午後のサボり
僕は午後の授業に出席する、アレスを見送った。午後から授業に出る事も出来たが、午前のを出ていないと行く気にならなかった。それにしたい事があったので。そのためなら、初日の授業をすっぽかすのは悪くないと思えた。
まずは読み終わった本を回収して、図書館に向かった。劣等生としていたずらをされる場合、本を汚される事が多いから。自分の本だと我慢出来るが、図書館の本は早く安全な場所に置きたかった。
図書館に入ると、丁度在校生がいないタイミングだった。そのため、少し安心出来た。何か言われるのに慣れているとしても、ストレスはどうしても感じてしまうから。
カウンターに行くと、あの司書さんがいた。
僕と目が合うと、呟いた。
「本を読むのが早いのだな。期限前にちゃんと返しに来る生徒は、少ないからありがたいよ」
「そうですか…」
「そうだ。全生徒が心から本を愛する人であれば、いいのだけどな……で、本を返しに来たのだな?」
僕は司書さんに言われて、カウンターに本を置いた。司書さんが小さく何かを呟くと、本は瞬く間に消えた。
「驚かないのか?」
と、司書さんが聞いて来た。
「…まあ。魔法と思えばそう言う事が出来るのかな、と思うので。先程のは何をしたのですか?」
司書さんが呪文を唱えるように、指をくるくる回した。
「返された本を綺麗にしてから、元の場所に戻したのだよ」
と、さらーと高度な技術を明かした。
前世の司書さんだと、本の管理や借りる返すの手続きをするイメージがあった。が、この世界では凄い技術を持つ、司書さんがいるのだった。
「司書さんはだれもがそれを行えるのですか?」
「いや、全員ではない。元々魔法使いとして期待されていたのだが、余りそう言う道には興味がなかったから。外で戦うより、中で本に囲まれていたかったのだよ」
司書さんは根っこからの本好きであるのだった。僕も本を持って来ている人として、そこは共感出来た。
「教えてくれて、ありがとうございます」
司書さんは軽く頭を振った。
「いやいや、気にする事ではないよ。何となく君は、私と同じ人に見えるから」
それは本好きとしての、絆であった。司書さんも僕と同じように感じているのだった。
僕がそのまま去ろうとすると、司書さんがこちらを見た。
「また読みたい本があれば、来たらいい」
「…本は誰にでも平等だから、ですね」
と、僕は返した。
すると、優しい顔を司書さんはした。
僕はその顔を一度見てから、図書館を出た。
本を返した事で軽くなった手を感じながら、僕は午前の時のように校庭を見て回っていた。昼食を終えた劣等生達が、暇そうに日陰で座っていた。一日中も遊び続けるのも、大変だからだろう。
彼らがこちらを見ていると知りながらも、僕は歩き続けた。するとリーダーの少年が、手を振って来た。顔は太陽にも負けないほどの、笑顔である。
「また、会ったね。元気そうにしていて安心したよ。君はお昼をもう食べた?」
「いや、まだです」
「なら、一緒に食べに行かないか?」
と、誘って来た。
彼らの仲間となる気はないけど、知らない事はまだ多い。だから、僕は頷いた。
「是非、お願いします」
すると、少年は片手を大きく上下させた。
「よし! やっと君ともちゃんとした交流が出来るよ、レイ。俺は、ザックだ」
と、手を差し出した。
僕はもう彼らが自分の名前を知っている事に、驚かなくなった。ただ冷静に、ザックに僕も手を出した。
「よろしく、ザック」
「新たな新入生だー」
周りを見るといつの間にか、他の劣等生達も集まっていた。
もしかしたら彼は、僕が再度ここを通るのを待っていたのかもしれない。わざわざ。
どの道、この人達から離れるのも、近い未来だけど。
きっと彼らから切り離されるだろう。
彼らの団結力は強過ぎて、逆に僕と言う異質な者は、受け入れがたくなるだろう。
全てを知った日には。
僕はそんな彼らを引き連れながら、学園の食堂へと向かった。
お昼時と比べれば、人は少ないだろう。だが、未だいる人がどう思うかはすぐに分かる。いや、分かってしまう。
どうせ、劣等生と言われるだけだ。