初仕事の後日談
「黒猫ー」
と、僕は第三騎士団の受付で黒猫と遊んでいた。
遊んでいたと言ったが、本当は仕事をしている。それも、第三騎士団の看板猫が暇にならないように構って上げる、何とも大切な仕事だった。
それを見ていた、ザリファーが呟いた。
「何で、名前を付けないのだ? 例えば、ノエルとか…黒猫って、そのままだろ」
と、不満そうな顔をした。
何故なら、このままでは第三騎士団の看板猫が「黒猫」などと言う、面白味のない名前にされそうだったから。
でも、僕はこれでいいと思った。
「そう、ザリファー? やっぱり、黒猫は黒猫だよ」
そんな訳ないと呟きながら、ザリファーは受付嬢、ミーシャを見た。彼女の名前はつい先程、聞く事が出来たのだった。
「え? 私ですか?」
と、ミーシャは僕とザリファーを交互に見た。
先程からカウンターに頭を置いて、ただ黒猫を眺めていた。
「私はどちらでもいいですよ。この猫ちゃんを見続けれるのなら、何でもいいです」
と、もう黒猫に夢中になっていた。
「それだと、仕事にならないだろっ」
と、ザリファーは指摘したが、本当に聞こえていないようだった。
ミーシャは手で猫を引き寄せると、遊ばせる事に夢中だった。本当に黒猫は、誰もを駄目にしてしまうのだった。だけど、癒しを与える点では凄く大切な、一員だと思った。そのため、少し仕事から脱線する人がいても、目を瞑るしかない。
黒猫が近くにいなければ、誰もしっかり仕事が行えるのだった。
「あぁ。行かないで、猫ちゃん…」
ミーシャはカウンターから降りようとする、黒猫を引き止めようとした。が、黒猫の方が去るのが早かった。奥でまた、別の団員から可愛がられている声がした。
「あれを見ると、本当に連れて来てよかったのじゃないか」
と、ザリファーが呟いた。
僕は黒猫を眺めながら、ザリファーに答えた。
「そうだね。前の場所なら、どのように酷い事をされていたか分からない。恐怖から黒猫を虐待でもしていたら、よくない」
少し間を空けてから、ザリファーが僕の方を見て来た。
「で、お前は果たして誰なのだ? 誰とは言わないとしても、どこで変な魔法を覚えたのかが謎だ。あそこで動いていたと思われるのは、レイだけだからな。でも、軍学校でもレイの名前を聞いた事はない」
と、目を細めていた。
「さぁ。どうだろうね」
と、僕は軽く質問を躱した。
今の所、第三騎士団は僕の事をそこまで問題にしていなかった。事情がある人はどこにでもいるので、そう言う点はよかった。だけど、それそれで逆にいつ言えばいいのか、分からなくなる。




