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誰が宝箱を開けるか

 僕らは宝箱まで行くと、顔を合わせた。全員がじっくりとお互いを見つめていると、よく感じ取れた。

 その一瞬は何時間にも感じ、誰かが唾を飲む音がした。


 アレスは一度手を伸ばしたが、すぐに直した。


「あっ…何で直すのだ、アレス?」

 と、ジークがアレスを見た。


 アレスは必死に反論した。

「だって、怖いんだから。得体の知れない物は、軽々しく触れないよ」


「そうだよ、ジーク。それは言い過ぎだよ」


 僕はノリでもうすぐ、彼の横腹を突きそうになったが、直前で抑えた。

 それを行なったらアーネストの名の元、串刺しにされそうだ。貴族としてのプライドが僕を許しなさそうな気がした。手が無意識に剣の柄の近くにあるとは、怖すぎる。


 すると、僕の考えを読み取ったように、ジークがこちらを見た。そして、何故かアレスも同じ顔をした。


「「レイには言われたくない」」

 と、二人が全く同じ言葉を叫んだ。


 それは深く僕の心臓に刺さった。自分が倒れないのを何とか支えるので大変だった。レイの性格が崩壊しているぞ、とジークが後ろで呟いていた。



 一瞬で息を吹き返した僕は、視線を上げて彼らと向き合った。

「分かったよ。なら、僕が今日は宝箱を開ける。最初に意見を述べた責任を取って、死ぬかもしれない危険な橋を渡るよ」


 ジークは両手を自分の前で振った。

「いやいや、さっき一切怖くないと言っておきながら、今は死ぬかもしれない…とな。レイ、その魔法は何のためにあるのだ? 早く終わらせよう。入り口で衛兵に止められなかったと言う事は、そこまで死者は出来いない。つまり、比較的安全なダンジョンのはずだ。それにお前は、もうダンジョンを一つ完全攻略しているのだろ?」

 と、最後は睨んで来た。


 正論を打つけながら、そこまで言うとは怖い人である。

「そうだな…はい。やります」

 と、僕は宝物に手を付けた。


 アレスの顔は見ない事にした。久しぶりに楽しい事をしていると、少しハメを外し過ぎたかもしれない。たまには自分が若い事を、改めて気付かされた。



「ボンッ」

 と、宝箱は大きな音を立てた。


 ダンジョン内が白い煙で包まれた。僕の姿は完全に彼らから見えなくなった、ようだった。


 ジークの声が聞こえて来た。心配しているようより、ただこちらに叫んでいた。


「おい、大丈夫か。レイ」


「大丈夫?」

 と、アレスも心配そうな顔をした。


「うん。大丈夫だよ」


 僕は魔法で煙を消し去りながら、答えた。少しして、視界がクリアになった。次いでに他の物質も消えたかもしれない。窒息死していないのが、幸いだなと僕は心の中で思った。ちゃんとその煙だけを消すようにしていたから。


「ふう…これが、宝箱を開けた時によくある初心者への嫌がらせだ。ほら、死ぬ事はなかっただろう?」

 と、僕は自分が無事なのを二人に見せた。


 するとジークが睨みながら、言った。

「そうだけど、最初は凄く驚いたからな。ここでお前が死ねばどうなるか、本当にどっきりしたのだぞ」

 と、口調が普段通りに戻りつつあった。


「僕も一瞬視界が真っ白になったよ」

 と、アレスも言ってくれた。


 僕は彼らに解説した。

「だけど、この先はより危ないトラップに遭遇する可能性があるのだ。例えば、魔物が飛んで来たり、毒ガスだったり。この第五層だけが最初の可愛いドッキリなのだ」


「そう言う事は最初から知っていたと自分で認めているのだな」

 と、ジークが鋭く指摘した。


「あぁ……そうだな。そこまで考えてなかった。矛盾だな」

 僕は恥ずかしくなり、頭を掻いた。


「分かったのなら、いいよ。そんなに気にする事でもない。仲間をただ攻撃する人など、誰も必要としない。間違いを指摘して、正しい方向に導く人がいるのだ。それを私は大切にしたい」


 ジークの願いは誰にもひしひしと伝わった。それは何とも純粋で、今の学園の現状とは真逆だった。





 僕らが宝箱を見ると、そこには一本の剣が置かれていた。僕はそれを取ると、アレスとジークも見えやすいように近付けた。


 白色の鞘には、純白とも言える剣が納められていた。悪に一切染まらない様子は、綺麗だった。暗い雰囲気のダンジョンに、光る一本。

 それは夜空に輝く満月のようだった。


「これは…始まりの剣だな」

 と、僕は呟いた。


 僕の呟きをアレスが拾った。

「始まりの剣?」


「そう。第五層までの戦闘記録から、与えられる剣を審議される。この白の剣。それは友情や、協力などの綺麗な心を表すのだ」


「レイは一度与えられた事があるのか?」

 と、ジークが聞いた。


「うん」


 僕は収納魔法から、自分の始まりの剣を取り出した。今にも飛び出しそうな、赤い炎を中に宿しているような剣だった。


「赤い…」

 と、アレスの口から言葉が漏れた。



「僕のは、赤の剣。圧倒的な攻撃により、貰う事が出来るのだ」


「そうか…よく分かるぞ」

 と、何かを想像したジークが小さく呟いた。

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