少期ほど大きな印象はなかったが、幅が広く作られているため、今でも小さくは思わなかった。

「ターザンロープって、昔から好きやったな」

歩美はそう言いながら、ターザンロープに乗った。

「やっぱり今やっても楽しいな。せっかくなら往復しよう!」

歩美も、そうテンションが上がった。

「俺、昔はターザンロープが怖かったな。でも、今は楽しいって思える」

昌雄は、楽しそうな歩美を見ながらそう話した。昌雄がターザンロープへの恐怖が克服されたのは成長しただけでなく、こうして歩美と一緒に遊べて楽しいと思えたという理由もあるかもしれないと思った。

「やっぱ公園って楽しいな。今度はブランコ乗らへん⁉︎」

昌雄は再度そう提案した。

「ええよ。本当、小さい頃に戻ったみたい」

歩美は、微笑みながらそう話した。

「ごめん。つい夢中で勝手にあれこれ提案したけど、歩美さんが遊びたい遊具があったら言ってな」

昌雄はふと我に返ってそう話した。

「どの遊具でもええよ。でも、スカートやから鉄棒だけはパス。ブランコは私も好きやよ」

歩美は優しくそう答えた。それと同時に、こうして公園の遊具で遊ぶことを知っていたら、もっと動きやすい服装をしていたのにと少しだけ後悔した。

「お花見のつもりが結局遊具で遊ぶって、俺って運動が好きすぎるっていうか、ガキすぎるか。最初に歩美さんを誘ってしたのもキャッチボールやったし」

昌雄は、ブランコを漕ぎながらそう話した。

「私も楽しいから構わんよ。マサ君とキャッチボールしてきたおかげで、この間の体育の授業のソフトボールでも、上手に投げるって感心されたっけ。おかげで、キャッチャーとして活躍できたの」

歩美は、嬉しそうにそう話した。歩美は運動部の経験があるため元々運動音痴ではなかったが、エースとしてバリバリ活躍するようなスポーツ万能でもなかった。

「そっか。俺も歩美さんの役に立てたんやね」

昌雄はそう喜んで、それまで以上に大きくブランコを漕いだ。

「何かマサ君、犬みたい」

歩美は、はしゃいでいる昌雄に対してそう話した。

「いっ…犬⁉︎それって褒め言葉⁉︎」

昌雄は驚いてそう聞いた。

「うん。悪意はないよ。犬って素直で元気で可愛いから」

歩美は迷わずそう答えた。

「じゃあ、歩美さんが俺のご主人様やね。それも悪ないな」

昌雄は、嬉しそうにそう話した。

「えっ⁉︎私がご主人様ってつもりはないよ。ってか、私の飼い犬になりたいの?」

歩美はそう慌てた。

「俺、ずっと歩美さんの忠犬でいるから」

歩美は、昌雄がそう無邪気な笑顔を見せたこと自体は喜ばしく思ったが、自分達の関係は対等ではないのだろうかと気になったのだった。


 そして4月になり新年度を迎え、昌雄は中学3年生、歩美は高校2年生になった。

 歩美の学校生活は、後輩が入ってきたくらいしか変化がなかったが、昌雄は高校受験という現実と向き合うことになった。

 そんな中、昌雄はこの月の13日に誕生日を迎えた。

「マサ君、お誕生日おめでとう」

その日の夜、歩美はプレゼントを持って昌雄の元を訪ねた。

「ありがとう。誕生日プレゼントって、恋人らしくて嬉しいな」

昌雄はそうはにかんだ。

「マサ君が半年前の私の誕生日にプレゼントをくれたことが付き合う最初のきっかけやから、当然私もプレゼントを贈らんと」

と歩美は張り切って話した。

「俺も、全く期待してなかったわけやないけど、やっぱり嬉しい」

と、昌雄ははにかんだ。

 歩美が贈ったプレゼントは、シャーペンとアロマオイルだった。昌雄は、シャーペンを見た瞬間に

「これを貰うって、嬉しいけど俺も受験生なんやなって実感させられるな」

と苦笑いした。

「確かに高校受験があるから、『勉強頑張れ』と思って選んだな。このシャーペン、私も使っとるけど、手への負担が少なくて書きやすいの」

と歩美が説明した。

「歩美さんとお揃いって嬉しいな。お揃いって初めてやんな⁉︎やったー!俺、これをお守りに勉強頑張るな!」

と昌雄は大喜びした。

「そんなに喜ばれると思わんかった」

歩美はそう微笑みながらも少し驚いた。

「でも、勉強に追われすぎると疲れてかえって上手くいかへんかもしれへんから、たまには癒されて欲しくてアロマオイルも用意したの」

と歩美は続けた。

「それも嬉しいな。これが飴と鞭ってヤツ⁉︎俺、歩美さんには一生敵わん気がする」

昌雄のその言葉に対して歩美は

「私の忠犬とか、一生敵わんとか、一体マサ君の中の私ってどうなっとんの⁉たまに敬語使うし、私ってそんなに威圧感ある?︎」

と不安になった。

「いや、威圧を感じたことはないよ。むしろ、歩美さんの優しさに甘えすぎとるくらい。威圧っていうより、敬意やろか?意識したことなかったけど、さん付けしたり、たまに敬語で話すのもそのせいかもしれへん」

昌雄は、歩美に指摘された点について自分なりに考えてそう答えた。

 昌雄は、幼少期からお姉さんのように面倒を見てくれた歩美に対して敬意や憧れの感情を抱いていた。それは恋愛感情との区別がしにくいため、昌雄が歩美に好意を抱き始めた時期やきっかけが不透明な要因の一つとなっていた。

 ただ、歩美はしっかりしていて自分よりできることも多いと思ってきたので、憧れの気持ちは単純に年上ということだけが理由ではないようにも思っていた。そして、結局それも含めて歩美のことが「好き」ということに違いはなかった。

 また、互いに敬意を抱ける点があったらカップルとして長続きする見解もどこかで聞いたため、歩美への憧れによってずっと一緒にいられたらとも思った。ただ、自分は歩美に敬意を抱かれたり頼ってもらえる点はあるだろうかという気後れもあった。

「高校受験は経験がないからわからんことも多いけど、マサ君が志望校に入れるように、これから私にできることは協力してくからね!」

歩美は力強くそう話し、昌雄の手を取った。これまで歩美から手を握られることはあまりなかったため、昌雄は自分でも驚くほどキュンとなった。

「ありがとう。歩美さんがおってくれたら、どんなことでも頑張れる!」

昌雄も元気にそう話し、歩美の手を握り返した。

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