最後で最初の戦い
僕がどうしようかと迷っていると、背後から王の声がした。
「その者よ、我が許す。どうか、頑張ってくれ。武運を祈る。お前達も彼を見ていてくれ」
と、そっと僕の背中を押した。
王の言葉で近衛兵は一歩、後ろに下がった。
隣に立っていたジークも意味がありそうな、目をして来た。仕方ないそこまで言われたのなら、やるしかない。
深呼吸をした、僕はその少年に向かって叫んだ。
「このレイ、レインフォードがお前の相手をする。お前が望んでいる、劣等生の新入生だ。偉大な優等生よ」
と、僕は相手に笑みを浮かべた。
この時に僕は学園で初めて、本名を述べた。
挑発していると受け取った、少年はムカついた顔をした。そして、必死に僕を睨み付けた。が、距離が離れている事もあり、遠くで点である誰かが踊っているようにも見えた。
「くそっ。いつまでも生意気な態度を取る奴だ。そう言う奴がいるから、ジーク様が汚染するのだ。この俺様がお前をこの手で八つ裂きにしてやる。来い、劣等生っ」
僕が一段ずつ下りるにつれて、人々のざわめきが大きくなった。彼らからすると、死に急ごうとしている人にしか見えないからだろう。
近くから少年の両親と思われる声がした。
「貴方、どうしましょう…このままではもう終わりです。私はこれをあのような子供に育てた、覚えはありません」
と、隣の男性に体を傾けた。
「仕方がないのだ。全ての非は育てた親である、我々にある。彼を止めれなかった責任は取る必要がある。でも、君の想いもよく分かる。見ていると、なんとも悲しい…よ」
少年の両親は少年と反して、なんとも優しい心を持った人々だった。彼はこんな事も知らずに罪を犯して、死ぬ。そんな事は許せない、と僕は思った。親がいるだけでも、感謝をしないといけない。
この時まで、育ててくれたのだから。その思いを知らなければ、自分が何を仕出かしたかを理解しないと、その死に意味はない。なら、逆に死ぬ意味さえない。
僕は更に無駄な時間を掛けるのも嫌だった。だから、何かを考えるより先に腰から剣を向いた。闇さえも食らい付きそうな、黒剣が現れる。そこに魔法を発動されると、自分自身に身体強化を発動した。
一歩歩くごとに、大きく飛び跳ねているように見える。階段を高速で駆け降りると、僕は少年の首に剣を向けた。
「お前には死ぬ覚悟があるか? お前は人を殺めようとした。なら、自分が死んでも気にしないよな」
「…いっ…嫌だ。死にたくない」
と、死の恐怖を感じた少年が泣き出した。
だが、最初からそれで許すつもりはなかった。僕は相手の目を見ながら、剣を一度下ろした。そして、すぐにまた振った。
少年の首と血が派手に飛び跳ねた。が、次の瞬間には何も残っていなかった。僕が剣に発動させた魔法で、少年は切られてもすぐに治った。傷はどこにも治っていない。だけど、一度本当の死をその身で経験した事に、変わりはない。それで僕は、彼を一度殺めた事も変わりない。
背後で誰かの母親の叫び声が効果音のように、響いた。
僕らが動かない事を見て、近衛兵が近付いて来た。まず最初に不敬罪とも言える事も行った少年を、拘束した。そして、何をしたのか分からない状態の僕に、剣を向けていた。
今度もまた、王の声がした。
「ジーク・アーネストとレインフォードの両名は、我に付いて来い。これは絶対だ」
と、言って奥に行った。
僕は拘束される事なく、近衛兵に案内された。




