初仕事
誤字報告、ありがとうございました。
各所を変更した後、更新しました。
と、言う事で僕らは出来る事を行う事にした。
と、言ったとしても、出来る事は限られていた。
戦時中でもないのなら、騎士団に求められる事は少ない。大抵が国民からの小さい頼みや、魔物狩りだった。最近は魔物もそれほど、人間側に近付いて来ないので国境付近の部隊だけで対応出来ていた。たまに、溢れ過ぎたダンジョン内の魔物の量を整える仕事もあった。
僕らの最初の仕事は何とも可愛いものだった。それも、ただの猫探し。
他の誰も行わないからと言う事で、最後に第三騎士団に仕事が回って来たのだった。新たな部隊と言う事で、まだ信用されていない、と言う事でもあった。
護衛騎士である、レイリーは団長がいないと言う事もあり、今日は一旦第一騎士団の方で訓練に参加する事になった。特に護衛する人もいないので、訓練に参加する方がレイリーのためでもあった。
「で、レイ。何から始めるのだ?」
と、第三騎士団の建物から出た、ザリファーはそう僕に呟いた。
僕は後ろを振り向いた。大きくて、豪華な建物が第三騎士団の本部だった。その近くにも同じような建物があった。流石、王城の近くだけあった。前方に視線を移すと、そこもまた都会と思える視界が広がっていた。
そして、僕はザリファーを見た。
「何で僕に聞くのだ?」
そう。そこが一番気になる事だった。何故、どのような理由でわざわざ僕に聞くのだろうか。一番聞くべき人は、副団長のセイスのはずだった。今の僕はただの少年兵だから。
「それは、一番話しやすいからだ」
「副団長よりも…?」
と、僕は近くに立っていたセイスを見た。
僕らは建物から出た一歩先で、足を止めていた。他の誰もが何をしたらいいのか、分からなかった。それか、何をしたくないようだった。アイガンやゴーシュはただ辺りを見ているだけで、何故か今は何も言わない。そして、セイスはじっとしていた。彼らは意外と、誰かの指示がないといけないタイプの人のようだった。
もしかして、第三騎士団に送られるのはこう言う人員なのかもしれない。僕がまだ若者でしかないから、彼らは使えない人を厄介払いしたかったのかもしれない。
それに気付くと嫌な気もしたけど、逆に彼らを成長させたいとも思った。
「うん? どうしたのだ、レイ?」
と、セイスがこちらを見た。
彼はこちらを聞いているようで、聞いていないのだった。本当に副団長として大丈夫なのか、心配になって来た。性格的には鋭い観察眼でも見ているようだけど、意外と何も見ていない。このままでは、よくないとよく分かった。でも、実は凄い力を持っているのでは、と信じたくなった。
僕は返事をした。
「いや、何でもないです。ただ、猫をどう探そうかとザリファーに聞かれたので」
「そうだな…地道にやるしかないのではないか」
と、セイスが答えた。
「思ったのですが、副団長は魔法が使えるのですか?」
「一応かな…」
と、セイスが何とも不安そうな声で言った。
「そうですか。なら、安心しました。僕は魔法が使えないので」
「え? レイは使えないのか?」
と、近くで聞いていた様子のザリファーが口を挟んだ。
「うん。使えないよ。だから、剣で戦う事が多いのだ」
僕は剣でも戦うので、これは嘘ではなかった。実際は、無詠唱魔法だけど。
「なるほど…上級魔法は使えるのだが、それ以外が駄目なのだ。そして、一日に一回しか使えない」
と、セイスは何とも残念な力を持っていた。
一回しか使えないと言う事は、何かがあれば命の危機に陥ると言う事だった。
「それは、何とも言えないです…」
「いや、いいよ。もう慣れているから。他に出来る事があれば、いいのだが…」
と、セイスは空を見ながら呟いた。
セイスは上級魔法が使えると言う事は、魔力が沢山あると言う事だった。
僕はいい事を思い付いたのだった。
でも、今言う訳にはいかなかった。全てを今は秘密とする。
猫探しと言う事なので、僕はその対象と思われる猫を探知する魔法を発動させた。脳内に猫の場所を示す赤い色が現れた。そして、薄く影として人や建物を青色で描かれていた。もしそれがなければ、猫との距離しか分からず、見つけにくいからだった。
だが、まだ沢山の候補があったので、書かれていた資料に合わせて更に絞り込んだ。黒猫で、赤色の瞳を持つ猫。それはそれで、珍しい色合いだった。その条件で調べると、一匹だけがこの周辺で見つかった。近いと言う事もあり、ほっとした。
遠ければ、探す上で不審がられる気がしたからだった。どうすれば、たまたま見つけたように出来るか、僕は考えた。
だけど、もうリーダー的に何故かなっているのが、不思議だった。僕はいつの間に先頭に立つ人になってしまったのだろうか。そして、彼らは率いるリーダーがいれば、大丈夫なのだと理解した。
「なら、グループを分けますか?」
と、僕は提案した。
が、すぐに返事は返って来た。
「誰かが迷子になって、更に時間を費やしたくなければ、止めたようがいいと思うぞ。特に、アイガンは相当酷いからなぁ」
と、ゴーシュはアイガンを指して、笑っていた。
「そんな訳ないだろっ」
と、アイガンはゴーシュを見ながら、叫んだ。
ゴーシュはアイガンの言葉を一蹴した。
「いや、これまで何度も迷子になっていただろ」
二人は仲が悪そうに見えていたけど、本当はそこまで悪くないようだった。悪友的な雰囲気があり、面白かった。
「迷子って、いい大人のくせに…」
と、ザリファーが隣で呟いていた。
幸い、ザリファーの呟きは二人には聞かれていないようだった。聞かれていたら、二人から色々言われて、面倒な事になりそうだった。
「分かりました…なら、皆で一緒に行きましょうか。迷子が出ても、また探すのは困りますので」
と、僕は猫がいる方向に歩いて行った。
そちらは魔物の森と言われる、王都に唯一ある森だった。




