第七層、一斉総攻撃
疲れ顔のジークが僕をじっと見つめていた。
「なぁ。レイ。次のフロアはお手本を見せてくれ…出来れば、派手にやって欲しい。頑張ったのだから、僕らもそれぐらいしてもいいだろう?」
それだけでジークの疲れようはよく分かった。どこか遠い果てを見る目で、一人称が元に戻っている。頑張った彼らには、「頑張ったで賞」でもあげないといけない。
僕はアレスの方も見た。
「アレスはどうしたい? 僕が暴れているだけのを、見たいの?」
「うん。一度ぐらいドカンと行くのは、見てみたいね。他では見えそうにないし、今だけなら見えそうだから」
「なら、いいよ」
と、僕は言いながら、下への階段を降りて行った。
足を踏み入れる前に僕は彼らに近付いた。
そして、完全な攻撃無効の魔法を発動させた。その上に、大きな円形の盾を作り、彼らにはそこに待機してもらった。それにもちゃんと何重にも盾を発動させた。最後には、消去魔法も発動した。視界をクリアに保つために。
彼らに攻撃が効かないとしても、魔物の血や肉が飛んで来るのは、決していい光景とは言えないから。それで気絶させられたら、自分が困るのだった。
「厳重だな、レイ。そこまでする必要がある?」
と、ジークは見ながら呟いた。
それが普通の意見であった。が、僕はそれに構う時間は余りなかった。
「死にたくないのなら、黙っていてくれ。気持ち悪い光景を見たくないのなら、同じようにしてくれ」
「どうしたの、レイ?」
と、僕の何かを感じたいアレスが、心配そうにこちらを見た。
「…赤の剣を使うのだ。だから、最大の警戒をしなくてはならない。以前は死ななかったとしても、今回はどうなるか分からないから」
「凄く怖い剣なのだね」
「あーそうだよ。アレスのとは真反対で、何百倍も危ない。自分がしでかした事が今となって、やって来る感じだよ」
ーー赤の剣。僕のは本当は、非常に血に飢えている。殺戮な特に悪趣味で残酷な事に。
自分の剣の持ち主さえ、この世から消し去ろうとする。以前は、腕を一本持って行かれそうになった。
と、言っても可笑しくない。使い終わった現場はいつも、酷い有様である。
「二人も警戒してくれ。危なくなったら、どうにかするけど」
今回は前回から学んで、大丈夫そうだった。
僕が足を踏み入れると、何匹もの魔物が現れた。これまでのフロアで見て来たタイプだった。先程のフロアの二倍か三倍ほどいた。これは油断させていたものを、瞬殺するタイプのフロアだった。
なんとも悪趣味である。だけど、僕の剣も同様と言えた。
一斉に襲い掛かって来る魔物らを目前に、僕は赤の剣を取り出した。どこまでも赤黒く剣は発光していた。勝手に戦う場所だと、理解しているようだった。
「魔物よ、赤く踊れ」
僕がそう呟くと、赤の剣が一人でに剣先を魔物に向けていた。
次の瞬間、爆発が起こった。
僕が腕で顔を覆ってから、辺りを見るともうそこは血の海に化していた。先程までいた魔物は全部、地に伏せていた。
僕が当時圧倒的過ぎる力で行っていた事により、この剣もとんだ化け物であった。通常の赤の剣より、何倍も凶暴で、危険だとよく理解出来た。幸いなのは、この力が所有者だけにしか使えないと言う事。他からすれば、ただの剣にしかならない。下手をすれば一切役に立たない。
「くっ…」
僕は自分が派手に吹き飛ばされたと、すぐに気付いた。魔物を倒し終わった赤の剣は暇になり、早速次の何かを壊しに向かった。それが僕である。
魔法で衝撃を抑えられたとしても、吹き飛ばされて嬉しい人はいない。もう自分は魔法が必要な体となっていた。それがなければ何度死んだか数え切れないほどである。
僕は立ち上がると、無理矢理飛んで赤の剣を掴んだ。これにはどちらが上かを、武力教える必要があった。
だが、その間に何度も手を吹き飛ばされる。だけど、魔法ですぐに修復される。だが、何度も行う事でそこにタイムラグが生じると、本来の痛みがし始める。
「くそっ。痛っ」
でも、僕は手から赤の剣を落とさないようにした。落とせば、もう次にどうなるか分からないから。
「静かにしろ!」
と、最後には赤の剣から発光する色が消えた。
これで、凶暴化を抑える事が出来た。が、結果は以前と余り変わらない。ただ手が爆破される回数が抑えられただけだった。
少し安心しながら、僕はその場にしゃがみ込んだ。服もどこも汚れていない。だが、心はまだ治る様子がなかった。すぐに忘れそうだった、アレスとジークも魔法の檻から解放させた。
すると、二人は必死に走りながら、やって来ていた。
少し離れた僕はその景色を、ただ眺めていた。
暗くなる視界の中で頭を押さえると、魔法で直した。
瞬く間に、心も体も以前と何も変わらない状態に戻った。
それが、いつもの僕だった。
だけど、自分のために走って来てくれている彼らの姿には、温かい何かがあった。
自分一人では感じる事の出来ない、仲間がいる事で分かる事だった。
一瞬だけ僕は、故郷の景色を思い出していた。
そして、母が優しい笑みを浮かべてくれていた。




