王の言葉
近衛兵に囲まれていた僕は、最後まで身柄を押さえれる事なく、待っていた。
「レインフォード、入れ」
と、声が聞こえて、僕は扉を開けた。
そこには国王と、側にいた女性。そして、ジークが立っていた。王の近い所にいると言う事は、やっぱり王族関係者だった。
僕は王の前で跪いた。決して何かを言われるまで、顔を上げてはならない。
「ーーレインフォード、顔を上げよ。お前がした事は理解しているな?」
と、王が冷たい眼差しを向けていた。
「はっ。いかなる処罰でも甘んじてお受けします」
王は頷いた。
「なら、レインフォードに言い渡す。宮廷魔法師として、今後も励むがよい」
宮廷魔法師と言う事は、魔法使いの中で一番出世した事になる。伝説級としている事は知っていたが、何故それを僕に言うのかが分からなかった。
「え? ……あの、それは処罰ですか?」
と、僕は恐る恐る王を見た。
王はまた僕を冷ややかな目で見下ろした。
「そうだ。戦場とも言える場所で魔物と戦うのだ。これのどこが、いい事だと思うのだ」
「し、失礼しました」
と、僕は下を見た。
「うむ、よろしい。聞いた話によればお前は平民のようだな、レインフォード。なら、ウィズアードの名を授けよう。これから、レインフォード・ウィズアードと名乗り、宮廷魔法師として新設する魔法師部隊、第三騎士団を率いてくれ。ーーうむ。これまた、大義であった」
王は最後の最後に大義と言った。と、言う事は最初から罰するためで呼んだ訳ではないのだった。
ウィズアードは魔法使いに授けられる一番名誉ある名と言われているが、まだその名を得た人は誰もいなかった。それに、新たな騎士団を率いるなど幾ら仕事を増やすのだ、と言いたくなった。
「あーやってしまいましたね、国王様」
と、隣に立っていたジークが呟いた。
王は不満そうな顔で、ジークに返した。
「仕方ないだろう、ジーク。わしは演技が下手なのだ」
と、親子とも言えるような間だった。
「二人とも、困っている人がいるのに、放って置くのはよくないんじゃない?」
と、女性が腰に手を当てた。
気付いたように、ジークがこちらを見た。
「リゼ姉さん…そうだったね。おめでとう、レイ。これまでない、歴史上最速の大出世だ。国王を守り切ったその功績は、凄く大きい。王様は最初から褒めればいいのに、下手な芝居をしていたのだ。ただ、レイが欲しかっただけなのだよ。S級冒険者なんて、身近な普通はいないからな」
王は優しい目を向けて来た。
「レインフォード、わしを助けてくれてありがとうな。だけど、犯人を実質一度執行したので、もう重く罰する事は出来なくなった。あれを見た時は、本当に驚いたぞ」
「す、済みません。ついついやってしまいました。ただ、何も知らずに死ぬと言うのは嫌だったのです。両親の思いも罪に付いても知らないまま、死んでも同じ悲劇が繰り返されるだけだと思いました」
「まぁ、いいだろう。だが、あれはお前だからこそ出来た事なのだ。他は誰も出来ない。でだ、レインフォード・ウィズアードよ。ーーお前は何のためにその力を使う?」
と、王はじっと僕を見て来た。
僕は即答した。
「家族のためです」
「それで友や国を敵に回したとしても、お前は一人で孤独に戦い続けるのか?」
「はい。申し訳ないですが…」
王は白い髭を触った。
「なら、わしはそうならないように気を付けないと、な。これからも頑張ってくれ。未来ある子供は、広い世界を知るべきだ」
「本当にありがとうございます」
と、僕は頭を下げた。
今、思えばこの時、僕は少々やんちゃだった。
最強と言える力で何もかも出来ると思っていた。
それは仕方のない事なのかもしれない。
何故なら、本当に何もかも可能にするから。
だけど、一方でそんな力にも、出来ない事はある。
それを僕はよく理解するようになる。




