強くなる理由
大部屋に戻る他の団員が集合していた。各自で各自の仕事がひと段落したようで、丁度休憩を取っていた。僕からしたらいつも遊んでいるようにしか、見えないようにでもあったが。
「おかえり、レイ。第一騎士団に呼ばれたと聞いたが、どうだったのだ?」
と、ザリファーが近付いて来た。
僕はセイス副団長に見られていると感じながら、返事をした。
「特に難しい事は何もしなかったよ。ただブラック・ライオキャットを倒した事から今日の訓練に付き合う事になった。そして、何故か騎士団長に喧嘩を吹っ掛けられた感じ」
欠伸を何とか抑えていた、ゴーシュが大きく目を開いた。
「吹っ掛けられただと? それはただ喧嘩を向こうからされたと言う訳だ。で、ここにいると言う事は勝ったのかい…本当にこの少年兵には謎が多いな」
と、最後は溜め息を付いていた。
一方でザリファーは、目を誰かのように輝かせていた。
「凄い、レイ」
と、更に一歩近付いて来た。
何かの危機を感じた僕はすぐに、後退った。
案の定、ザリファーが僕を押すように何度も歩み寄って来た。
「と、言う事は第一騎士団以上の実力を持っていると言う事。普通なら、あり得ないよ」
と、僕は両肩を握っていた。
同じ少年兵として、そこまで出来る事に興奮しているようだった。横目でセイスを見ると、更に険しい顔をした。今は色々な表情を作れる事にだけ、驚く事にした。それ以外は今はもうよかった。
「…ザリファーは出来ると思うよ」
と、僕は小さく返事をした。
「本当か? 是非、教えてくれっ」
と、逆に興奮させてしまった事に、今気付いた。
僕はザリファーを静かに直視した。セイスがやっているように。
「でも、一つ教えて。何で強くなりたい?」
「それは当然、もう誰も失わないため。あの忌々しい魔物を絶対倒すと決めたのだ。ーー狩り人の父が魔物に殺された事もあるから。もう、同じ経験を誰にもして欲しくない」
と、力強い目をザリファーは向けて来た。
それは僕がまだ知らない感情だった。ここまで強く燃える焔を抱えている人は見た事がなかった。一見ジークと同じような目にも見えたが、やっぱりそれとは違った。更に悲しさと孤独を自らが味わった事があるようだった。誰か大切な人を失い、今度は守る側になった人がザリファーだった。同じ歳だとしても、彼はここまで力強いのだった。
本当に力とは何のためにあるのだろうか、と僕は問われた瞬間だった。本当は無力かもしれないが、ここまでの覚悟を見せてれる人がいる。それは僕が知らないだけで実際は他にもいるのかもしれないのだった。
僕は最初から力がある故に、そこまで考えた事がなかった。魔物の戦いながら、怪我をする事は考えた。が、ここまで身近に死を感じさせられた事はなかった。僕はまだ平和ぼけをしていたのだった。自分がどこまでも通用すると、高を括っていたのだった。そう言う人ほど、最初に破滅すると知っていながら。
本当に、僕自身もまだまだだと、気付かされた。
僕はザリファーを真っ直ぐ見返した。
「分かった。ザリファーのその思いは本当に力強いと思う。それ故に、僕はザリファーを尊敬したくなる。一緒に頑張ろう」
「レイ、教えてくれる?」
と、ザリファーは僕を見た。
「うん。そうだよ。出来る限りの事はする」
と、僕はザリファーに言った。




