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劣等生の仲間入り

 次の日。学生寮から学園に行くと、担任に呼ばれた。


 そして、面倒そうにこちらを見ると、一言告げた。

「初級魔法しか使えない劣等生は、来る必要がない」

 と、僕を切り捨てた。


 この一言には何も言い返せなかった。初級詠唱魔法しか使えない、通称劣等生である。

 が、初日からこのような対応とは、想像の遥か上を行った。僕は笑いそうになる自分を抑えて、何とかその場を去った。






 校内を歩いていると授業時間であるにも関わらず、外で遊んでいる生徒達がいた。見ているだけで自分と同じ、劣等生なのだと知った。

 入学は強制的なので、卒業までは置いておく必要がある。が、先生方は教える気がないのだろう。


 教えてもどうせ魔法が使えないから。教えるだけでも時間の無駄でしかなく、余計な労力を使う。


 だから、彼らは遊び呆けている。学内の嫌な雰囲気から逃れるため。そして、その行動が更に劣等生と他の生徒を分ける。魔法が使える優等生からしたら、魔法がろくに使えないのに遊び呆けている、劣等生。それは見ていて何とも、むかつくのだろう。学園全体がその環境を作り上げたとは、知らずに。




 劣等生。


 僕はその仲間入りをしたのだと、改めて知らされた。

 実は初級魔法だけで無敵など、詠唱魔法でのチートは持っていない。だから、仕方のない事だ。僕はこの世界では常に見下される立場にいる。ただ幸運なのが、僕はそれを乗り越える別の力を持っている、と言う事。


 いつか最強の力で見返すために、僕はその力を使わずにこの学園の常識を変えよう。劣等と呼ばれる生徒達が、実は劣等ではないと証明するために。彼らも別の戦い方で戦えば、勝てるのだと言う事を。




 劣等。


 それは僕にとって何とも素敵な言葉と言える。

 凄く皮肉ではあるが。劣等生がいると言う事は、優等生からしたら自分より、出来の悪い生徒がいると同じ意味。常に自分が優れている事が確認出来て、弄れる人がいる。劣等生からは、人の中側が手に取るほど感じ取る事が出来る。つまり、その人物と仲良くするより先に、その人の腹黒い本心が良く見れる。


 だから、僕は自分の見られ方に恥じたりしない。だから、堂々と劣等生になる事が出来る。きっと頭の可笑しい奴だと言われるのは、早いと思うが。この計画にはアレスを困らせることは、目に見えて分かる。だから、先に謝っておく。

 ──ごめんな、アレス。何とも性格の悪い、隣人で。君が僕の本意に気付くのは、まだまだ先かも知れないけど。






 学園の敷地内を歩いていると、集っている劣等生(生徒)達が近寄って来た。

 彼らはぱっと見昔で言う、チャラいような分類に入る者達だった。だが、本当はそれ以外にする事がなくて、そこにいるようにも見えた。悲しい彼らの終点が描かれていた。


「君も教室から閉め出されたようだな。良ければ俺達と遊ぶか?」

 と、リーダーらしい少年が声を掛けて来た。


 遥々学園まで来て、困り果てていた生徒からすれば何ともありがたい、台詞だと思う。だが、僕はここで自分の足を止めようとは思わなかった。


 僕は少し控え目に言った。更なる敵を作ると、後から大変なので。

「ありがたいですが、まだ見て回りたいので…」


 少年は納得する顔をした。

「そうか。また何か困った時は言ってくれ、仲間だから」

 と、言ってもらえた。


 僕は昔の癖で、軽くお辞儀をしながら、歩き出した。風が吹き、周りを見ると端の花壇に花が咲いていた。未だ、綺麗な面もまだ残っていると分かった。が、何となく、今更そんなものを見せられても困る気がした。







 図書館に足を踏み入れると、利用していた在校生がこちらを見ていると気付いた。


 彼らもこの時間に来る、見ない顔の意味などすぐに分かるのだろう。去ろうとせずにいる僕に、誰かが舌打ちをした。忠告のように、わざと聞こえるように。だが、僕は動じなかった。こんな脅迫で足を止めるべきではないから。


 すると、向こうから一人の柄の悪そうな、少年が歩いて来た。

「おいおい、何でここに劣等生がいるのだ。同じ空間にいれば、こっちが吐きそうになるだろう」

 と、またもやわざとらしく、肩を押して来た。


 どの世界でも、こう言う人は常に同じであるのだった。怯えない僕に、少年は更に力を込めた。

「おいっ。劣等生のくせに何だその面は? 俺を見下してるのかっ…どこまでも生意気のようだな、今回の新入生の劣等生は」


 少年は制裁を与えようと、手を上げた。そして、当てる瞬間に、

「止めなさい!」

 と、声が掛かった。


 驚いた少年は動きを止めた。奥から男性の司書さんが現れた。その顔は誰が見ても分かるほど、怒っていた。

「ここは図書館です。煩くする人はすぐに出て行きなさい」


 少年は何かを言い返そうとしたが、僕を一睨みしてから出て行った。


 少年が去るのを見ていた司書さんが、こちらを見た。

「君がレイだね。君の事は聞かされているよ。だが、図書館では誰もが自由だ。好きに本を読むといい、誰も邪魔はしないだろう」

 と、中立派らしい意見を言った。


 もしかしたら、余り興味のない人かもしれない。が、普通の人もまだこの学園にはいるのだった。





 僕は行こうとする司書さんに言った。

「魔法に関する本はどこにありますか?」


 今日は興味のある事を調べる日に使おうと思った。先生に聞きに行くのも、少ししにくいから。


 司書さんは少し驚いていたが、本を読もうとする僕に笑みを浮かべた。

「本を読むのはいい事だ。あっちの方にあるよ」

 と、図書館の奥を指差した。



「ありがとうございます」

 そう僕が言うと、司書さんは遠慮するように、両手で自分の前で振った。


「そんなに固くならなくていいよ。本は誰に取っても、平等だから」

 その言葉は僕に取って、何とも嬉しいものだった。

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