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ジークの更なる受難

 第一騎士団から手紙が届いたので、ジークは手紙を開けて読んでいた。が、読むごとにその顔を少しずつ変わるのだった。具体的にはより悪い方にだった。目頭を押さえながら、ジークは更に溜め息を付いていた。それが彼の最悪な気持ちを示すサインだと、アレスは最近分かるようになった。

 レイが学園を去ってしまった日から、二人は以前より会うようになったのでより知り合う事になった。現に彼らがいた部屋もどこかの教室ではなく、寮の一室だった。アレスは再度、自分のベッドの上に座っているジークを見た。眼鏡は目の疲れをどうにかするために、近くに置かれていた。

 当のアレスは自分の椅子に座っていた。


「どうだったの、ジーク? そんな顔をすると言う事は、流石レイ。としか、言えないけど…」


 下を見ていたジークは顔を上げた。

「出来れば、そう笑い飛ばしたいな…本当に。レイ。いや、レインフォード・ウィズアード様はどこまでも、人を困らせるのが好きだ。いや、当の本人は困らせているとも思っていないだろう。本当にただ軽い気持ちで全てを行っている」


 アレスはそんなジークに少し笑みを浮かべながら、聞いた。

「たとえば何をレイはした、と言うの?」


「聞くか? それは聞くよな…私、いや、()ら三人で大の親友だからな」

 と、言うジークの声に皮肉さはなく、心から親友である事が嬉しいようだった。


 だから、二人はレイがいなくなった後も彼の事を感じ取られる、この部屋にやって来た。レイが使っていた人はもう、別の人が入っていた。


「だが、どこの誰が宮廷魔法師様である団長にわざわざ就かずに、少年兵から入る馬鹿がいるのだ……違う。いたな、レイが。が、そう言う訳ではない。本当にやってくれたな、レイっ」

 と、ジークは拳を握っていた。


 手紙は机の上に待避されていたので、被害が及ぶ事はなかった。


「あーそれは、うん。レイらしいね」

 と、アレスは何とも冷静な返事をした。




 レイと関わる者は常識を失うようになる。それをアレスはよく表していた。一方で、ジークにはまだ常識があった。だから、それが逆に彼を苦しめていた、とも言えるのだった。


「そして、第一騎士団長も同様に馬鹿過ぎる。何がジークの言う通りレイは凄く強いね、負けちゃったよ、だ。疑えっ。明らかに可笑しいだろう。どこの少年兵が、凄腕の団長を軽々しく倒せると思うのだー」

 と、叫び終わるとジークは肩で息をしていた。


 そして、すかさずアレスが水が入ったコップを手渡していた。こう言う連携も彼らはいつの間にか取れていた。ダンジョン内で背中を任せ合う事が、意味を成したのだった。


 ジークは口元を拭きながら、続けた。

「本当にレイも、何をしたいのだ。力を見せびらかしたと思えば、実はS級冒険者で、今度は逆に僕らに魔法を押してくれる。そして、宮廷魔法師で第三騎士団を率いると思えば、少年兵に化けている…本当に本当に何をしたいのだーー」

 と、ジークは力なく机を叩いていた。


 今にも頭を打ち付けたい気持ちを抑えて、手で叩く事に止まったのだった。


「それも合わせて、レイだよ。今はレインフォード・ウィズアードの名の方かもしれないけど」

 と、アレスは慰める事なく、ただレイの事実を言った。


 それが二人のよくある会話の方向だった。ジークとしても慰められたいから言っている訳ではないので、それでよかった。彼らがレイを思う心は二人とも同じほど、強いのだった。その思う気持ちは多少差があったが。だから、特に気にしていなかった。


「そうだな、そうだ。だけど、それはもう僕らの理解の範囲を超えている。と、言うか…もう誰もレイのしたい事を理解出来ない。幸い、王様からは何も言われていないと言う事は許容範囲なのだろう。でも、少し優し過ぎないか? ちゃんと第三騎士団で働いていると言ったとしても、団長に就いていないと言う事は職務を怠っているとも、十分言えるのだが…」


「それもそれも全てあってからこそ、レイだよ。次は何をしてくれるのか、と思えばいいのじゃない…ジーク? 何をやらかすかではなく」

 と、アレスはジークを見た。


 ジークは頭を押さえながら、机に寝そべっていた。

「言いたい事は分かるが、無理だ。絶対、こちらは振り回される側なのだ。人生も未来も明日も昨日も何もかも……もう世界はレイを基準として動いているのかもしれない」


「でも、それはジークが望んでいた事ではあるでしょ? だって、そうでなければレイが求められる事はなかった。少し強制的に知らしめる事になったけどね」


「そうも言える。あのままだった場合、レイの才能が埋もれてしまう可能性があった。だが果たして今の状況は、正しいと言えるのか?」




「それも本当は答えを知っているよね、ジーク。レイが僕らに冒険者として本当のランクを伝えてくれた時のように。おれは本当にただの偶然だったけど、学園で魔法を教えてくれた時など…レイは必要な場ではちゃんと正体を明かす。それは威張りたい訳ではない。ただ強さと言うのは時に大切になる。英雄と同じような力を持つ。そして、その分責任が生じる。そして、更に敵を勝手に生まれてしまう」


 ジークはアレスの最後の言葉に顔を上げた。

「だな。だからこそ、一人で突っ走る彼を助ける人が必要なのだ。それが僕らだ。そして、彼によって新たな世界を知る事が出来た全て人の、責務と言える。レイがしてくれたから、今度は僕らが仕返し」


「ーー恩返しね」

 と、アレスがジークの言葉を上書きした。


 彼が信じるただ正しい言葉を言ったのだった。


 言われたジークは何食わぬ顔のまま、また言葉を続けていた。

「だから、アレス…少しでいいからレイを見て来てくれるか?」


 アレスは目を大きくさせた。

「え? 今から…」



「そうだっ」

 と、ジークは大きく頷いた。


 これぞ、当然と言う風に。いつの間にか、顔は生気を取り戻し、象徴である眼鏡を掛けていた。


「…王立魔法学園特別委員会委員長、ジーク・アーネストの権限でアレス・フェッツは今この時から校外学習のため外出する事が許可される。欠席する事になる授業はアレス・フェッツのよい授業態度から、免除となる」



 アレスはジークがかっこいいと本人が思っているポーズを見てから、呟いた。

「それって、ただ遊びに行く事を無理矢理正当化しているよね…特別委員会の委員長がそこまで出来るとは知らなかったよ」


「いや、違う。これは校外学習である。新たに設立された第三騎士団に足を運び、その後()に報告する重要な任務だ」

 と、これまた遊びに行って、ジークにまた話す事が何も悪くないような口調だった。


「それもまた……まぁ。いいか。僕も丁度行きたかったから。でも、本当にいいの? 今からじゃなくても、放課後からでも行けるけど」

 と、アレスは窓の向こう側の建物を見た。


 そこには騎士団の建物が立ち並んでいた。その中に第三騎士団の建物も含まれていた。王都で王城に近いと言う事もあり、王立魔法学園と第三騎士団の建物は本当に近くにあった。

 レイがいなくなってから、二人はそれほど日が経っていない事もあり、会う理由が特に見当たらなかった。平日に行かないとしても、もうすぐ訪れる週末には会えるのだった。


 だが、ジークは頑固に自分を意見を押し進めた。

「いいのだ。私が言う事は全て正しい」



「と、言う割にはジークの下から人が去っているよ?」

 と、アレスはジークに笑い掛けた。


 その顔は何とも言えない悪戯顔だった。


 アレスの言う通り、ジークは親衛隊のメンバーを失いだしていた。それは彼らがレイを支持するジークを理解出来ないからだった。が、ジークからしたらレイがこの先の時代を率いる人に見えるのだった。彼が二人をこの学園で率いたように。


「それは…言わないでくれ。アレスもレイがいないと、性格が変わる」

 と、今後はジークが冷静に返した。


 アレスは笑みを浮かべた。誰かの真似をするように。

「そう? やっぱり、レイがいないと暇だからね。ジークの言っていた事は、ちゃんとやるよ。そこは安心して。この僕がレイを裏切るはずがないよ。それはジークでも一緒」



 ジークはふと、歪んだ何かを垣間見た。が、それは一瞬だったので何かに気付く事はなかった。


 その後も二人はアレスの部屋で、レイとの何気ない思い出話で時間を潰していた。それが彼らの過ごし方だった。

 逆にこれまでの事を考えるとあり得なかった。ジークもアレスもレイに出会わなければ、知り合う事がなかった。小さな偶然が重なり合って、今日を作っているのだった。


 その事に二人は心から感謝していた。そして、それがいつまでも続く事を無意識に願っていた。

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