第一騎士団
受付嬢のミーシャと話していると、扉から別の制服を来た男性がやって来た。明らかに第三騎士団とは違い、腰から剣を吊るしていた。これで吊るしていないのなら、事務部や裏方専門の第二騎士団かもしれないが、この男性は第一騎士団の団員だった。瞬時に近付いて来る様子から、武道の方面の人物であった。
僕を見ていたミーシャはすぐに、表情を変えた。
「第一騎士団の方と思われますが、どのような御用でしょうか?」
男性は近付いて来ると、カウンターに腕を置いた。ミーシャにかっこよく見せたかったのかもしれないが、効いていないとすぐにばれていた。
「何でしょうか? 話せないのなら、筆談でもよろしいですか…」
と、ミーシャは本当に紙とペンを持って来た。
魔力で書ける高級なペンをわざわざ、選んだようだった。
「筆談だとっ。ふざけてるのか?」
と、男性はムカついた顔をした。
が、ミーシャは動じなかった。
「うるさくするのなら、お帰りください。それが嫌なら、奥から呼びます…が?」
と、怖い笑みを浮かべていた。
「ふん。第一騎士団の者だ。昨日、大型の魔物をやった奴を借りようと思っただけだ」
と、腰の剣をチラつかせた。
言う事を聞かないのなら、武力行使すると言う事だった。
「無理です。そもそも、貴方が怪しいとしか言えません」
「何? 俺を信じないと言うのか…いいだろう、団長を呼んで来てやる。第一騎士団と第三騎士団は、絶交だ。作られて、一日で潰れたらさぞ素晴らしいな」
と、男性は鼻で笑った。
ミーシャは奥の人を呼ぼうとしたが、男性がすぐに動くような動作をした。本当に面倒な人が来たのだった。
僕は第一騎士団に興味があったので、声を上げた。
「ミーシャさん。行きますよ」
「お前は誰だ? 少年兵だと、そんなのに興味などない」
と、男性は言った。
が、ミーシャは構う様子がなかった。
「いいの、レイ? 何かあったら、すぐに言う事だよ」
「はい」
と、僕はミーシャを安心させた。
そして、男性と向かい合った。
「その魔物の討伐に参加しました。なので、多少は役に立つかもしれません。これでも嫌と言うのなら、強硬手段に出ますがどうしますか?」
と、僕は笑みを浮かべた。
男性は僕の全身を見て、どこにも剣がないのをいい事に思ったようだった。
「いいだろう。付いて来い、面白い経験をさせてやる」
男性の後を付いて行くと、近くの第一騎士団の建物に連れて行かれた。幸い、詐欺のようではないようだった。制服を着ていると言う事は、ちゃんとした団員なのだろう。騎士団の団員と勝手に変装する事は、重罪だった。宮廷魔法師の方は有名になり過ぎて、誰も取り締まる事が出来なかった。だから、魔法の杖が加わったとも言えたのだった。
「おー連れて来たか、ありがとう。先程の仕事に戻っていいぞ」
と、男性よりも大きい人が言った。
漂うオーラから、この人が第一騎士団の団長のようだった。ベテランの冒険者と同じような、熊のような人だった。王立魔法学園で、アレスと戦った人だと気付いた。
その人物から言われた、僕を連れて来た男性は早々と去って行った。
団長は、僕を見ながら笑った。
「あいつは何か悪い事をしなかったか? 口は少々悪いかもしれないが、根はいいやつなのだ」
と、大きく笑い声を上げた。
団長は怖そうな人だが、実際は面白い人であった。
「大丈夫でした。わざわざ案内役をありがとうございます」
「いやいや、いいよ。流石、ジークの友達だけある。私が戦ったアレスと言う事も強かったが、君もそのオーラがある」
と、僕は再度笑みを浮かべた。
第一騎士団の団長ともなる人なので、王族と関係を持っていても可笑しくないのだった。が、ジークとよく話す仲であるとは知らなかった。
「だが、第三騎士団の少年兵になるとは大出世だ。中々、その枠には入れないと噂が来るからな。そこの団長は、学生と聞いてがもう会えたのか?」
と、団長は宮廷魔法師である、レインフォード・ウィズアードについて余り知らされていないようだった。
目からして、本当に僕をただの少年兵だと思っているようだった。第三騎士団の団長は学生と言っても、一番若い王立魔法学園の学生から、魔法専門学院などの何歳でも学生になれる。実は幅が広いのだった。
彼からしたら、少年兵になるだけでも大出世だった。が、僕からしたら少年兵で大出世なら、宮廷魔法師になった場合はどこまでの出世と言うのか、少し考えた。普通なら、国王を救ったとしてもお金と騎士の位を貰うだけで終わるのかもしれない。
うん。僕は最初からやり過ぎていたのだと、思った。完全に危険過ぎて、国の監視下に置かれているのだな、と理解した。
「いや、まだです。まだ、忙しいようで第三騎士団には来ていません」
「そうか。なら、我々は我々でする事をしよう。ーーレイ。少し実験に付き合ってくれるか?」
と、団長は僕を見た。
「分かりました。ですが、面白い事が条件です」
僕は団長がいい人と思ったので、少し遊ぶ事にした。
団長は笑った。
「いいだろう。きっと、君を退屈にはさせなようにする。そう、第一騎士団長が宣言しよう」




