第三層、ヘルウルフ
無事第一層と第二層をクリアした僕らは、顔を合わせた。
何ともすっきりした顔をしているとは、誰が見ても言うと思った。もう少しで僕ら三人は、剣を抜いて勝利の宣言をしていたかもしれない。万全の調子で行うために、始める前に小型ポーションを飲んだ。そして、体の疲れを取った。
「体調は万全か?」
と、僕はアレスとジークに聞いた。
「「万全だよー」」
二人とも何とも元気そうに、返事をしてくれた。
「よし。なら、次は第三層。何が現れるかなぁ…」
と、少し悪戯顔をした。
これはジークを真似て見た顔である。が、本当の人とは似ても似つかないかもしれない。まぁ。そこはどれでもいいけど。
腰に手を当てながら、ジークは答えた。
「スライムとゴブリンではない事は、もう決まっているよな」
アレスも頷いた。僕もそう思うと、呟くと言った。
「やっぱり、四足動物のイメージが強いかなぁ…そう言う魔物と言えば、何があったっけ?」
「うーん。ヘルウルフとか?」
と、ジークが答えた。
ヘルウルフ。それは地獄の狼と呼ばれる。動きがすばしっこくて、一度噛み付いたものは何があっても離さない。血のためなら、死にものぐるいになる魔物だった。だから、結構危険視されている魔物である。
僕は頷きながら、答えを言った。
「正解! そう。第三層はヘルウルフだよ。頑張れっ」
ジークが鋭く指摘した。その目も同様に鋭い。
「いや、そんな簡単そうに言わないでくれ。ウルフだとしても、第三層にいると言う事は、ゴブリンより強いのだろう?」
「あーそうだね」
と、僕は頷いた。
今度はアレスが、質問して来た。
「僕らでも勝てる可能性はある?」
「あるよ。ゴブリンより強くて速い。と、言う事は自分のスピードを上げればいいと言う事」
「いやいや、そんなにすぐに出来る事ではない。レイだから何とも簡単そうに言っているのだ」
と、ジークが不満そうに呟いた。
アレスがすかさず、フォローに入ってくれた。
「まぁまぁ。ジーク。レイだから仕方ないのだよ」
だが、僕に対しての諦めが感じ取れた。一切、フォローになっていない。
「ちょっと、アレス。酷いよ」
と、僕は下を見ながら言った。
すると、ジークが口を挟んで来た。
「私の事はいいのか?」
「なら、ジークも二人とも悪い……まずは頑張って見たらどう?」
「だ・か・ら…そんな簡単そうに言うなっ」
と、まだジークの調子は直らない。
「…じゃあ。僕が行ってみる」
と、さっきまで余り前に出て来なかった、アレスが言った。
流石のジークも少し驚いた顔をした。やっぱり、アレスらしさが少なかったからだろう。
「え? いいのか?」
「うん。一度ぐらい自分の限界を確かめても見たいから。それにレイがいれば、大丈夫でしょ?」
と、アレスは正面から正論を打つけた。
ジークは渋々頷いていた。
「分かったよ…でも、気を付けろよ」
と、仲間思いの所は変わらなかった。
「ありがとう…」
と、アレスが小さく呟いた。
やっぱり、友好関係は絶好調のようだった。よかよかと僕は思いながらも、眺めていた。
アレスが第三層に一歩踏み入ると、奥から狼の鳴き声がして来た。可愛いタイプではなく、喉の奥からの威嚇と思われるものも、混じっていた。
立ち止まっていたアレスは、剣を抜くと構えた。ちゃんと魔力は即座に、纏っていた。今回は近接戦闘になる事も考えて、魔力を伸ばしたりはしていない様子だった。
ヘルウルフが更に近付いて来る。
当たると思われる瞬間に、アレスは剣を振り下ろした。
「キャンッ…」
見事に先頭の一匹を、真っ二つにした。
そして、走りながら、更に迫って来るヘルウルフの仲間を、切り伏せた。動きに無駄はどこもなく、ただアレスの攻撃が圧倒的だった。
ふとアレスが動きを止めたかと思うと、下にはヘルウルフの死骸だけが散乱していた。
何とも効率的な戦い方を、アレスはしていた。それはジークとも異なる。アレスだけの個性でもあった。
もし、そこで血が顔を付いていたら、より景色は面白くなっていたかもしれないのだった。
「よし、終わったよ。撲滅!」
と、彼は笑顔で言うものだから、もっと調子が狂うのだった。
あだ名を付けるとしたら、血の貴公子、あたりが最も似合っていた。
僕とジークはただ呆然と彼を見ていた。何か新たな面を見てしまった気がして、彼に悪い気がした。
ダンジョンにいる事もあり、人の普段とは違う面が見えるのだろう、か。




