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早期卒業

 そのまま学園長に呼ばれると、僕は学園長に一枚の紙を渡されて、おめでとうと言われた。

 手元を見ると、王立魔法学園の卒業証書だった。ちゃんと名前は書かれていた。平民であるため、貴族よりかは名前を書く時間を省く事が出来る。


 僕は下を見ながら、言った。

「早過ぎないですか?」


 ーー卒業。

 それはジークやアレス達と会えない事となる。宮廷魔法師となった今は、そのような贅沢も制限されるのかもしれないが。本当なら、寂しい気がした。


 何も知らない様子の学園長はにこにこしていた。以前なら面に向かって言われていたが、宮廷で働く事になっている僕に言いにくいだろう。下手をすれば、不敬罪となる可能性がある。ないとしても、何かの罪を起こしているかもしれない。


「いや、早くないよ。この王立魔法学園から、宮廷魔法師が出たとは大出世だよ。これからも頑張ってくれよ。卒業したので、今日の授業は出なくてもいいよ」

 と、学園長は気持ち悪いような顔で、全ての語尾に「よ」を付けた。


 その目はただ僕を駒としか見ていないようだった。僕の素性がどうであれ、能力がどうであったとしても、宮廷魔法師が出たと言う事実は変わらない。そして、それを可能とした王立魔法学園の学園長となれば、さぞ出世は一緒に出来るだろう。上に行けないとしても、名声を得る事は確定である。なんとも嫌な事だな、と僕は心の中で思った。

 こう言う落とした宝を拾い上げる、魔物とも言える存在がいるから、目立つのは嫌になる。もう、後戻りは不可能だけど。


 僕はそんな気持ちを隠しながら、お辞儀をした。更なる敵を生んでも、困るだけだから。

「これまで、ありがとうございました」


「これからもしっかりしてくれ、宮廷魔法師レインフォード・ウィズアードよ」

 と、学園長は笑みを浮かべながら、僕の背中を叩いた。


 出来ればここで、思いっきり学園長を吹き飛ばしたかった。いつでも出来るように、魔法は発動寸前までしていた。が、それをしても何も変わらないので我慢をした。


 僕は学園長をもう一度見てから、学園長室を出て行った。外には生徒が誰もいなかった。






 寮の自室で事を言うと、アレスは目を輝かせていた。心優しいジークは一番大きな話を取って置いてくれていた。だが、僕が処罰を受けなくて済んだ事は、アレスを安心させるために話してくれていた。


「凄いよ、レイ。これで将来は安定だね。何かあって宮廷魔法師を辞めたいと思ったら、すぐにS級冒険者としてでも活動出来る。それも嫌だったら、ジークが何か仕事を見つけてくれるのじゃない?」

 と、アレスは僕の仕事まで心配してくれた。


 ジークは少し笑みを浮かべながら、答えた。

「そうだな。いつでもお前が出来る仕事は山ほどある。逆に任せたくなるものも沢山あるよ。でも、レイの事だからきっと自由に暮らすのだな…これまであげたものは大切に取って置いてな」


「それは当然。と、言うかもう僕が去りそうな雰囲気を出さないでよ。少しぐらい普段通りの雰囲気を味わいたい。だって、たった一日の出来事だよ。普通なら理解するだけでも、数日掛かる」


 僕はジークから貰ったものを捨てたりするはずがなかった。始まりはどうであれ、彼も僕の友達の一人だった。僕にはこれまで友達と言える存在がいなかった。だから、嬉しかった。それに同時に二人も作れたから。

 そんな二人ともすぐに別れるとは、寂しくなる。


「僕はきっと冒険者のランクをジークと上げて、レイの側に立てるようにするからなっ」

 と、アレスが僕に言って来た。


 涙目であったが、彼の決意はよく分かった。


 僕はアレスに応えるように、お菓子の袋を取り出した。そして、二人に渡した。


 彼らに僕は笑い掛けた。

「そんな泣きそうな顔をしないでくれ…今日は祝いだー。もう現実や未来の事は吹き飛ばして、今は楽しむ」




「そうだったな、それが普段通りのレイだ。いや、レインフォード・ウィズアードか?」

 と、ジークが悪戯顔を向けて来た。


 僕は不満を全開させた。先程言った事を聞き入れてもらえなかったから。

「本当にジークは、一番気にしている事を言って来る…」


「あーごめんごめん」

 と、ジークが両手を前にして、謝って来た。


 僕はジークに笑った。

「ーーなーんて。それで気にする訳ないよ。あの時のジークに対して、仕返しをしただけだよ」


「レイらしいよ、本当に」

 と、アレスが笑いに参加した。


 そして、ジークもまた同じように笑った。眼鏡の向こうの目は、いつも通りの優しさを持っていた。


 僕らは食べたいだけお菓子を食べて、話したいだけ話をした。きっとこれまでで一番だった。離れてしまうと思いたくないから。その悲しさを全力で隠すように。





 僕はその後、イーシアさんとマークスさんにも会いに行った。本当の事は言わず、帰郷するため少し学園を開ける、と。まだ正式に公表された訳ではなかったので。



 そして、夜中に故郷で待つ母と弟。自分の家族に手紙を書いた。何か会った時に向こうが困らないように。給料が出る事で暮らしがよくなると書いた。家族には幸せな暮らしを送って欲しいから。


 郵便も使えたが、何かあったら困るので魔法で転送させた。



 瞬く間に、学園最後の日は過ぎたのだった。

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