表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/133

特別警備隊

書きたい所まで書いていると、意外と時間が経っていました。普段より更新時間が遅くなり、申し訳ないです。

 アレスとジークと学園に帰ろうと歩いている時に、僕は後ろから誰かが尾行している事に気が付いた。


 明らかに敵意を持っていて、一切平和そうではない。そこから、また面倒事に巻き込まれたな、と心の中で呟いた。先程、絡んで来た冒険者と関係していても、可笑しくない。そう言う者達は、色んな所に情報網を持っている事があるから。


 一度背後を見てから、僕は彼らに言った。

「少し用事が出来たから、先に行ってくれる?」


 すぐにジークが僕の目を直視した。事情を察した彼は仕方なさそうに、小さく溜め息を付いた。追跡者に何かを知られると面倒でもあるから、彼なりの気遣いだった。


「分かった、レイ。本当に仕方ないな…私達は先に帰る事にする。ほら、アレスも行くぞ。こんな足を引っ張る奴は置いて行くぞ」

 と、何とも口の悪い事をいつまでも言いそうだった。


 本当にそれがジークの演技であるのか、分からなくなるほど。



 ジークはアレスの方を見ると、行くぞ、と手で表した。


 僕の側を通る時に、耳元でジークは囁いた。

「また、済まない。後で出来る事ならする」


 その言葉だけでも、心からの謝罪であるとよく分かった。だから、僕は去る事の彼の目は見ない事にした。


「うん…」


 同じように何かを理解した、アレスもジークの後を追った。軽く手をする所が、なんとも彼らしかった。

 僕は微笑んで、彼らが去るのを眺めていた。



 大人の世界。


 特に貴族などの闇深い世界では、一切容赦しない人々がいる。それは子供だろうと気にせず、時に自分の子供も見捨てる人もいる。人道的など知らない人々さえ、いるような世界である。僕が一番嫌う、世界だった。法律を掻い潜り、何もかも出来るなど破滅しか呼ばない。


 彼らが戦争よりも人を殺しているのだった。ただ自分の地位を強力なものとするためなら、他は一切気にしない。どこにでも諜報員や暗殺者を放り込む。だから、僕はこれまで表には出たくなかった。表に出ると言う事は、更に面倒事に巻き込まれると言う事しかない。


 名も知らない人から妬まれ、逆恨みされる。自分が相手より出来るからと言って、訳の分からない暴言を言われるかもしれない。それかその力が脅威になるからと言って、更なる武力で封じ込める事もあり得る。ただ飼い殺される事もあるかもしれない。


 僕は想像し過ぎかもしれない。

 でも、全ては本当にあり得る話だった。

 魔物を瞬殺出来る力。それは、別の分野ではどれほどの力を持つのか。一度僕はそれを想像して、嫌な事を考えた事がある。

 今思えば、あの時自分が強力な力を得たいと願った、自分を恨みたくなりそうだった。


 自分が使う、無詠唱魔法。それはいつ発動するかの前触れは一切ない。つまり人によれば、知らない間に背後から殺されているのと同じ事である。僕がゴブリンを一撃で倒すように、誰も同じように倒せる力を持っている。決して行おうとしなくても、それが可能である事は変わりない。


 でも、世の中を変えるためにも、この思いをも絶つ必要がある。変化には犠牲を伴う。一番は自分の心である、といつの間にか僕は自分で気付いていた。ただ、それを述べる事はなかった。





 僕は考える事を止めて、振り向いた、

 案の定、そこには数人の集団がいた。軍服のような制服を身に纏い、腰からはやけに派手な剣を吊るしている。動きからして、無駄はない。が、プライドと言うプライドだけは人一倍あるようだった。


 所謂、貴族が持つ軍隊とも言える存在。一番厄介で出会いたくもなかった集団、特別警備隊だった。


 貴族ごとの武装集団の正式名称がその名前だった。異名とも言える名前は、一つ一つにあった。貴族が一番自由に動かせる軍隊とも言われ、貴族の手足のようにも動く。だから、邪魔者を消すのも彼らだった。朝には領民から褒め称えられ、夜には標的にその力を恐れられる。一日中、自分達の素晴らしさを味わい続けられるのだった。


 この特別警備隊が衝突した時のためにも、王家直属の精鋭部隊がいた。騎士団と言われる、一番名誉ある役職だった。王都や国境などの治安維持に携わり、特別警備隊の監視も行っている。もし特別警備隊が貴族と共に反逆を起こしたら、駆り出されるのだった。後は非人道過ぎる処罰や処刑への取り締まりもしていた。何も出来ると言って、片っ端から人を殺戮させたイカれた貴族も、歴史上にはいた。



「お前が逃げなかった事だけは褒めてやるよ。でも、お友達から見捨てられるとは可哀想な奴だな。俺らがお前を散々可愛がってやるぞ」


「それも、地の果てまでな。お前の心臓が止まるその時まで」


「あー本当に興奮するぞ。こんな可愛い子を殺めるなんて勿体ないけど、それが命令だからするしかないのかっ」


 と、特別警備隊の隊員は、結構イカれた事を口々に言い出した。


 リーダーと思われる先頭に立つ、人物が仲間に叫んだ。

「奴の首を貰うのは、俺だからな。他が邪魔したら、給料抜きだ」


 すると、リーダーの首近くから誰かが顔を出した。

「リーダーはずるいですよね。そんな事が出来るなんて。一番の楽しい所をいつも取ります」


「煩いぞ。今、ここで一緒に斬り伏せてもいいのだぞ」

 と、またリーダーは叫んでいた。


 特別警備隊は纏まっている様子はなく、リーダーの命令を聞いている様子の人も少なかった。殺戮を繰り返す事から、精神的にイカれた奴らなのだな、と僕は結論付けた。あからさまに殺意を向けられた方が対応したい、と感じた。ここまで変な奴らなら、最初の攻撃もしにくい。



「ほら、少年が固まっているぞ。えっと、確か名前がレインフォールド君。自称S級冒険者だって。ははは。俺も子供の頃はそう言う夢を持っていたぞ。でもな、レインフォード君。そう言う夢はいずれ呆気なく、崩れ落ちるものなのだ」

 と、一人が難しい事を語り出した。


「お前が煩いぞ。お前が口を開いたから、狩りが楽しくないだろ! こんな小動物をやっても、一切楽しくない。やっぱり、ぱっと見た時から殺意が漏れている人がタイプだな。降りる。こんなのは止めだ」

 僕を眺めていた一人がいきなり、去って行った。


 本当に彼らが何をしたいのか、分からない。嘘を言っている様子はなく、ただ思っている事を口にしている。小学生を相手にしているようだった。それと僕から殺意が出ないのは、そう言う戦い方はしていないからだった。


 

 僕は彼らに聞いた。

「あの、どなた様でしょうか?」


「「我らは、白翼の戦士」」


 彼らは一斉に訳の分からないポーズを取った。どこかのアイドルかよ、と呟きたくなった。


「は? 特別警備隊と言う事ですか?」


「難しい言葉を知っているな、レインフォード君。さすがは王立魔法学園に通うだけある」

 学校を当てたのは、それぐらいしか学校がないからだろう。


「いや、ただ強制されているだけです」


「そうかい? で、俺らは君を消しに来たのだけど、何か言い残したい事はあるかい?」

 と、その人が核心を突いて来た。


 やっと、普通の会話が出来そうだった。でも、周りの雰囲気は一気に変わったと肌で感じた。流石、特別警備隊の名を名乗れるほどである。これは変人の集まりだったが、実力はあるのだろう。


 

 彼らの目を見ながら、答えた。

「冒険者ギルドと戦争をしたくないのなら、僕はおすすめしません。そこの領地は冒険者ギルドに捨てられ、領民は魔物に殺される事になるでしょう。僕はそれはよくないと考えますよ」


 リーダーが一歩近付いた。

「なるほど、君にはそれだけの力があると言う事だな。そう、冒険者ギルドは思っている。なら、証明してくれ」


 僕はギルドカードを見せる事も出来たが、それでは正しいものかどうかの証明は難しい。こう言う時には、剣で語れば全てが丸く収まる。


「…分かりました」

 と、僕は溜め息を付いた。



 

 始まりの合図など待たずに、僕は身体強化の魔法を発動させた。一瞬でリーダーの背後に周り、途中で収納魔法から取り出した、剣を首に突き付けた。


 周りの隊員が剣を持ったのを見て、僕は叫んだ。

「剣を下ろさせろ。お前が死にたくないのなら」

 と、首筋に剣を滑られた。


 一筋の血が小さく垂れた。


 自分でもなんとも悪趣味だと思う。こんな事をする日が来るとは、思わなかった。

「下ろせ。我々は負けたのだ」


 僕は下ろされたのを見ると、後ろに後ずさった。そして、剣を早々と直した。もう戦わない意思表示のためにも。


 丁度、リーダーが隊員の助けで立ち上がっていた。彼は僕を見ると、口を開いた。

「君は強い訳だ。だから、S級冒険者であるのも疑わない。それに何やら不思議な力を使っていたようだ。だから、俺らはもう君とは戦わない。こちらが勘違いをしていたようでもあるからな。君のような強者と出会えた事は嬉しいよ」

 と、他の隊員を引き連れて、去って行った。




 僕はやっと面倒事が終わったと、ほっとした。また同じような事が起きるかもしれないけど、今は安心して寮まで帰れる。


 戦い終わったが、未だ残る戦意を消費するため、僕は掌に氷の槍を作った。一番それが綺麗な形で、透き通るのが好きだったから。


 それを手に取ると、近くの通路に突き刺した。ガラスのように粉々に砕け、呆気なく散ってしまった。


 寮までの足取りは少し軽いものになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ