ジークの受難
「ジーク・アーネスト、入れ」
外で待機していたジークは近衛兵に呼ばれて、装飾された大きな扉を開いた。
重い足取りの中、部屋に入って行く。
レイが仕出かした事を考えるだけでも、更に気が重かった。もうジーク一人では庇えきれない事を、レイはしていた。だから、後はその罪で死なない事を祈るぐらいである。それと正当な裁判がされるよう、家に圧力を掛けてもらうぐらいだった。
でも、友として出来る事はしたかった。彼がしてくれた、事に対する恩返しのためにも。
ジークは目を合わせる事なく、跪いた。
王が口を開いた。
「ジークよ、そんな堅苦しくしないでくれ。ーーわしがそう言うのを嫌いだと知っていて、しているだろ…本当に困った子だなぁ」
と、白い髭を触りながら、笑い出した。
仕方なくジークは立ち上がったが、顔を背けていた。その顔は嫌だっているとよく分かった。それが、彼なりの抵抗であった。唯一友のために出来る事だった。たとえ国王と身内だとしても、国王は絶対的な存在であり、無視する事だけでも持っての他であった。
ジークは一人で葛藤していた。正しく行動すべきだと言う自分と、友を何よりも大切にするべきだと言う、二つの自分に。ここまで追い詰められた事は、なかった。
「…ジークはいつまでも幼い」
と、女性の声がした。
ジークが視線を動かすと、そこにはリーゼ・ワークストンが立っていた。手を腰に当てて、明らかにジークの事を知っているようだった。
「ーーリゼ姉さん」
リーゼはジークの仲良い友達の一人だった。お姉さん的な存在で常に、人々を纏めていた。最近は王都にいると聞いていたが、まさか王の隣に立っていた人物とはしなかった。昔と比べると雰囲気も変わり、より大人らしさが出ていた。知る人なら、昔の雰囲気も多少残っていると言えるようだった。
「そう、ジークが好きだった…リゼ姉さんだよ。昔は私に婚約を申し込んだりもしていたね。今考えると、笑えるけど」
ジークは恥ずかしそうに顔を隠した。
「それは昔の話だっ。今更、言うな」
「ほほほ。そんな事もあったな、まだまだ全員が若かった頃だ。おっと、ジークはまだ若いぞ」
と、王は声を大にして、笑った。
ジークは下を向いてから、小さく聞いた。
「それで、そのっ…レイはどうなる? 彼が罪に問われると言うのなら、二人とも心から嫌う。だけど、僕はそれをしたくない。だって、二人とも本当はいい人だから。昔見たいに…」
と、ジーク・アーネストとしての仮面が剥がれ落ちようとしていた。
王は鋭い目線をジークに向けた。
「ジークよ、それはもう昔の事だ。今はもう違う。大人の話に、子供が頭を突っ込むなっ」
その言葉にジークは深い絶望を覚えた。彼らを信じた自分が馬鹿だったようだと思った。
だが、王はいきなり優しい目をした。
「ほう、ジークもまだまだだな。これで騙されるとは…」
「私は言いましたよ。そんな悪戯をしても、喜ばれない、と」
と、リーゼが王に付け加えた。
ジークはすぐにすっかり騙されていた事に気が付いた。
「あっ…二人とも、騙したな。昔からそうだ。いつも、大切でいい所は二人で何かを仕出かす。一回ぐらい、される側の方の身にもなってくれ」
と、ジークは心から嘆いた。
きっと彼らの心に届く事はない。
「大丈夫だ、ジーク。まぁ。見ていたらいい。さほど悲しい結末にはならない。わしも、未来ある子供をここで終わらせる事はしたくないからな」
と、王は呟いた。




