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初仕事 2

 魔物の森には静けさが覆われ、他が誰もいないようだった。その静けさに怖じけた、ザリファーが呟いた。

「これ、大丈夫よな? 俺らは、魔物に襲われても…」


「それは誰も分からないぜ、ザリファー」

 と、ゴーシュが反応した。


 間を開けずに、アイガンが反論した。

「それを言うと、ザリファーに悪いだろ…」


「へいへい、分かりました。口で言っただけなら、そこまで悪い事は起こないだろう」

 と、ゴーシュはアイガンを見ながら、言った。



「何か来ていないか?」

 と、勘がいいと思われるザリファーが呟いた。


 全員が一切に歩くのを止めた。何故か、セイスもその内の一人だった。


「いや、気味が悪い事を言うなのよ…」

 と、ゴーシュがザリファーに言った。


 が、その声に力は籠っていなかった。すっかり、魔物の森の怖さが彼らを影響しているようだった。


 背後の草が動く音がして、誰もが一斉に飛び上がった。


 出て来たのは、依頼されていた黒猫だった。少し体は汚れていたが、元気そうだった。


「おいおい、本当に驚かすなよ」

 と、息を整えながら、ゴーシュは言った。


 アイガンも同意するように、頷いていた。



 彼らはまた動こうとしたが、森の奥を見続ける副団長のセイスを見た。何かが見える様子の彼は、じっと動く様子がなかった。


 仕舞いにアイガンとゴーシュがどうしたものか、と二人でこそこそ話し合っていた。

「やっぱり、副団長も変な奴なのか?」

「いやいや、あれは結構本気だと思われるぞ」

「やっぱり、何かが見えているのだろう」

「だが、あそこからは猫が出て来たのだぞ」

「どうだろうな、何が来るかは…来て見ないと分からない」

「そうだな…」

 と、話終わった二人は笑みを浮かべながら、姿勢を元に戻した。


 先程より大きいカサカサ音がして、黒い影が現れた。一眼で誰もが魔物である、と理解した。それも、大型の四足動物のタイプだった。瞬発力が高く、その牙で爪で人に襲って来る。それは、黒猫と何とも似ていた。が、少し模様が違った。同じ猫科と思われたが、黒猫がペット化されているタイプで、目前のは魔物でよりチーターのようだった。


「ーーブラック・ライオキャット」

 と、ザリファーが呟いた。


 少年兵として、魔物に関する知識はちゃんと持っているようだった。




 ブラック・ライオキャットに見惚れているようで、誰もが動こうとしなかった。僕はそれがよくある危機に直面した時に起きる事だと、理解した。


「逃げろっ」

 と、僕は思いっきり叫んだ。


 僕の声を聞いた人々が一斉に、散らばり出した。何とか何をするべきなのかは、体が覚えていた。ただ最初は、そのセンサーが切られているだけのようだった。


 先頭を道案内するように、僕は走っていた。が、後ろを振り向くとセイスが一番後ろにいた。副団長として、他の団員の安全を守ろうとしていた。だが、何も戦えるものがないなかでは、余りにも無謀過ぎた。


「セイスさん。魔法をお願いします」

 と、僕は叫んだ。


 セイスの上級魔法は一発だけでも、ないよりかは役に立つからだった。


 僕を見たセイスは何かを考えるより先に急いで、返事をした。

「分かった」

 と、ブラック・ライオキャットを向かい撃つために立ち止まった。


 手を前に伸ばすと、静かに呟いた。

「全てよ静まれ。何者も、この先に行くことは出来ない。動けない。【氷の世界(アシス・ワルド)】」


 一瞬で世界は真っ白に変わった。

 が、まだ動ける様子のブラック・ライオキャットは最後の攻撃を仕掛けようとした。


「危ないっ」

 と、僕は更に何かを言うより先に体が動いていた。


 詠唱のいらない無詠唱魔法は、ブラック・ライオキャットを無音で倒していた。何が起きたか他は分からない様子だった。が、魔物が倒されたとだけ、人々は理解した。




 僕は足元にいた、黒猫を拾った。


 そして、ブラック・ライオキャットの側に行くと、それも収納魔法に直した。


 第三騎士団に戻るまで、誰も何も言わなかった。いや、言えなかったのが正しいのかもしれないのだった。



 一つ、言える事はある。


 第三騎士団は新たな仲間を迎え入れた。それは黒猫だった。


 元の飼い主は、魔物と関係がないにも関わらず、不気味だからともう返さないでくれ、と言って来たのだった。それは可哀想なので、僕らで飼う事となった。

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