リーゼの観察
王の真横に立っていた、リーゼ・ワークストンはアレスの試合に見入っていた。その動き一つ一つを見失わないように。
レイことレインフォードの友達の一人である、アレス・フェッツ。
何か面白い事をしてくれると思っていたら、案の定、剣を試合に持って来ていた。これまで魔法と応用する事例などなかったので、なんとも斬新であると言えた。
全てはレインフォードがダンジョンで彼に教えた技術と思われる。
普通の学生なら、そこまでしようとする人はいない。大抵はこの試合をただの遊びだと捉える人や、国王の自分の力を見せ付けるのだと言う少しイカれた人の方が多かった。
だが、アレス・フェッツはそのどちらでもなかった。ただ相手に対等に接し、同じように武で語ろうとしている。正確に言うと、武ではなく、魔法かもしれないが。
試合開始前に相手にお辞儀をする。これだけでも、彼の覚悟はよく感じ取れた。ここまでしてくれる人が他にもいれば、第二騎士団は仕事が何倍もましになる。クリスや彼のようになんでも出来る人は少ない。その損失を補うために、出来る人が犠牲となる事は度々あった。
それが正しいとは思えない。そして、そう言うものとして、放って置くのも好きではない、と言うのがリーゼの考え方だった。
考えるのを止めて、前方見ると激戦と言える戦いが始まっていた。
なんとアレス・フェッツは向かって来た、相手の魔法に自分の魔法を放つ事なく、横に動く事で避けた。そのスピードは、しっかり戦いを理解していると思わせるものだった。
ダンジョンではここまで変わるのだと、リーゼは改めて知った。
いきなり相手が後退った。それはいつまでも自分を見て来る、アレス・フェッツに対するようだった。完全に彼は相手を魔物か何かと思い、狩る存在と認識しているようだった。
そこまで出来るのなら、諜報部でもが欲しくなりそうな存在である。
彼は一回の詠唱で何個もの槍を生み出した。
ーー同時発動。
それもここまでの技術能力は珍しいと言えた。精々人が出来るのは、二個か三個で止まる。だから、二桁まで行く人は貴重な存在と言える。
だが、アレス・フェッツはそれを放つ事なく、ここで剣で切り込んだ。
ただの剣のように見えるが、相手の首筋から血が流れている所から、それは違うとリーゼは思い知らされた。
全てが不思議な少年だった。
これまで見た事のない、技術を何度も見せる。
なら、レインフォードは果たして、何を見せるのだろう。
リーゼはじっとレイに視線を移した。
だが、当の本人が気付いている様子はなかった。




