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狩る側と狩られる側

 武闘祭も近いと言う事で、今日の魔法の授業は普段と違う事をした。最近は対人戦を沢山していた。当然、僕は強制的に見学させられていたが。でも、今回は少し違うようだった。


 競技場の中央に立ったコセール先生が、大きな声で言った。

「今日は魔法での鬼ごっこをする。鬼である人から、タッチされたらその人は負けとなる。逆に鬼に魔法を放てば、お前達の勝利だ。武闘祭も近い事だから、近接戦闘の仕方も学んで方がいいだろう」


 すると、一人が手を上げた。

「コセール先生、鬼は誰ですか?」


 コセール先生が、僕の方を指差した。それにより、クラスメイトがざわめいた。


 そんな気持ちを隠すように、少年が呟いた。

「なんだ、劣等生がわざわざしてくれるのか…ふん。楽勝じゃないか」


 いや、それはどうだろうな、と僕は心の中で呟いた。そこまで見下していたら、痛い目に合うのは確かである。


「だろ? だから、お前達は精々頑張る事だ」

 と、コセール先生も同じ考えだった。


 僕とアレスはその無茶苦茶な考え方に、密かに顔を合わせていた。ダンジョンでの戦いを見ていた、アレスにはもう十分よく分かるようだった。


 コセール先生は僕に確認を取る事なく、勝手にゲームを進めた。先生が指を鳴らすと、辺りがジャングルのようになった。実際は先程の競技場と変わらないが、最初から備え付けられていた魔法による効果で、本物のように映し出されていた。元の競技場だと面白くない、と言う思いがあるのかもしれない。





 案の定、辺りからクラスメイトの悲鳴が聞こえて来た。テンパった事で、同士討ちを繰り返しているようだった。でも、僕が鬼であったので何も変わる事はなかった。ただ、仲間同士で恐怖を味わい続けていた。


 背後から足音が聞こえて来た。僕は一番勘のいい人がやって来た、と魔法で自分の姿をすぐに隠した。この技を卑怯だと言う人もいるかもしれないが、彼らとしている事は同じである。


「あれ? いると思ったのに、いないな…」

 と、そこにはアレスが立っていた。


 だが、消えた僕を探せる様子はなかった。それだけ、ほっとした。まだアレスと直接戦った事はないが、結構技が完成しつつあった。


「レイっ。そこにいるのだろ?」


 わざとか分からないが、アレスが僕を呼び出した。きっと誰よりも自分に付いて詳しいと、僕は気付いた。流石、友達である。


 僕は後退った時に音を立てた事に気付いた。アレスが来たのに気付いたように、ここのジャングルの植物は、触ればカサカサと音を立てる。そこだけが妙にリアルだった。


「ーーレイ。そこにいるよね」

 と、アレスが僕と目を合わせた。


 決して見えないはずなのに、アレスは僕を見ていた。いつの間にか彼は、なんとも鋭い勘を得ていた。

 僕は必死に口を押さえた。そして、自分に無音の魔法を発動させた。


 アレスは僕が完全に消えた事に、気付いたようだった。

「あれ…消えた」


 僕はそこからなんとか離脱した。このままアレスの側にいると、精神的にやられそうな気がした。自分が狩る側なのに、久しぶりに狩られそうな気がした。




 ジャングルを適当に歩き回っていると、近くに獲物が見えた。体を縮めながら、頭を左右に動かして警戒していた。すぐに魔法を放つ体勢を取っていなかった。このままでは実戦で、一発で死ぬ運命だろう、と考えた。


 ジークの影響で少し悪戯心が芽生えた僕は、そっと近付いてから背中を触った。


「何?」

 と、なんの気配もない所から触られて、その少年は振り向いた。


 だが、当然そこには誰もいなかった。見る見る内に少年の顔色が悪くなった。


「お…っおばけが出た…」


 彼は叫びながら、どこかに走って行った。



「レイ、見つけた。ーー【水弾(アク・ブレド)】」

 と、陰から現れたアレスが、僕に魔法を放った。


 瞬時に発動させた、収納魔法の中に水弾は吸収された。


「さあ、どうだろうな。アレス」


 僕は彼に見えないとしても、口元を歪めた。本当に面白い事をしてくれる友達だ。わざわざ他のクラスメイトを尾行するなど。


 自分の事を見てくるアレスの背後に、僕は収納魔法から取り出した、水弾を放った。僕と目を合わせていた彼は、すぐに振り向いて水弾を掴み取った。すると、魔法は形を失い、アレスの掌できらきらと輝いていた。


「なんとも危ない事をする」

 と、僕は彼に呟いた。


 元々はアレスが放った、アレスの魔力で満たされた魔法なので自力で壊す事も可能ではある。だけど、それを実現するとは、勇気がある。下手をすれば、掌で爆発が起きるかもしれない。だから、僕は別の魔法で消し去る事を選ぶ。


「なんか、出来ると思ったのだよ。それにもう判断する時間もなかったからね」


「でも、おすすめは出来ないよ。魔力の込め過ぎで爆発が起きたら、どうする」


「どうしようかな? 今はその事を話す暇はないよ」

 と、アレスが連続的に三個の魔法を放った。


 少し取りにくいように、三個とも別の方向からだった。色々、ダンジョンで学んだようだった。だけど、こう言う時はする事は一つである。僕はすぐに自分の魔力を辺りの空間に纏わせた。すると、僕の濃度の高い魔力に魔法が消えた。ジャングルを映し出していた、魔法も削られていた。その空間だけ、以前の競技場の姿だった。


「なんとも濃い魔力。ここまで放てると言う事は、レイはまだ手加減をしているのだね」

 と、アレスが少し不満そうに言っていた。


「だって、僕のせいで誰かが死ぬのは嫌なのだよ」


 本当にそうだった。僕は手元を狂わせば、誰でも一瞬で消せるかもしれないのだった。ただ、今はそれをしないだけで。


 競技場を映し出す魔法が解け始める頃に、僕も自分の魔法を終わらせた。アレスの横に、僕は立った。


「【魔法の槍(ア・スピ)】」

 と、最後まで強気のアレスは、僕に魔法を放った。


 だが、僕に届いた瞬間に描き消えてしまった。


 僕の周りには自分で隠せない魔力が、薄くだけ体を覆っていた。それが大抵の魔法攻撃を無効としてしまうのだった。決して自分でそうしたい訳ではないにも、関わらず。物理的な攻撃もそうだった。だから、攻撃されて何もしていなくても、怪我も死ぬ事はない。これまで怪我をして来た事がないのも、それが原因だった。


 アレスは驚いていた。目が飛び出しそうだった。流石にこれは想像していなかったようである。

「ん…また、レイは不思議だね。一切魔法を使った様子はないのに。僕の魔法を無効にしている」


「少し魔力が不思議なのだよ」

 と、だけしか僕は答えれなかった。


 自分でもよく分からないのだから、仕方がない。





 競技場を覆う魔法が完全に解かれると、そこには驚いた様子のコセール先生がいた。これまでこの魔法が壊れた事はないのだろう。


 そして、クラスメイト達は座り込んで、息を落ち着かせていた。僕と出会う事がないとしても、仲間との魔法の撃ち合いで疲れたようだった。


 一人だけ、少年が端で体を震わせていた。それが誰か、僕は考えなくても分かった。やってしまったな、と今更よく実感した。


 隣のアレスは僕に勝てなかった事で、少し不満そうな顔をしていた。きっと次回に更に攻撃を浴びせられるのだろう、と僕は覚悟した。

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