魔法使いの狩り
そして、次の放課後。
僕らはまたダンジョンに来ていた。
五分前集合は不思議な事に誰もが行っていた。狩りへの意欲が感じ取れる。学園の方は特に何も変わらず、まだ関係は何一つ改善していなかった。だが今はそれよりもした事があった。
それが、このダンジョン探検だった。アレスとジークの実力を上げる事。それは僕の中では何よりも最重要課題であった。
昨日は狩り人らしい視点からの魔法使いの狩りだった。が、今回は全面的に魔法使いの狩りを教える方向だった。どのような戦い方も習得した上で、一番自分に合う戦い方を理解して欲しい。僕にはそのような思いがあった。人によって、戦い方は違うから。
連日訪れる僕らに、衛兵はもう分かってくれたようだった。ただ元気そうにしているだけでも、いいのかもしれない。
先日は二人に物を持たせてしまったから、今回は素早く自分が収納魔法に入れようと考えていた。
僕は二人に言った。
「今日は魔法使いらしい戦い方を教える。だから、どちらが第一層と第二層を攻略するかを決めてくれ。ドロップした物は僕が回収するから、そこは気にせず狩りに集中してくれ」
「分かった。なら、ちょっと待ってくれ…」
と、ジークが返事をした。
そして、二人はどちらがどの層をするかを話し合った。比較的な簡単なスライムのいる第一層。少し手強いゴブリンのいる第二層。核を壊せば済む第一層と、首に切り掛かれば終わる第二層。完全に安全な場所と、まだ危険が多い場所。二人はその危険性を理解した上で、考えていた。
少しすると、ジークが僕に目を向けて来た。
「第一層はアレスで、第二層は私がする」
と、それは僕が一番予想していた答えだった。
僕は条件を一つ付け加えた。
「今回は魔法をより利用する、戦い方をする。だから、魔法を使用する。それに、ただ大きなのを放つのではなくいかに、効率よく行うかが重要である。でも、剣を忘れてはいけない。昨日習った事を応用する事は、いい事だと思う」
アレスとジークは頷いてくれた。
僕は手本に掌に魔法を発動させた。ここでこの層にいるスライムを倒せば、攻略しようとしているアレスに申し訳ないだろう、と思い、僕はわざと殺めない事にした。細い針のような飛行物が、現れる。濃度の高い魔力で出現されたものだった。
「このような細いのを生み出して放てば、魔力の消費を抑える事が出来る。必要なのは、どれだけ巧妙に作れるかと、いかに正確に当てるか。当てれずに幾ら当てたら、魔力を抑えた意味がなくなる」
僕の魔法をじっと眺めていた二人は、必死に魔法を作るのに励んでいた。彼らは剣から漏れる魔力を抑える事も行っていたので、比較的すぐに行えるようだった。後はいかに僕のを真似出来るか、だった。コツを掴んだ様子の彼らは、意味ありげに頷いていた。
「やってみる、アレス?」
と、僕は聞いて見た。
新たな魔法を習得したアレスは、力強い目を向けて来た。
「うん。後はいかに出来るか…まずは頑張って見る」
深呼吸をしたアレスが、片手を突き出した。
「【魔法の針】」
掌に構築された魔力の針が、正確にスライムの核を砕いた。綺麗にやられたスライムが、小型ポーションを落とした。僕はすかさず回収した。少し自信を得た、アレスは他の方向にも針を放った。
だけど、少し場所がずれた針は核を壊すまでにはいかなった。ただ魔力の針が、スライムの体に飲み込まれた。次のを放っても、バリアにより防がれた。
「…何で?」
と、アレスが小さく呟いた。
それはスライムによる魔力の壁だった。スライムは小型の魔物である代わりに、少しややこしい特性を持つ。
「スライムは吸収したものを理解する。だから、魔力の針を吸収したスライムは、魔力や魔法に対抗する力を得た。もう、魔法も効かないよ。後は物理的な攻撃だけだ。これがスライムの困る、特性。いかに早く対処するか…」
僕はそのスライムを眺めながら、説明した。こう言う事が起こるから、剣も魔物の狩りには必須である。
魔法の攻撃を諦めた、アレスは素早く剣を抜いてスライムを倒した。
後は魔法を気を付けて使用する事で、アレスが剣を再度使用する事はなかった。彼の顔から、何か新しい事を理解したようだった。
第二層に進むと、ジークが僕の方を見て来た。僕はもうダンジョンでのガイドとして、稼げそうな気もしてきた。でも、彼らが優秀だからだろうとその考えは止めた。
「ゴブリン討伐で気をした方がいい事はあるか?」
僕は考えながら、答えた。
「うーん。ゴブリンは時間が勝負である。仲間を呼ばれると一気に襲われる事がある。だから、小型だとしても侮れない。数が大き過ぎる場合は、大人数で討伐する事があるほどだから」
「そうか…ありがとう。なら、すぐに片付けようか。アレスがもうかっこいい場面は、取ってしまったようだし」
ジークは剣を引き抜くと剣を振りながらも、途中で魔法を詠唱した。複雑な技である、色んな種類の魔法を発動させていた。視界の邪魔にあるゴブリンの首を魔法で刺すと、今度は別の魔法で足止めを行った。これまでのジークの経験がよく現れた一局だった。
僕とアレスが見つめている内に、ゴブリンは倒されていった。そして、最後の一匹をジークは見事に切り倒した。
その背中を見つめながら、僕は魔法ですぐにドロップ品を直した。
「おつかれ」
僕はただそれだけ言った。
すると、ジークは何とも爽やかな顔をしていた。
初めて、自力で行った戦いと言う事もあるからだろう。




