表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/133

掛け替えのない友達

 アレスの率先で彼らは素早く寮に入り、僕の部屋に入った。

 ジークも襲撃を企てた事もあり、その歩みに迷いはなかった。僕が運ばれて行くのを他の生徒が不思議そうに眺めていた。だが、アレスとジークの顔を見て、何も言う様子はなかった。


 ベッドに近付くと、アレスが布団を取った。その次に、ジークが僕をゆっくりと寝かせた。何とも丁寧に彼は布団を掛けてくれた。


「今は安心して、寝ていたらいい」


 レイの剣は近くに置いとくな、とジークは腰から剣を取ると、壁に立て掛けた。一応、手に届きやすい場所に置いているのも、彼の気遣いのようだった。


「今日は静かにして、魔法を使わない方がいいよ」

 と、ジークの隣に立っていたアレスが、呟いた。


「そうか? ……まだ、大丈夫だと自分の中では思うのだけど」


「さっき、死にそうになっていたのだよ。だから、レイのためにも僕らのためにも、危ない事はしないで」

 と、アレスが僕の胸を締め付ける顔をした。


 それをされたら、何も言い返せなかった。

「分かったよ…分かったから、な? その顔は止めてくれ」


「なら、いいよ」

 と、今度は綺麗な笑みを彼は浮かべた。


 本当によく僕の事を理解しているだった。

 色々やられているな、とジークが小さく呟いた。流石に僕は何も返せなかった。




 扉が開くと、一人の少年が顔を出した。

「ジーク様。大丈夫でしたか? 劣等生を背負うなど、どうしても信じられません。彼は何も危害を加えませんでしたか? もし、行ったのならいつでも我々は出動出来ます」

 と、ジークのファンの一人のようだった。


 それも、ジーク直属の精鋭部隊の隊長らしい人物だった。その顔は自分の言葉に疑いがなく、ジークへの思いも同じようであった。


 彼の言葉を聞いていた、ジークが眉を上げた。どこかに不機嫌と思う、言葉があったようだった。


「ーーその言葉を取り消せっ」


「え?」

 と、その少年は声を出した。


 そう言われると思わなかったのだろう。


「彼を差別するとは、あるまじき行為だぞ。お前は私の行為を否定する事になるのだ。それを理解した上で述べているのか?」


 ジークは静かに少年を睨んでいた。ダンジョンで過ごしたその短い時間から、彼は大きく成長したのだった。だけど、人によればそれは悪い方に変わったのかもしれない。


「…ジーク様、よろしいのですね。劣等生を擁護する、と。それを取り消すつもりはないのですね?」


「あぁ。ない。だから、わざわざ繰り返すな。私はそう言う二度手間が大っ嫌いなのだ」


 少年はぴしっと、敬礼をした。

「ジーク様。これまで、ありがとうございました。ですが、私自身とは合わないと思いましたので、新鋭隊精鋭部隊の隊長は辞めさせていただきます。どうか、よろしくお願いします。私はもう、ジーク様に絶望したくありません」



 一気に部屋の温度が下げるのが、感じ取れた。全てはジークから発せられる、殺気とも言えるオーラからだった。彼は拳を握りながら、短く言った。


「分かった。なら、咎は後から知らせる。自室で待機するように。これまで、ご苦労だった」


「はっ。恐縮です」

 と、少年はジークを一度見ると、早々と去って行った。




 扉の閉められた音が、ただ部屋に響いた。溜め息を付きながら、ジークがこちらを振り向いた。

「済まない。悪い気持ちにさせたかもしれない。自分の新鋭隊が邪魔になるとは、初めて思った。だが、レイを否定する者は嫌いだ」


「新鋭隊もただジークの事を第一に思っているだけだよ。だから、そこまで嫌いにならなくてもいいんじゃない? 上と下とで、揉める事はよくあるよ」

 と、一番にアレスが口を開いた。


 彼は自分の臆病心をもう克服出来たようだった。それか、本当にジークの事を心から理解しているようだった。


 下を見ていたジークが、頭を上げた。

「そうなのか? 私には分からない。ここまで何かを思った事も久しぶりであるからな」


「…ずっと、周りに流されていたと言う事か」


 そう僕は呟いた。自分とは完全に真逆の人生の過ごし方を彼はして来たようだった。


「そうとも言えるな。私が知らない事はまだまだ世界にあると、気付かされたよ、レイ。それを教えてくれたお前は大切な人だ。だから、それを悪いように言う人は頭から嫌になる。お前と出会えた事には、何か運命も感じてしまうぞ」

 と、ジークは最後で小さく笑みを浮かべた。



 様々さ事に板挟みにされながらも、彼は無理矢理元気そうな顔をした。先程のアレスとも似た顔で、僕は目を背けたかった。だけど、それはよくないからただ見つめていた。


「でも、いいのか…ジーク。これから僕のせいで、大変な目に合うかもしれないのだよ?」


「レイのせいではない! これは私が自ら行う事だ。だから、気にしないでくれ。意外とこう言う、他とは違う事を行う事に、実はわくわくしているのだ」

 と、今度は本当の笑顔をジークは浮かべていた。


 それを見て、僕は少しだけ安心した。二人とも掛け替えのない、僕の友達だった。




「少し、行ってくるな」


 ジークはそう言うと、どこかに去って言った。



 僕はアレスと共に、その背中を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ