アレスとジーク
「夕飯は部屋に運んでもらうよう、頼んどいたぞ」
と、ジークが何故かドヤ顔で言って来た。
この短時間で以前の姿に戻りつつあった。
「そうか…ご苦労さん、ジーク。そして、ありがとう」
「何も大した事ではないよ」
と、またもや嬉しそうに反応する。
すると、横から盛大な溜め息が聞こえて来た。犯人はただ一人、椅子に座る少年のアレス。眼鏡を掛けるジークではない。
「どうしたのだ、アレス?」
ジークが首を傾げさせた。彼からしたら、当然の反応とも言えた。
「本当に嫌いになりそうだ…実はいい人と分かるけど」
と、アレスはまだ先程の事を許せていないようだった。
また盛大に溜め息を付き、頭を押さえている。そして、今度は両手を広げて、何かを言い出しそうだった。
「なあ、レイ。彼はどうしたのだ?」
流石に何かを感じた様子のジークが呟いて来た。アレス本人には聞けない様子だと、理解しているようだった。
「それは……ジークの色々が問題らしい」
「ふーん。そうか。まぁ。今から始まった訳ではない……でも、ちょっと困るな」
と、ジークは視線を動かした。
そこには何かに取り憑かれたように、アレスがまだ儀式を行なっていた。下手をすれば、人生で初めてと言えるほど、彼は盛大に何かを感じているようだった。
幸い、他は誰も見ていないだけいい。賢者のアレス・フェッツとは、印象が少々掛け離れているから。逆に僕らだから、彼を理解出来ていた。
「あー何で、もう…」
と、アレスの口からぶつぶつと呪文が続く。
ジークが小さく、彼の肩を叩いた。すると、大きく頭を向けて来た。これがハロウィンなら、相当怖そうだった。
「何? ……元を言うと、全てはジークが悪いだよ」
そうアレスが呟いた。
だが、言われたジークは困惑していた。
「え? 何でだ? 何をしたと言うのだ?」
ジークを無視している様子のアレスが、僕を見て来た。
「レイと話をしている時に、勝手に割り込んだ。それだけでも、駄目である。次からは、扉を叩いて」
「あーうん。分かった」
ジークはアレスを落ち着かせる仕草をしながら、同意した。
するとアレスは納得したような、顔をした。
「うん。それでいい。なら、始めからそうしていてよ」
と、まだ少し不満のようだった。
「ははは」
僕は遂に、自分を抑えれなくなった。
普段とは違うアレスが見えた事もあり、僕は我慢が出来なかった。
「何よ、レイまで」
と、アレスは少し不満のようだった。
僕はジークの様子も面白かった。あそこまで言われるとは、思っていないかったから。
「ごめんごめん。二人とも仲良くしているようだったから。それで安心出来たよ」
「そうなの? それはよかった」
と、顔を上げたアレスが反応した。
僕はジークを今度は見た。
「ジークもわざわざありがとう。これで安心して、夕飯が食べれそうだ」
「それはよかった。いつでも任せてくれ」
と、ジークも嬉しそうな顔をした。
「ほら、二人も仲直りして」
と、僕は二人を見ながら言った。
「「仕方ないな…」」
二人はそう同じように呟いた後、顔を合わせていた。




