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アレスとの一時

 ジークが去った扉を眺めていたアレスが、ふと僕の方を見た。

「レイの椅子を借りてもいい?」


 僕はそれが大した事ではないので、普通に頷いた。ベッドに座ったとしても、いいぐらいだった。


 アレスは椅子を運んで来ると、そこに座った。先程まで立っていた事もあり、いきなり体の大きさが小さくなった印象を受けた。彼は外の窓を眺めてから、また僕の方を見て来た。


「ここでレイが倒れていた時があったよね…あの日から大して時間が経っていないとは、信じられないぐらい。だって、今はその彼と仲良くしているのだよ」


 その彼とは、あの襲撃を企てた犯人である、ジーク。今の様子から考えると、つい先程とは別人に見える。


「人は変わる、と言うだろう? ジークもそう言う風に変化したのだ。もしかしたら、最初から彼は今が本当のジークかもしれない。昔はただ周りに流されていたかもしれない。でも、どちらが正しいとも限らない。どちらも彼であるのは、確かだから」



 少し下を見ていたアレスが、小さな笑みを浮かべていた。

「レイは、やられた事に対して何も思わないの? もう、過ぎ去った事だとしても、やられた事は変わらない…」


 僕は外を眺めながら、答えた。

「そう捉える事も出来るよ。だけど、彼がもう悪人ではないと、この目で見れば分かる。なら、もう許して上げてもいいのじゃない? 彼は先程、僕をわざわざ守ろうとした。この差別が激しい学園の中で、自分の事など気にせず。ただ、友達のためと言うだけで、彼は行動を起こした。それだけでも、何とも見習いたくなるよ」


「それは、分かるけどまだ心の奥は、ジークを許したくないと思うのだよっ」

 と、アレスは拳を握っていた。


 その顔は、何とも壊れそうな繊細なガラスのようだった。


「なら、今からそれを考えたらいい。ジークの全てを見届けてから、答えを出したらいいのだよ。何も、今、答えを出せと言われている訳ではない。それにアレスは本当は彼を信用出来ると、分かっているだろ?」


 アレスは頷いた。

「うん。それは、そうだよ。じゃないと、ダンジョンで彼と背中を合わせて、戦う事など出来なかった。彼はいい人だったから、出来た」


「全てはそう言う事だよ。何も難しく、考えなくてもいい。ジークももしかしたら、同じように考えているかもしれないから」


 アレスがはっと顔を上げた。その顔は先程よりかは、ましになっていた。

「そうか…そうだよね……でも、最近思っている事なのだけど、何かレイが自分から遠ざかって行くのを感じるのだよね。更に強くなるほど、僕との間が出来て行く」


 僕は小さく頷いた。それは自分が懸念している事でもあった。やっぱり、起こっていたのだった。


「そう言う事が起きるとは思っていたよ…」


「レイが悪い訳ではないよ。それが元々のレイの実力だから。僕らに合わせてくれていたのだよ」

 と、アレスが申し訳なさそうな顔をした。


 が、僕は何か勘違いされていると思った。


「アレス達が使う魔法、詠唱魔法はあれが僕の実力だよ。初級しか使えない、劣等生と呼ばれるぐらい。でも、アレス達とは違う魔法、無詠唱魔法が他より出来るだけ」


「だけど、レイは凄いよ。ダンジョンでも僕らの事を考えて動き、何度も守ってくれた。僕にはない力がある」

 と、アレスは僕を直視した。


 その瞳は強い信念があるようだった。


「そう? なら、アレスもジークも同じぐらい僕とは違う、僕が持てない素晴らしい力を持っている。その事は忘れないで」



「…僕もレイのようになれると言う事?」


「うん。それだけの素質を最初から持っている。ダンジョンでそう感じたよ。だから、いつでも僕のようになれる。いや、僕以上になれるよ」


「本当? よかった。そこまで言われた事なかったから。ありがとう、レイ」


「どういたしまして」


 僕は彼に笑いそうになった。それほど、いい顔をしていたから。



 すると、アレスが口を開いた。

「ねぇ、レイ。聞いてもいい?」


「ん? いいけど、どうしたの?」


 少し視線を伏せてから、アレスは言った。

「あの時、ダンジョンで何があったの?」


 それはいつか聞かれる事だった。僕はどう答えようか、悩んだ。


 だが、最後には答える事にした。

「それは…」




「もう、大丈夫か…レイ?」

 と、ジークが扉を開けた。


 僕の声は彼の音で掻き消された。


「もう、ジーク。嫌いになったよ」

 アレスが不機嫌そうな顔と声で、吐き捨てていた。


 よほど、最悪なタイミングで彼が現れたからだろう。


「どうしたのだ、お前達…」

 と、ジークが不思議そうに呟くのが聞こえて来た。



 僕が手招きすると、彼が開いていた扉を閉めて、部屋に入って来た。依然、アレスの機嫌は治りそうにない。


 そんな中、ジークが僕のベッドに腰を下ろした。その顔はまだ、よく分かっていないようだった。それもなんとも、彼らしいと言えた。


 僕は小さく笑い声を上げた。

「もう、止めてよ、レイ」

 と、聞こえた。

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