第三騎士団の訓練場
アレスやジークも教えた新たな魔法を教えるために、僕は団員を訓練場に連れて行った。第三騎士団用に用意されていた、訓練場があったのでそこを使う事にした。第一騎士団の所とは違い、まだ何も置かれた様子はなかった。そして、隣の第二騎士団の方は事務作業が多いので、目に見える訓練場などはなかった。
「レイ、剣を何に使う気なのだ?」
と、アイガンが手で剣を叩きながら聞いて来た。
木剣であるため、彼が手を切る事はなかった。それは当然であったが、アイガンも真剣ならそんな事をしないだろう、と僕は思った。
剣であるとしやすいと言う事もあり、僕は彼らに剣を持ってくるよう頼んだ。だけど、何も知らない人からしたら謎でしかないだろう。
「それは、邪魔な奴らを殺すためだろう…へへへ」
と、体を丸めながらゴーシュが呟いた。
彼は完全に遊びのモードになっていた。いや、いつもそう言う感じの人だった。
「そんな訳ないだろう…余りにも身勝手過ぎる。そして、レイらしくない」
と、ザリファーが反論した。
僕がそちらを見ると、副団長のセイスも同じように頷いていた。が、特に何も言う仕草を見せなかった。たまに寝ているのでは、と疑いたくなるほどである。
僕は彼らを直視しながら、言った。
「そう言う使い方もある。だけど、誰もそんな事はしないと思う。それも、ここの人なら…」
「と、言う事は出来ると言う訳だなっ」
と、ゴーシュが目を輝かせた。
背後でアイガンが怖っ、と声を上げていた。本当に二人はいい反応をしてくれるのだった。
「だが、それは他の何かでも同じ。武器は自分を守るためにもなるが、相手を殺す事も出来る。本は知識を得る事に役立つけど、それだけでは凶器になり得る。そして、魔法も同じ考えに当て嵌まる。人を救う力になる一方で、傷付ける力になる事もある」
「おぉ…凄い。流石、ブラック・ライオキャットを殺めた人が言えば、信憑性が増すな」
と、ゴーシュは手を顎に当てながら、僕に更に近付いた。
僕は一度、セイスを見た。
「と言うか、何故、セイス副団長も何気ない顔でいるのですか? ただの少年兵が変な事を言い出しているのですよ」
だが、セイスはその眠そうな顔を特に変える様子はなかった。本当に表情が読みにくい人だった。
セイスは頭を押さえながら、返事をした。
「そうか? レイがブラック・ライオキャットから助けてくれた時のように、新たな力は知る必要がある。生きるためには必要な事だ。だから、自尊心などど言うものもない。皆で考えて行くのなら、レイがしている事は何も可笑しくない」
と、正論を言った。
が、僕はすぐに反論した。
「ですが、それがセイスさんが一緒にしていい理由にはなりませんよ」
セイスは僕をじっと見た。全てを見通すような澄んだ瞳の持ち主だった。僕は一瞬ドキっとした。
「そう、言われてもな…後から団長に報告するとしたら、一緒に体験した方がいいだろう。面白そうだからな」
と、セイスは軽く笑顔を作った。
要するに、彼はサボるための丁度よい理由を見つけたようだった。この第三騎士団の人々は悪い人ばかりではなかったが、何かと遊びたい人が多い。そして、何かをしてくれる人がいるのなら、その人の全てを任すようだった。少しだが、未来が心配になって来た。本当に大丈夫なのか、と。
本当に、第三騎士団にやって来た人々は有能ではあるが、少し残念な人が多かった。もしかしたら、僕もその一人なのかもしれなかった。上がどう考えているかは知らないが、僕はその事について更に考える事は止めた。知った所で、今が変わる訳でもなかった。




