第三騎士団のバッジ
僕が第三騎士団の建物に入ると、受付でミーシャがこちらを見て来た。そして、肩の黒猫が目に入ると大きく目を開けた。先程まで眠そうにしていたのが、嘘のようだった。
「猫ちゃんー」
と、僕に飛び付いて来た。
すると、僕がそこにいた事に気付いたようで、恥ずかしそうな声を出した。
「……おはよう、レイ。先程の事は忘れて頂戴っ」
と、赤面した顔を両手で押さえた。
「いいですよ、ミーシャさん」
と、僕は言いながら、黒猫をカウンターに乗せた。
僕がカウンターに片手を置くと、黒猫自身が軽やかに降りて行った。
ミーシャはまた、目を大きくしていた。
「凄い、レイ。これ、猫ちゃんに教えたの?」
「いや、軽くです。後は黒猫が勝手に、何かを覚えたようです」
「それでも、多芸な猫ちゃん」
と、ミーシャは黒猫と遊び始めた。
そして、ふとこちらを見た。僕の上下を眺めているようだった。
「レイも、魔法少年ね。宮廷魔法師が身に付ける、ローブを羽織っているのだから」
と、笑みをミーシャは浮かべた。
僕は自分のローブを見て、バッジをすっかり付け忘れている事に気が付いた。バッジがないのなら、団長と分からない。そして、宮廷魔法を示すもう一つの魔法の杖も中側にあるのなら、誰も気付かないのだった。自分の失態に恥じりながらも、逆にまだ知らせずに済んだ事にほっとした。
一瞬にして、昨日の決意は消え去っていた。
そんな僕の気持ちも知らないミーシャが気付いたように、僕を見た。そして、カウンターの下から何かを取り出した。ーーバッジ。それも、少年兵を表していると思われる、ザリファーと同じものだった。
「はい、レイ。これ、渡し忘れていたから、直接渡す事にしたの」
と、僕に差し出して来た。
僕は笑顔を見せながら、答えた。
「ありがとうございます」
「いや、いいよ。それが受付嬢の仕事だから。ほら、付けて見て」
僕は急かすミーシャを抑えるために、バッジに付ける事にした。白色のローブの左胸に付けると、一気に魔法師らしい雰囲気を出している気がした。
「うん。似合ってるね、レイ」
と、ミーシャが小さく呟いた。
よく見ると、ミーシャの左胸にもバッジが付いているのだった。黒猫も嬉しそうに、鳴き声を上げていた。
僕は一つ気になって、ミーシャに聞いた。
「黒猫にもバッジはあるのですか? 第三騎士団の看板猫として…」
「そうね…」
と、ミーシャは少し考える顔をした。
そして、頷いた。
「うん、いいと思う。他の看板動物と混ざらないため、もしくは迷子になった時に大丈夫なようにしようか」
と、言ってくれた。
僕は嬉しかった。ただのバッジかもしれないが、それがある事でより仲間である気がした。それだけでも、バッジの力は強いのだった。




